*

野外の強者たち

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


 金曜日、山形かみのやま温泉で上映会。
 いや、正確には山形大学医学部法医学科の先生が主催する「勉強会」に呼ばれたらしいということが、現地に行ったあとでやっとわかった。
 そこに集結していたのは、アカデミズムの枠を超えて活動する生物関係の専門家だったが、研究室で顕微鏡やコンピュータをいじくっているというより、「野外の達人」みたいな人々ばっかり。
 私を直接呼んでくれた永幡嘉之さんは昆虫のカメラマン兼ライターで、
毎年極東ロシアに通って昆虫を探し回り、「むし」というマニアックな雑誌に写真と文章を発表している。(写真は、「ヘテロギーナ」という極東ロシアの珍しい蛾)
 永幡さんの友人、溝田さんという人は、宮城教育大学の助教(助手)だが、
かつてザイール川をひとりでカヌーで下りながら、これまた貴重な昆虫の採集をしたことがあるうえ、厳冬期の北海道を意味もなく自転車でキャンプしながら踏破したという。
 そのほか、どんな動物でも自分ひとりで解体して剥製にしてしまうという大井沢自然博物館の女性学芸員・武浪さん(内澤旬子さんに紹介したい!)、チョウを求めてミャンマー・カチン州に通っている東大の研究員・矢後さんなど、次から次へと凄い人が登場。
 しかし、いちばんのインパクトは、キノコやシダなど菌類専門の写真家で現在「糞土師(ふんどし)」という肩書きを持つ伊沢正名さん。
 この人は、驚いたことに30年以上、野ぐそしかしたことがないという。
 茨城の自宅にいるときはもちろん、東京に行っても、海外でも、全部野糞(のぐそ)。トイレは絶対に使わない。
「野糞をずっとやっていくうちに、いつでもしたいときに糞をすることができるようになった」という。
(この勉強会では、自分のした糞が土に返っていく様を一ヶ月以上毎日観察し続けた記録(写真)を発表したそうだが、残念ながら私は遅く到着したので見られなかった)
 世の中には本当に凄い人がいる。私など、この勉強会ではほとんど脇役でしかなく、
でもそれがとても心地よかったのだった。

関連記事

辺境ドトールで大宴会

土曜日、仕事場である「辺境ドトール」にて受賞祝賀パーティが行われた。 ドトールの常連である高級

記事を読む

no image

美しき日韓問題

講談社ノンフィクション賞を受賞した安田浩一『ネットと愛国』(講談社)を読んだ。 丁寧に取材した

記事を読む

no image

上流階級の腐敗っぷりはアジアン・ミステリの十八番か

 アジアン・ミステリ読書週間第2弾!というわけではないけど、たまたま今度はタイのミステリを読んでし

記事を読む

no image

エンタメ・ノンフ・インタビュー

最近、加速的に「エンタメ・ノンフィクション」の普及が進んでいる。 今度は、「図書新聞」でインタビュー

記事を読む

no image

ブランク

2ヵ月半ぶりにスポーツジムの水泳教室に行ったら、 運悪くいきなりバタフライ特集。 あっという間に腕が

記事を読む

no image

熊いじめと阿片チンキ

前々から英語圏に興味がなかったのだが、最近ははっきりと拒否反応を示すようになってきた。 おかげで客

記事を読む

no image

シャンの新年って何だ?

以前、ミャンマーのシャン人(自称「タイ」)の独立運動を手伝っていた関係で、 今でもシャン・コミュニ

記事を読む

no image

友人がちゃんと難民になる

フランスへ逃れてから難民申請をしていたルワンダ人の友人から 「やっと正式な難民認定を受けた」という喜

記事を読む

no image

ランニング復活記念に立ち会う

月曜日の晩、チェンマイ門の近くにある日本人ゲストハウスの庭先で開催されたライブを見に行った。

記事を読む

no image

日本人はサッカーをビルマ人から学んだ

二週間前くらいだろうか、電車に乗っていたら突然、啓示が下りた。 「スローに生きよ」 そういう声が聞こ

記事を読む

Comment

  1. たぬきち より:

    AGENT: KDDI-ST25 UP.Browser/6.2.0.8 (GUI) MMP/2.0
    高野さんが脇役って…
    そんなご謙遜な…
    って言いたいですが、参加メンバーからしてスゴいですねぇ。
    う〇こねぇ…。自分のう〇この上映かあ…。スゴいって言うか、卓越してるって言うか…。私も土にかえる姿見て見たいです。
    実家では前は畑に(家族の)肥をまいてたので、土にかえり自分の腹にもかえってきてました(野菜美味しかったです)
    達人たちの集会、今度私も参加したいです。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2026年1月
     1234
    567891011
    12131415161718
    19202122232425
    262728293031  
PAGE TOP ↑