いわゆる「エア取材」
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高野秀行の【非】日常模様
咳がひどいため医者に行ったところ、「咳喘息」と診断された。
私は小学生の頃喘息でひじょうに苦しんだ。三十数年前の悪夢が甦り、げっそり。
ただ、もらった薬を飲むとある程度おさまるようだし、その後、本の雑誌社に顔を出したら
『謎の独立国家ソマリランド』の売れ行きが止まらないと聞く。
やはり、プラスマイナスゼロの法則だ。
ちなみに、杉江さんも電話営業の浜田さんも、「注文が止まらないんですよ…」と、まるで咳が止まらないかのような
困った表情を浮かべるのであるが、一人社長の浜本さんだけ「すごい、すごい!」とストレートに喜びを表現していた。
やはり、社長だけあって幸運をドーンと受け止める器があるのかと思いきや、
好調の反動として来るべき災害に備え緊急用トイレと飲料水をちゃんと準備しているそうである。
☆ ☆ ☆
溝口敦+荒井香織編著『ノンフィクションの「巨人」佐野眞一が殺したジャーナリズム』 (宝島NonfictionBooks)は、
佐野眞一氏がこれまで二十年以上にわたり140件もの盗用・剽窃を行ってきたと「告発」している仰天の内容だが、
私の琴線に触れたのは座談会。
佐野氏がデータマン(アシスタントの記者)を使って取材し、自分では被取材者に会ってもないのに「会った」と書くという話がでて、それを「いわゆる”エア取材”の問題ですが」と言っている(発言者はジャーナリストの今西憲之氏)。
エア取材! しかも「いわゆる」!そんなにこの言葉は有名なのか!
もうおかしくてしばらく笑いが止まらなかった。そのあとも、何か面白くないことがある度に思い出し、ふふふと笑って気を取り直している。
いいなあ、エア取材。
私もデータマンをソマリアに派遣して「エア取材」したいものである。
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