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デジタル化で起こる「紙の本」の行方。東京国際ブックフェアの基調講演を聴いて、電子書籍について思うこと。

一年も半年が経ち、7月上旬の恒例イベント、東京国際ブックフェアの季節がやってきました。

今年の基調講演は、株式会社KADOKAWAの角川暦彦会長による「出版業界のトランスフォーメーション」という演題でした。

私は開演15分前に会場に入ったのですが、すでに8割方埋まっており、最終的には入場者1700名、立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。

内容については、出版業界のおかれている厳しい現状の概要説明が主で、一聴すると特に目新しいものは無いようにも思えました。

しかしながら、角川会長の言葉に込められた思いにフォーカスしてみると、別のものが見えてきたのです。

それは、出版業界が直面している「スピード感の違い」に、会長自身が強い脅威を感じているということ。

どことくらべて?

それは、GoogleやApple、Amazon、Microsoftなど、いわゆるIT業界です。

出版業界は今、電子書籍の普及によって、出版のデジタル化という課題に取り組んでいます。

電子書籍自体は10年前からありましたが、ここ最近で一気に浸透してきました。
それは、ネット環境の高速化に加え、iPhoneやiPadなどの登場により一気に加速したスマホやタブレットの普及、さらにはiTunesやKindleなど、電子書籍を購入するための使いやすいプラットフォームの登場といった要因があります。
技術的な話では、epub3.0というフォーマットができたことで、さまざまな環境で読めるようになったことも貢献していると思います。

一足先にデジタル化の済んだ業界には、映画、音楽、ゲームなどがあります。また、地上デジタル放送の開始によって、放送業界もデジタル化に踏み出しています。

デジタル化によって、大きく変わるもの。

単に「電子端末で本が読めるようになる」ということだけではありません。

実は、これを多くの出版業界の人は読み誤っている気がするのですが、電子化によって「出版業界がふつうのコンテンツ産業の1つになってしまう」という激変が待ち構えてるのです。

あまり意識したことはないかもしれませんが、アナログの紙の本はコンテンツであると同時に、紙のページをめくって中身を読むというデバイスでもあるんです。

デバイス、つまりiPhoneやiPadなどと同じ。

本の場合は、一冊一冊、そのコンテンツ専用の端末であることが、iPhoneなどと違う点です。

本におけるアナログとデジタルの違いを、より分かりやすく感じてもらうには、ゲームに例えてみるといいかもしれません。

大手ゲームメーカーの任天堂は、かつて花札やトランプなどが主要な商品でした。
いわゆるアナログのゲームです。
1980年代、ファミコンが爆発的なヒットを飛ばすと、ゲームはデジタルの世界に突き進みます。

この時、ゲームはソフトとハードに分かれました。

どんな人気ゲームであっても、ハードが違えば遊ぶことができません。
いつしか、ゲームはハードメーカー側の意向が強くなり、ゲームを作るソフトメーカーは、ハードメーカーの求める仕様の中で作品を展開するようになりました。

ハードメーカーの縛りや、人気ソフトメーカーに対する囲い込みなどもありますので、人気のゲームが、いろんなハードで遊べるようにといった展開にもなりにくいのです。

いわゆる、マリオシリーズがiPhoneやAndroidで遊べない(アプリがリリースされない)のは、この辺りの事情なのですが、まあ、それはともかく、
紙の本から電子書籍になることで、本というデバイスから切り離され、本の中身はコンテンツとして、ゲームソフト同様、iPhone、Androidなどのスマホや、タブレット上で表示されるようになります。

Appleが展開しているiBookストアが、iPhone、iPad、iPodなど、Apple社製の端末のみでしか読めない(MacやPCは不可)のに対して、Amazonが展開している電子書籍のKindleは専用の端末だけでなく、パソコン、スマホ、タブレットなど、いずれもアプリケーション経由で見ることができます。

これはゲームの黎明期よりも、だいぶ自由な環境ですね。

しかしながら、いずれもインターネットができたり、メールが使えたり、他のアプリをダウンロードしてゲームができたりと、「本を読むだけのもの」ではありません。

今までは、紙の本を開けば、それは本の中身を読むだけであり、本を閉じて他のことをしない限り、本の世界と1対1です。
しかし、電子端末は、同じスクリーンで様々なことができます。

つまり、他の興味を誘うコンテンツと同じ場所で勝負することになるのです。

紙の本がすべてなくなるとは、私は思っていませんが、仮に主な流通量の7割が電子書籍に移行したとしたら、インターネット上のウェブ記事との対決も含め、魅力あるコンテンツとして、スクリーンを制覇できる本はどれだけあるのかな・・・と思ったりします。

特に、コンテンツ同士の戦いになった時、IT業界をはじめ、すでにデジタル化の済んでいる業界の意志決定の速さは、出版界から見ると、ジェット機と自転車くらいに差があるような気がします。

紙の本であるがゆえの強さ、みたいなものが失われたとき、身ぐるみ剥がされ、コンテンツだけになった「本」は、どんな進化を遂げていくのか、私はまだ先が見通せていません。

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