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2014年に読んだ本ベストテン

公開日: : 最終更新日:2015/01/06 高野秀行の【非】日常模様

2015.01.01enrenka新年あけましておめでとうございます。

昨年はほんとうに忙しかった。というか、その慢性多忙状態はずっと続いており、
昨日の大晦日も、そして今日つまり元日も、朝から晩まで仕事と雑務に追われている。

ブログを書いている余裕はさらさらなく、読書量も減ってしまった。
でも、せっかくなので(というか仕事に疲れたので)、例年通り、ベストテンをあげてみる。
あくまで私が「2014年に読んだ本」なので、出版年が古いものも混じっている。
あと、言うまでもなく、順位はかなりてきとうだ。

<ノンフィクション>
1.片桐はいり『私のマトカ』(幻冬舎文庫)
片桐さんの文章力には本当に驚かされた。こんなに伸びやかな文章に出会ったのは久しぶりな気がする。『グアテマラの弟』もよかった。

2.田原牧『ジャスミンの残り香』(集英社)
アラビア語を駆使して現地の人々の間に分け入っていく田原さんは信用できる。エジプトとシリアの現状がとてもよくわかった。

3.山口仲美『日本語の古典』(岩波新書)
私の書棚、殿堂入りだ。

4.なべおさみ『やくざと芸能』(イーストプレス)
「やくざの生き方と武士道は同じ」ということが明快に書かれていて、斬新。後半の「やくざ」という言葉は古代ヘブライ語由来云々は聞き流したい。

5.マイケル・ブース『英国一家、日本を食べる』(亜紀書房)
最近突如、面白い本を連発するようになった亜紀書房。本書はフェアな視点から描かれていて、納得できる。「日本人は食感に優れているが、料理が全般的に熱すぎる。これでは味がわからない」はナイスな指摘。

6.グレン・グリーンウォルド『暴露 スノーデンが私に託したファイル』(新潮社)
アメリカのマスコミが日本以上に政府とべったりということを知り、愕然。また、GoogleやFacebookからも政府へ情報がどんどん漏れ、自分たちのプライバシーは保てないこともわかる。もはや、諦め気分だ。

7.中野渡進『球団と喧嘩してクビになったプロ野球選手』(双葉文庫)
昨年でいちばん笑えた本。小宮山悟や谷繁の言動がおもしろすぎる。

8.春日太一『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)
時代劇を人一倍愛する著者による憤激の書。すべて実名でプロデューサーから役者までぶったぎりで、時代劇が滅びることが悲しくも本自体は痛快という奇妙な気分になる。なお、2016年NHK大河「真田丸」で主役を演じる堺雅人も酷評されている一人。

9.髙橋昭雄『ミャンマーの国と民』(明石書店)
日本とミャンマーの農村比較研究という画期的な書。髙橋先生が生まれ育った千葉の農村のすごさにむしろ驚く。「日本人論」に新たな一石を投じている。

10.柳澤健『1964年のジャイアント馬場』(双葉社)
馬場がいかにアメリカで輝いていたか、そして日本に戻って以降の馬場と全日本プロレスが退屈だったのはなぜかがよくわかった。馬場が野球選手としても凄い才能の持ち主だったことと、木村政彦が力道山に実力で適わなかったということをひじょうに熱心に証明しており、そこも読みどころ。

<小説>
1.閻連科『愉楽』(河出書房新社)
マジック・リアリズムが本当に威力を発揮するかどうかは個人の描き方にかかっていることを再認識させてくれた。後半の盛り上がりがすごかった。

2.万城目学『とっぴんぱらりの風太郎』(文藝春秋)
時代小説を現代もののように扱うために「坊ちゃん」の文体を取り入れたところはさすが。登場人物も魅力一杯で、読後もしばらく彼らが脳裏から離れなかった。

3.ロバート・ファン・ヒューリック『東方の黄金』(早川書房)
辺境ミステリを愛好する私が出会った、久しぶりのホームラン。ミステリが水滸伝タッチで描かれる奇妙さと面白さといったら、ない。

4.篠田節子『インドクリスタル』(角川書店)
帯の推薦文を書くため、ゲラで読んだ。冒険小説を書く若手の作家は大変だというのが率直な感想。篠田さんみたいなモンスターと競わねばならないのだから。

5.黒川博行『疫病神』(新潮文庫)
やくざ同士が文字通り「シノギを削る」話には全然興味がなかったのだが、本の雑誌の杉江さんが絶賛していたので、つい手に取ったらやめられなくなった。大阪が外国のように見えた。

6.中島京子『妻が椎茸だったころ』(講談社)
短編集だが、表題作がとにかく秀逸。中島さんにはこの路線でもっと書いてほしい。

7.吉田修一『さよなら渓谷』(新潮文庫)
今更で恐縮だが、吉田修一はすごい。『悪人』も面白かったし。

8.森野登美彦『きつねのはなし』(新潮文庫)
なんだか昨年は私にとって新潮文庫が当たり年だったようだ。私はファンタジーやホラー、SFをほとんど受け付けない体質なのだが、この本はするするとその世界に入ってしまった。モリミー、おそるべし。

10.フェルディナンド・フォン・シーラッハ『罪悪』(東京創元社)
前作『犯罪』に続いて本書も強烈無比。いま、著者初の長編小説も出ているそうだから、早く読みたい。

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    • 今まで野村監督に特に興味がなかったんですが、加藤さんの本を読んで、すごく好きになりました。人間味にあふれた策士というところ、でも言うことは決して奇をてらわないとか。あと、やっぱりサッチー、スゴい(笑) https://t.co/FrRQVs2IX8 ReplyRetweetFavorite
    • あ、そうだったんですね。名監督の知られざる一面を描いているし、著者ご本人の青春記風でもあり、『嫌われた監督』を彷彿させました。落合夫人とサッチー夫人もよく似てるし(笑)いや、面白かったです。 https://t.co/66kmDl74FN ReplyRetweetFavorite
    • 先月から自分の単行本原稿が佳境に入り、読書が全くできなくなっていた。他人の文章が頭に入らない。なんだけど、今日一息ついたあとで、なぜか加藤弘士著『砂まみれの名将 野村克也の1140日』(新潮社)を一気読みしてしまった。あまりにも自分の仕事と関係がなかったのがよかったのかも。 ReplyRetweetFavorite
    • 単行本を一冊書くのはエベレスト登山にも似ている。頂上に近づけば近づくほど一歩進むのが辛くなる。でもようやく『イラク水滸伝』本文の最終稿を書き終えた。あとはエピローグと参考文献、写真のセレクト、地図の作成、ゲラ校正、専門家への確認……頂上までまだけっこうあるな…。 ReplyRetweetFavorite
    • 文庫1位が久生十蘭!そそられる!! https://t.co/OWK4Bvakwo ReplyRetweetFavorite
    • RT : 本当に良かった。 傍聴していた知人によれば、「著しく正義に反する」という強い表現で無罪が言い渡たされたとのこと。つまり、リンさんの孤立出産での死産を罪に問うこと自体が正義に反するとの判断。 これを機に、日本に暮らす全ての女性の妊娠・出産・選択の… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 崩れたとき生きるすべがなくなる。はずれたものを生息する余地をとっておくこと。中心と周縁。クリエイティビティはいかにして生まれるのかについては、秩序にあわない変なものを見つけ、探しにいく勇気、変なものをみつける臭覚のことなど。理系文系の枠を超… ReplyRetweetFavorite
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