*

皇太子にアシストしたらベンツ

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


サッカーは特に好きでもないのに、サッカー本は好きだ。
とくに非西欧のサッカー事情はひじょうに食欲をそそる。
『越境フットボーラー』(角川書店)はまさに私のストライクゾーンど真ん中、あ、いや、キラーパスである(この比喩の使い方は正しいのかな?)
日本で戦力外通告を受けた元Jリーガーやそもそも日本でプロになれなかった選手が
アジアや中南米のクラブで活躍する話だ。
伊藤壇という選手は「1年1国」というポリシーを掲げ、タイ、ベトナム、香港、インドネシア、ミャンマー…とほんとに毎年どんどん国を変えてプレーをしているという。
サッカーにはお国柄が現れる。
いちばん笑ったのはブルネイで、伊藤選手は、皇太子がオーナーであるクラブに入った。
練習もろくにやらずだらだらしているのに、このチームは試合になると緊張感をもつ。
なぜなら、皇太子も選手として試合に出てるから。
皇太子に絶好のアシストをするとベンツを買ってもらえたりするので、
みんな、超真剣なのだという。
経験豊かでリーダーシップのとれる伊藤選手は皇太子に頼んで、ゴール前を守ってもらった。相手チームも絶対に皇太子を鋭く削ったりしないから、そうすれば点をとられずに済むそうだ。
これでもプロリーグだというのだから楽しい。羨ましい。
私は生まれて初めて自分がサッカー選手でないことをひじょうに残念に思った。
本書は驚きの連続でもある。
黄金世代でワールドユース準優勝も経験した酒井友之選手は、
東南アジアにわたったが、流れ流れて、しまいにはインドネシアのイリアンジャヤ(西イリアン)に拠点を置くチームに入った。
あのペニスケースで有名なダニ族のいる町・ワメナにプロサッカーチームがあること自体が驚きだが、そこに日本人選手が行ってプレーしていたとは。
しかし、とにかく辺境の地なので、サッカーの試合と練習以外はすることが全くない。
酒井選手は毎日、宿舎から徒歩10分の場所にあるネットカフェに入り浸っていた。
そこは藤原さんという日本人冒険家が経営している店だった。
…とそこまで読んで、目が点になった。
えー、冒険家の藤原さんってあの?!(つづく)

関連記事

今年はこんな本がほしい

新年明けましておめでとうございます。 昨年は私にとってラッキーな年だった。 『謎の独立国

記事を読む

no image

ダルマ死す。享年17歳9ヶ月

飼い犬のダルマが昨晩、午前2時ごろ息を引き取った。 享年17歳9ヶ月。人間なら90歳くらいの高齢だっ

記事を読む

no image

クリント・イーストウッドとモン族

一年ぶりにTSUTAYAでDVDを借りて、観た。 ウチザワ副部長がかつてブログで絶賛していたクリン

記事を読む

no image

プロデュース業はじめました

明大前にて、年下の友人Wと打合せ。 いつもと立場はちがい、今度は私が編集者役。 書くのは向こうだ。

記事を読む

no image

大野更紗ができるまで

火曜日、『困ってるひと』が発売されて初めて大野更紗さん宅を訪れた。 思えば、彼女から「何か書きたい

記事を読む

no image

パリジャンは味オンチ

最近フランス料理店の取材をしていたので、ミツコ・ザハー『パリジャンは味オンチ』(小学館101新書)

記事を読む

no image

ダチョウ力

J-WAVE「Classy Cafe」という番組の収録。 いつものようにナビゲーターの質問にてきとう

記事を読む

no image

なぜか東金経由アフリカ行き

言い忘れていたが、出発は二日遅れて、今日になっていた。 ところが突然、千葉の東金に現地の事情をよく知

記事を読む

no image

困ってるいぬ

今週は月曜から金曜日までかけて原稿が一枚もかけないという絶賛大スランプ中だったのだが、 そういうとき

記事を読む

no image

もう一つのキンシャサの奇跡

映画「ベンダ・ビリリ もう一つのキンシャサの奇跡」を渋谷のイメージフォーラムで見た。 もう一つのキ

記事を読む

Comment

  1. コシチェイ より:

    AGENT: DoCoMo/2.0 N05A(c100;TB;W24H16)
    お久しぶりです。スポーツに興味なしですが、サッカー選手たちのボーダーレスさには驚かされます。野球と違ってワールドワイドなスポーツだからでしょうか。西イリアンジャヤって…何かご当地UMAを思い出そうとして失敗しました。

  2. 渡社長 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_7_3) AppleWebKit/534.55.3 (KHTML, like Gecko) Version/5.1.5 Safari/534.55.3
    高野さん、伊藤壇さんは、マレーシアのミュージックライター、ネギシさんが定点で追いかけていますよ。
    http://www.aisa.ne.jp/musicraja/blog/index.php?cid=6&page=22

  3. 高野秀行 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0; WOW64) AppleWebKit/535.19 (KHTML, like Gecko) Chrome/18.0.1025.168 Safari/535.19
    >コシチェイさん、ニューギニアのご当地UMAについては、本日のブログをご覧下さい。
    >渡社長、
    そうみたいだね。二村さんも伊藤選手と話をしたことがあると言ってました。
    アジア・アフリカは日本人が少ないから、「世界」がかえって狭いんだよね(笑)

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