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実際に起業した自分が振り返る「独立する前に会社勤めを経験しておくといいよという5つの理由」

私が有限会社AISA(アイザと読みます)を起業したのは、2004年10月のことでした。

当時は、編集者として本の制作を引き受けること以外は、相当あまい事業計画で突っ走っておりまして、今思い出しても脇の下や額から嫌な汗がにじんできます(涙)。

いろいろと右往左往、紆余曲折しまして、現在に至っているのですが、その中で、独立前に組織に属しておいてよかったなと思うことがいくつかありましたので、今日はその辺を少し書いてみたいと思います。

 

今思うと、会社勤めで何が一番不満だったのかといえば、「入ってくる情報が断片的だったこと」だと思う。 ペーペーの平社員に、経営情報など渡すべくもないと思うんだけど、思考パターンは当時も今もあまり変わっていないので、より正しく、会社のためになる判断を下すには、すべての情報が必要なのだと思う。 どこのコンサルですか?という感じなんですが…(汗)。

今思うと、会社勤めで何が一番不満だったのかといえば、「入ってくる情報が断片的だったこと」だと思う。
ペーペーの平社員に、経営情報など渡すべくもないと思うんだけど、思考パターンは当時も今もあまり変わっていないので、より正しく、会社のためになる判断を下すには、すべての情報が必要なのです。
どこのコンサルですか?という感じなんですが…(汗)。

 

1)仕事上で必要な最低限のマナーやルールを身につけることができる

いわゆる挨拶や、名刺交換、電話の応対など、ビジネスマナーといわれるたぐいですね。私が新卒で入った日本盛では、新入社員の配属前に研修がありまして、そこで一とおりのことを教わりました。

もちろん、研修でならった程度で使いこなせるはずもなく、配属された営業先できっちりもまれたのはいうまでもありません。

特に、元気よく挨拶することや、きちんと相手の目を見て話すことの大切さは、今でも染みついているような気がします。

 

2)会社のざっくりとしたお金の流れを知ることができる

最初に就職した日本盛は、日本酒の酒造メーカー、次のドレミ楽譜出版社は楽譜の出版社ということで、どちらも製造販売元、いわゆるメーカーでした。

製造された商品は、卸から小売店へ流通し、最終的に消費者の手に渡ります。

メーカーの場合、商品の代金を回収するのは、消費者からではなく、卸からになります。事情があって小売店へ直接商品を届けることもありましたが、この時も、必ずどこかの卸を経由した伝票で売上を立てていました。

ちなみに、この「卸を経由して商品が流通する」ことを帳合(ちょうあい)取引といいます。複数の卸と取引のある小売店では、メーカー毎に帳合が決まっており、帳合を間違えるとトラブルになることから、「直配の時は小売店の担当者に必ず帳合を確認すること!」はかなり最初に覚えた不文律でした。

さて、卸からの代金回収には、いろいろとありますが、私が担当していた卸では、手形が主で、商品などによっては小切手を受け取る場合もありました。

すると、働いているうちに、回収にいたるまでのお金の流れがざっくりと分かってきます。

卸に商品を提案 → 仕入担当が発注 → 倉庫から納品 → 締め日後にメーカーから卸へ請求書が届く → 月末に代金を回収する

といった具合。

2つ目の職場、ドレミ楽譜出版社では、編集だったので、今度は製造の現場にいたことになります。この時目にしたお金の流れは、制作に関するものでした。例えば、デザイナーやライター、イラストレーター、校正者などの、外注の方々から届く請求書や、1冊当たりの製造原価、販売部数からはじき出される総制作費などです。

製造現場でのお金の流れと、営業部門での、実際の回収と両方を知ることができたのは、自分で会社を回す際に役に立ったと思います。

実際には、これに加えて家賃や消耗品費、光熱費、宅急便代など、会社には細々した必要経費があるのですが、まあ、それはやっているうちにわかります。

 

3)法律や慣例、慣習などに触れる機会がある

日本盛には労働組合がありましたので、組合の執行委員をしていたときには、「へー、こんな決まりや法律があるんだ…」と、労働関連の法律や決まり事を知って驚いた記憶があります。時間外動労、いわゆる残業時間を規定した「三六協定(労働基準法第36条)」) についても、実際に働く中で上司から残業時間について言われて知りました。まあ、これは大学時代に法学部だったり、労働関連の法律を学んでいたら、知っていることかもしれません。

とはいえ、自分の会社は零細企業、しかも創業者である私の労働は、三六協定やら労働者の権利やらの対象外なので、知り得た知識がほとんど役にたっていないのですが(笑)。

さて、商慣習ということでは、前述の手形の仕組みも、働くまでほとんど知らなかったことのひとつです。

手形は、決まった期日になったら記載された金額が支払われるというもので、会社の信用力でお金の支払いを後に伸ばすものです。支払いの期限をサイトといい、私が担当していたときも、相手先の信用力で、サイトの短縮(たとえば今まで150日だったものを120日にするなど)をお願いするみたいな話があったような気がします。

