イギリスにもタマキングがいた!
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様

書くのがだいぶ遅くなったが、今年最初に読んだ本は早くも今年最高の本になる可能性がある。
ダグラス・アダムス『これが見納め』(みすず書房)。
本の雑誌の杉江さんから「まるっきりタマキングなんですよ!」と興奮した電話を前にもらったが、実際に読んでみたら「まるっきりタマキングじゃん!」と杉江さんに興奮の電話をかけてしまい、当の宮田部長にも同じことをメールしてしまった。
ダグラス・アダムスはあの名著『銀河ヒッチハイク・ガイド』(河出文庫)を書いたイギリスの作家だが、本書はBBCラジオと一緒に、絶滅危惧種を見に世界の辺境に出かけていく旅行記。
宮田さんの文章同様、一箇所を引用するのは難しいし、肝心の本が本の山のどこかへ消えてしまい見つからない。
でも「ゴリラは人間に似ているから感動するんだけど、そのあとで人間に会うとどうしてうんざりするんだろう」みたいな考察だか感想だかわからない慨嘆が、何とも言えない文体でうねうねと書かれているといえば少し想像がつくだろう。
ていうか、タマキングそっくりなのだ。
宮田部長とアダムスは互いに相手のことを知らなかった。
部長は「銀河ヒッチハイク・ガイド」を私がしつこく勧めるので最近読み始めた程度らしいし、20年前に亡くなったアダムスが宮田珠己を知っているわけがない。
ていうか、今生きていたとしてもタマキングを読んでいないだろう。
ではなぜここまで似ているのか。
これはきっとアダムスが本書で書いているように「似たような環境では似たような進化が起こりやすい」という生物学的な原理に基づいているのだろう。
ちなみに、アダムスの挙げた例は「ギリシアで缶ビール片手に馬鹿騒ぎしているのはイギリス人だが、バリ島で同じことをしているのはオーストラリア人である」。
アダムスとタマキングの共通した点はユーモアの奥に深く眠る知性だろう。
明らかに知的というわけでなく、まあ、眠っているわけだが、読者がつつくと「あれ、もう朝?」という感じでちょっと目を覚ますのである。
知性を培って眠らせるなんていう手の込んだ技を追求していくと、きっとイギリスでも日本でも似たような結果になっていくのではないか。
ふつう、「似ている」というのは作家に対して失礼な言い方なのだが、
進化論的な理由ならそうでもないだろう。
といったことを当の宮田さんに言い、さらに「こういう旅行記を書いて下さい」と一ファンの立場からお願いをしたら、こういう返事だった。
「旅行記より、銀河ヒッチハイクみたいな本を書きたい」
もちろん、そっちも大歓迎である。
関連記事
-
-
マンガ「ムベンベ」と単行本「しわゆめ」
秋田書店へ行き、同社「ヤングチャンピオン」誌で、7月から連載開始の漫画「ムベンベ」の第一話・生原稿
-
-
もう当分OBとは関わりたくない
早大探検部50周年映像上映会はけっこう大勢の人が来てくれたし、 西木正明、恵谷治両先輩とのトークも想
-
-
ハルキ風異国トーキョー
『異国トーキョー漂流記』(集英社文庫)の表紙を変えることになった。 あ、いや、何か問題があったわけじ
-
-
『メモリークエスト』続編決定
二日酔いのまま、笹塚で杉江さんに会って、定例の放談会。 本の雑誌社の女性スタッフが、『メモリークエス
-
-
オーケンが語るジャナワール
9月20日(木)深夜25:05から放映される関西テレビの音楽情報番組「MUJACK」で 大槻ケンヂ
-
-
踊るダルビッシュの謎
斉藤祐樹が日本ハムに入団したため、以前にも増してダルビッシュ有のニュースが多い。 で、思い出したの
-
-
また「テレビみたい」と言われるんだろう
日曜日の朝刊のテレビ欄で知ったのだが、 「ウルルン」の後番組として「地球感動配達人」とかいう番組がは
- PREV :
- たぶん、みんなイライラしている
- NEXT :
- 魅惑のロシアン・クリスマス


