*

海賊の少年とすしざんまい

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

裁判というのはひじょうに傍聴が難しい。
いつ行われるのか直前にならないと公表されないのだ。

前回の海賊裁判でも判決が出る日は私がタイに出発する日で行けなかったし、
昨日行われた裁判も、私は『謎の独立国家ソマリランド』の新聞書評欄でのインタビューを受ける時間とぴったり一致してしまったため
行くことができなかった。

幸い、私のところ(ホーンケーブルTV・東京支局)には優秀な支局員がいる。
週刊SPA!の織田君だ。

彼は毎回、自ら進んで海賊裁判の情報を集め、傍聴に行ってくれている。
幸が薄いのか、抽選ではめったに当たらないという弱点を持つ彼だが、
昨日はようやく当たり、判決を聴いてくれた。

懲役5~9年。
この少年は実行部隊の主犯格とされたが、未成年のため量刑が軽くされたらしい。

海賊裁判はこれで3人の判決が出た。
裁判について素人の私にはよくわからないのだが、今後控訴したらどうなるのだろう。
裁判員裁判ではなくなるのか。
もし裁判員制度ではなくて、二審でひっくり返されたら、あるいは量刑が変わったりしたら、
一審だけで裁判員裁判をやる意味があるのだろうか。

まあ、今回の海賊裁判では「市民の常識」など全く役に立たないので、端から裁判員裁判を行う意味もないのだが。

ところで、私は最近知ったのだが、「すしざんまい」というチェーンの社長がプントランドを訪れ、
漁業協力でプントランド政府と合意したという。

プントランドが実効支配するソマリア沖は世界有数のマグロの漁場だ。
国際的な漁業研究所の報告書によれば、「もしソマリアの海賊がいなかったらマグロは絶滅の危機に瀕していたかもしれない」と
されている。
そこに目を付けるとはさすがだ。
なにしろプントランド政府と海賊は、国土交通省と道路公団のような関係だから、
そこと共同で仕事をすれば、海賊に遭うことはまずないだろう。
ライバル業者も少ないし、マグロ取り放題である。

プントランドも面白いよな~
海賊の少年の実家を訪ねる旅とかやってみたい。
彼の親戚の一人や二人がすしざんまいの下で働くことになってもいっこうに不思議ではないし、
面白い本が書けそうである。

関連記事

no image

驚異の山形勉強会

昨年に引き続き、山形大学医学部の先生主催による「勉強会」にお招きいただき、 週末は山形に行き、今さ

記事を読む

no image

小さいおうち

中島京子の直木賞受賞作『小さいおうち』(文藝春秋)を読む。 まあ、書き出しから文章がすばらしい。

記事を読む

ドンガラさん、15年ぶりの緊急来日

私がかつて翻訳したコンゴ文学の名作『世界が生まれた朝に』(小学館、絶版)。 その著者であるエマ

記事を読む

no image

上智大学で比較未知動物学?

 なぜか来年度の後期(10月〜2月)、上智大学外国語学部の非常勤講師を務めることになった。  大学で

記事を読む

no image

本の雑誌年間ベスト10入り

担当編集者から連絡があり、「アジア新聞屋台村」が「本の雑誌2006年度ベスト10」の8位になったそう

記事を読む

no image

クールだけど超目立つ

 『謎の独立国家ソマリランド』、ついに昨日からAmazon.comで予約受付が開始された。

記事を読む

no image

霊能者、超能力者におねがい

先日、図書館教育ニュースという、学校図書館の壁に貼り出す写真新聞の取材を受けたのだが、 なにせカラー

記事を読む

最近であった美味いもの・その1と2

最近、出会った美味いものを思いつきで並べてみたい。 その1、福井県の銘酒「花垣」、しかも純

記事を読む

no image

日曜日のイベント

代々木でミクシイの高野秀行コミュ&宮田珠己コミュ合同イベント。 雨上がりにもかかわらず40〜50人(

記事を読む

no image

民族問題とイスラムはダメなのか

こんな写真が出てきた。 うちには至る所に本があるが、ダルマはそれをいたずらすることは滅多になかった

記事を読む

Comment

  1. タツ より:

    そのすしざんまいの社長って最近よくメディアで見かける方ですよね?最近テレビで見たときも独特な雰囲気の方でしたけど、世間一般ではソマリア=危険地域とされている所に、仰るとおり目をつけて行動に移してしまうあたりはやはり只者ではないですね。将来的に、その社長がプントランドにおける海賊業を減らす役割を担ったって話になれば面白いですね。ソマリ本、読了しました。最高でした!

  2. 高野 秀行 より:

    ソマリランドとプントランドを含む「旧ソマリア」は日本政府から「退避勧告」が出てますからね。普通の企業はまず行きませんよ。
    何かあっても保険が下りないし、拉致でもされたら猛烈なバッシングを食らうでしょう。
    ソマリ本、楽しんでいただけたようでよかったです!

  3. CHIBASHIYAHAGICHO より:

    すしざんまい の社長は、今年の初せりでマグロ1尾を 香港人と せりあって、確か 1億5千万円だか 1億6千万円だかで 落としたという とんでもないおやじですよねぇ。築地の場外に 5~6軒 店舗を持ち、最近 大阪にも進出したのだと。
    おいらが 時々行く 立ち食いの まぐろざんまい という店も その系列だけど、ずけ丼とかは 500円で食べられますよ。

CHIBASHIYAHAGICHO へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年10月
     12345
    6789101112
    13141516171819
    20212223242526
    2728293031  
PAGE TOP ↑