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最近読んだ面白い本

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

ブログを書く時間がなかなかとれないので、お勧め本がたまってきた。
ここにまとめて公開しましょう。

まずは本ではないけど、「本の雑誌」3月号
今月は珍しく発売直後に買った。
お目当ては宮田珠己の新連載「スットコランド挿絵月報」。
これはまた不思議な連載である。
文章は読書感想と日常エッセイをプラスしたものだが、そこにさらに「挿絵」が入る。
しかも、それは内容とは無関係(だと思う)のヨーロッパ中世の木版画を宮田部長が
自分で模写したものなのだ。
手が込みすぎだ。
相変わらず、孤高の独自路線というか、採算を度外視した趣味路線というか、
部長、生活はどうなの?と思わず問いかけたくなるが、
読者としてはもちろん嬉しい。
部長の絵はほんとうに珍妙な味わいがあるよなあ。

原田マハ『楽園のカンヴァス』(新潮社)
。原田マハという人の作品は初めて読んだが、
こんなに堂々としたミステリを書く人だったのか!…と帯にある大森望のコメントと同じ感想を抱いてしまった。
私は美術そのものにはあまり興味がないのだが、作家としての画家や美術家の話は大好きだ。
そこには物書きにも共通したドラマや葛藤があるからだ。
アンリ・ルソーという超有名らしい画家の名前さえ初めて知ったが、存分にその絵を堪能した気分だ。
佐野眞一『あんぽん』(小学館)
久しぶりに佐野眞一を読んだが、やっぱりこの人は文章がうまい。
論理は強引だし、孫正義というより父親の三憲の評伝のようだが、それでも読ませてしまう。しかし、孫正義は佐野さんとスタッフライターがこれだけ取材しても後ろ暗い部分がまるで出てこない。参りました。

東野圭吾ほどの大ベストセラー作家の本を読んでもしょうがないと思うのだが、
つい、年に何冊かは買って読んでしまう。実力がずば抜けているからしかたない。
この『歪笑小説』(集英社文庫)は、文壇のパロディで、関係者としては背筋が凍るような話が連発されている。
中学生が会社見学で「灸英社(きゅうえいしゃ)」の文芸誌編集部を訪問し、
編集者に、「誰も読まない文芸誌を何のために出しているのか」と詰問されたりするのだ。
こんなにブラックな小説はない。
でも、毎回必ず思いもよらない展開で、文芸の世界が好きになるように落ちていく。
超絶的な技巧だ。
4087744000
誰も賛同しないだろうが、東野圭吾の最高傑作は『白夜行』でも『容疑者Xの献身』でもなくて、本書じゃないかと思うくらい。

水谷秀竹『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)
は、
今年これまで読んだ中でベスト1だった。
丹念に取材してるし、文章がうまい。取材対象との距離感は絶妙である。
フィリピンでにっちもさっちもいかなくなった「困窮邦人」は、日本でにっちもさっちもいかなくなった「困窮在日外国人」とよく似た部分があったのが、私には大いに参考になった。

最後にまだパラパラっとしか読んでないが、「野宿入門」のかとうちあきの新刊『野宿もん』(徳間書店)
この中に、あの伝説の(?)「本屋野宿」の一部始終が記されている。
私は十数時間泥酔状態だったので、よく憶えてないが、そう言われればそんなめちゃくちゃなことだったのかと思い出した。
本屋の前で酒盛りしたり野宿したりしている私たちがおかしいのは当然だが、
そこに通りがかりの人たちがわけもわからず参加してくるのだ。
いったい何なんだ、中井。
もちろん、かとうさんの文章も、他の追随を許さない独自路線。
読むと、仕事をする気力が失せるというスバラシイ効果があります。

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Comment

  1. コシチェイ より:

    AGENT: DoCoMo/2.0 N05A(c100;TB;W24H16)
    アフリカ出身?アブデルラフマン君の四股名が「大砂嵐金太郎」に決まったそうです。

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    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
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