俗に言う「不渡り」というのは、この手形が約束の日にちに現金化できないこと、つまり当座預金に手形分の資金が入っておらず、手形を持っている相手に現金が渡らないことです。

それにしても、販売してから、実際に現金化するまで150日(5か月)って、よく考えるとすごい話ではあります。

約束手形についてはこちらが詳しいです。

「約束手形と小切手の基礎講座」

 

ちなみに、楽譜業界でも手形の商慣習に加え、返品自由ということもあり、いわゆる支払の生じる6か月(サイト180日)で売場の在庫がドカーンと返ってくるという恐ろしいことがあります。

売れた!と思ったら、6か月後に返ってきて、実売を見たら、増刷した分がまるまる不要だった・・・みたいな泣くに泣けない話が出版界にはいっぱい転がっています。。。

 

4)業界団体や関連事業など、社会の仕組みの一端をかいま見ることができる

純米吟醸酒もいいけど、燗で飲む美味しさは普通酒にはかなわないと思う。蔵の宿泊所で寝泊まりしたとき、杜氏さんたちは、これをやかんに入れて直接燗をして湯飲み茶碗で飲んでいた。

純米吟醸酒もいいけど、燗で飲む美味しさは普通酒にはかなわないと思う。蔵の宿泊所で寝泊まりしたとき、杜氏さんたちは、これをやかんに入れて直接燗をして湯飲み茶碗で飲んでいた。

日本盛は私が入社した1996年当時、すでに創業100年を超えていて、酒造業界では大手でしたので、いろんなところに名が通っていました。

残念ながら、日本酒自体の総出荷量は自分の生まれた1970年代あたりをピークに、ひたすら右肩下がりを続けていたのですが、食品系の展示会や博覧会、業界団体の集まりには、必ず名を連ねていたと思います。

当時は、酒類の小売免許が自由化へと大きく舵を切り始めていたころで、酒類卸が食品卸にガンガン吸収合併されていたため、1アルコールメーカーから、1食品メーカーとして業界そのものも変わりつつありました。

そういったドラスティックな流れも含めて、一個人では見えない、知り得ないことを見れたのはよかったなと思っています。

 

5)社会の理不尽(笑)を身をもって体感できる

大人の世界には、まあ、きれい事だけでは生きていけない事柄がいっぱいあるわけです。そのあたりのもろもろを独立前にギューっと経験できたのも、 今思えば貴重な経験でした。

特に、最たる物はクレーム処理です。

詳しくは触れませんが、世の中には本当にとんでもない人がいるんだな…と思ったものです。人の善意を利用して生きていく悪意のかたまりみたいな人も、実際にいると実体験したことは貴重でした。

独立後、いろんなお誘いや、甘い話があったりするのですが、その時の記憶がふっとよぎって、「これは本当かな?」「大丈夫かな?」と足を止め、ストッパーになっています。

 

以上、独立前に会社勤めをすることのメリット?みたいなもの5つでした。

もちろん「知るとやるでは大違い」なので、起業後はいろんなハプニングや、初めて聞くこと、知ることに遭遇します。

それでも、「ああ、あの組織だったら、こんな場合どうやって対処するだろうかな?」と自分を少し引いて考えたりできるのは、会社勤めの経験が生きていると思います。

すでに、しっかりとした事業計画書ができていて、会社勤めで貴重な時間が失われるのはチャンスロスだ!という人でなければ、起業前に会社勤めをしておくと、いろんな知識、体験が一気にできてオススメです。

ひょっとしたら、その会社が自分に向いていて、そのまま働き続けられるかもしれないという「うれしい誤算」もあるかもしれませんので。

 

このブログのイラストは「かわいいフリー素材集 いらすとや」さんからお借りしました。

 

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Comment

  1. とおりすがり より:

    『お寺の知恵拝借』がよくできていたので、後付をみて、こちらまでたどり着き、記事を拝読しました。とても面白く、6つくらい読みました。今度も折々、のぞいてみます。(楽譜がご専門とのことで、『お寺…』ではどのあたりをご担当されたんだろう…と少し気になりました(^^;))

  2. 小林渡 より:

    とおりすがりさま
    『お寺の知恵拝借』お読み頂いたのですね!!
    ありがとうございます。
    いろんな人たちが関わって1冊にまとめ上げた本ですので、とてもうれしいです。
    私は編集担当でしたので、版元の編集さんと常に連絡をとりながら、ページ構成、写真のセレクト、記事の方向などを考え、カメラマンさん、ライターさん、デザイナーさんの英知を集結させ、まとめたという感じです。
    お寺は、可睡斎さんのレシピの部分以外はすべて同行し、滝にも打たれました・・・(笑)。

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