ほぼ100%映像素材だけで本をつくる
先週発売された「Eダンスアカデミー」(NHK出版)の編集と一部執筆を担当しました。
今月の19日(土)から、NHK教育で再放送されている同タイトルの番組テキストです。
EXILEのUSAさんとTETSUYAさんを講師に迎え、小学生のEダンスキッズが、ダンスの基本的なステップから応用編、さらにEXILEの「Choo Choo TRAIN」や「RISING SUN」を学ぶという内容。
さて、この本、今までいろんな本を編集してきましたが、その中でも群を抜いて特殊なケースとなりました。
1)ゼロから責了まで約60日
手帳を繰ってみると、いちばん最初の打ち合わせが7月19日。
この段階ですでに再放送が10月からと決まっていたため、発売日は9月末~10月上旬ということだけが決まっていました。
印刷、製本の工程に2~3週間、倉庫への納品と全国への配本を考えると、発売日からトータルで約1か月は引き算しないといけないので、責了(制作者から印刷所へ完全に作業が渡された段階)は9月の上旬~中旬と想定されました。
この間、およそ60日あまり。
そこまでに、やらないといけないことは
1)本の構成(これを台割という)を決める
2)決まった台割に基づいて原稿を発注
3)文字原稿と一緒に配置する写真を撮影する
4)文字原稿と写真を選別して、レイアウトするための素材一式に整理する
5)一式をデザイナーに渡してデザインしてもらう
6)デザインされたページ(これをゲラという)を校正する
7)いろんな人から戻ってきた校正を1つのゲラにまとめる
8)まとまった赤字ゲラをデザイナーに渡し修正してもらう
9)修正されたもの(2校のゲラ)を再び校正する
10)いろんな人から戻ってきた校正を1つのゲラにまとめる
11)まとまった2校の赤字ゲラをデザイナーに渡して修正してもらう
12)修正されたもの(3校)を再び校正→この段階で印刷所へ入稿
13)いろんな人から戻ってきた校正を1つのゲラにまとめる
14)印刷所から色校が出てきたら、色をチェックするととともに、13の赤字を転記
15)修正したデータと、赤字を書き込んだ色校を印刷所に戻して責了
ざっとこれくらいはあります。
今回はEXILEの方たちにもチェックしてもらうことになっていましたので、その分の時間のマージンや、後述する、写真の問題から、デザイナーさんの差し替え作業の時間も考えながらの進行です。
途中で、発売日が2週間ほど延びるという大ラッキーがあったため、危うく「1か月強で制作」という自己ベスト記録は免れましたが、それにしてもよく最後までたどり着けたなという感じです。
今回は私も一部原稿を書いていたので、8月は何だかよくわからないうちに過ぎ去っていった・・・という感じでした。
【追記】
これだけ読むと、自分ひとりがスーパーマンみたいに立ち回っていたかのように見えますが、実際は編集部のみなさんはじめ、たくさんの人たちが関わり、いろんな困難と、いろんなラッキーが積み重なって、最後までたどり着きました。
それぞれの持ち場で、それぞれのやるべきことをキッチリやったからこそ、少ない時間と、制限のある中で、形になったのは間違いありません。
2)使用写真はほぼ映像からの抜き出し
これだけタイトなスケジュールに加え、制作チームを悩ませたのが、「本に掲載する写真をどうしたらよいのか?」という問題でした。
ご存じのとおり、EXILEといえば、日本を代表する人気アーティスト。その超過密スケジュールぶりは他の追随を許しません(汗)。
当然のように、テキスト用に新しく撮影をする日程は1日もありませんでした。
そこで、番組側の撮影したデジタルハイビジョンからキャプチャー、いわゆる動画から画像を抜き出して使うことになったのです。
現在のHD画質は、ピクセル数に直すと、ヨコ1920×タテ1080あり、通常の印刷物だと、ヨコ14センチ×タテ8センチ弱くらいまでは問題なく使えます。
ただし、それは被写体(映っているもの)が止まっている場合の話。
通常のテレビ番組は1秒間に30フレームでできていて、パラパラ漫画のように、1秒間あたり30枚の写真が連続して流れることで動いて見えます。
少し細かい話になりますが、これはカメラのシャッタースピードでいうと1フレームあたり1/30秒で撮影と同じことになります。
カメラの好きな方だと、1/30秒のシャッタースピードがどれくらいか見当がつくかもしれません。
止まっている物を撮る、いわゆる「物撮り」ならともかく、ダンスを1/30秒で撮るカメラマンはなかなかいません。なぜなら、せっかく撮ってもブレてしまうのです。
通常、ライブをカメラで撮る場合、シャッタースピードは1/250秒くらいに設定しておけば、被写体がブレずに収まります。動きの速いダンスであれば、もっと速くしたいところです。
とはいっても、選択肢はこれしかありません。
そこで、番組の制作会社の編集ブースへお邪魔し、番組映像を1コマ1コマ確認しながら、ブレがいちばん少ないものを選んでキャプチャーしてもらいました。ダンスによっては、同じポーズが何度か出てくるものもあったので、可能な限り選びまくって、その中からいいものを使うようにしました。
なお、初校の段階では、どの部分をキャプチャーするのか、執筆を担当するライターさんも探りながら原稿を書いているため、編集ブースを借り切って原稿を書くわけにはいきません。
そこで、番組を収録したDVDから、自分のパソコン上でキャプチャーし、その写真をアタリ画像(参考として使うだけで実際には使わない画像)として初稿のデザイン用に使用しました。
つまり、デザイナーさんからすれば、最初からすべて差し替えることが決まっている画像を使って、デザインを組むという作業になりました。結果的に、使用写真は500点近くに上ったので、その差し替え作業たるや・・・・という感じです。
映像のキャプチャーについては、番組サイドと出版チームをつないでくれるキーマンがいたため、通常では考えられないほど、いろんなことがスムーズに進みました。
これも、タイトなスケジュールでどうにか進行できた要因の1つだと思います。
キャプチャー写真を使って本をつくるのは、ユーキャンの「レッドベターのパーフェクトレッスンDVD」の鑑賞ガイドで経験済みでしたが、今回はダンスということもあり、なるべくブレていない写真を見つけ出すこと、使用点数の多さ、などに苦労がありました。
ただ、結果としては、デジタルハイビジョンクラスの映像データであれば、角版であること、使用サイズが15センチ×10センチ程度であること、などの条件はあるものの、印刷物に十分耐えうることが実証されました。
さて、無事?出版にたどり着いたのもつかの間、このテキストは10~12月号のため、次の1~3月号の編集作業が始まろうとしています。
まずは、今週、台割を作るところから始めたいと思います。
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