*

趣味は仮説

公開日: : 最終更新日:2012/08/13 高野秀行の【非】日常模様

私は仮説を立てるのが趣味である。何かを見たり聞いたりしたとき、「これはもしや××とつながるのでは?」とか「これがあの○○の原因なのでは?」と思いを巡らす癖がある。
たいていの場合、全くの見当違いだったり、とっくの昔に誰かに発見されていて実はもう世間の常識だったりするのだが、まあ、そういうことを考えるのが好きなのである。

先日も阿部謹也の『ハーメルンの笛吹き男』(ちくま文庫)を読んでいて興味深い記述に出会った。

13世紀のドイツでは、市民権を持っている商人が二種類いたという。大規模な商業活動を営む大商人と通常の市内小売りしか許されない小商人である。
大商人はなんでも扱えるのだが、小商人の扱えるものはひじょうに限定されている。
1353年の規定だと、「脂肪、バター、ベーコン、チーズ、乾葡萄、イチジク、蜜、蝋、塩漬あるいは燻製の魚など」となっているらしい。要するに日常生活に欠かせない基本食品のみということになる(パン屋と肉屋はまた別の分類だったらしい)

こんな差別がなんと19世紀まで続いていたという。

「これは!」と私の仮説脳がときめいた。「ヨーロッパの軽減税率の起源はここにあるのかも!」
軽減税率とは、生活必需品(主に食品)のみ税率を低くおさえるというものだが、日本でも議論されているように線引きがひじょうに難しい。
ていうか、どう考えても無理である。基準が何一つない。

でも、ドイツでは19世紀までこのような「差別」がきちんとあった。つまり、必需品とそうでないものを分ける基盤があり、そこから延長していけば
分類は決して不可能でなかったし、国民にもすんなり受け入れられたのではないか。

てな「仮説」を思いついた。もちろん、ドイツだけにしか当てはまらない話かもしれないし、逆に経済学や歴史学の世界ではすでに常識かもしれない。

誰かに話したくてしかたないのだが、妻は私が日々繰り出す莫大にして無意味な仮説群にうんざりしているようなので、「そうだ、ブログに書けばいいんだ!」と思い当たった。
原稿にするためには、きちんと調べないといけないし、わざわざそんなことをする暇もない。ブログはその点、きちんとした文章を書く必要もなく、
仮説がまちがっていれば、読んだ人が教えてくれる可能性もあり、うってつけだ。

ブログとはもしかすと仮説を書くためにあるのかも!…というのが、今日新しく得た仮説である。

関連記事

no image

エンタメ・ノンフ対談

『怪獣記』の販促で、カメラマンの森清と高田馬場・早稲田界隈の書店周りをする。 どこも『ワセダ三畳青春

記事を読む

no image

エンタメノンフの古典

「不思議ナックルズ」という変わった雑誌のインタビューを受ける。 「実話ナックルズ」の別冊ムックみたい

記事を読む

no image

8年ぶりにアフリカ大陸

 セイシェルの取材を終え、次は旧ユーゴスラビアのセルビアに行くはずが、 急に気が変わって南アフリカ

記事を読む

no image

ゾウ本あらため辺境中毒!

すっかり忘れていたが、今週の20日(木)に『辺境中毒!』(集英社文庫)が刊行される。 『辺境の旅は

記事を読む

no image

時差ボケが治らない

珍しく時差ぼけになり、それがちっとも治らない。 朝頑張って起きても昼過ぎに眠くなり午後爆睡。 で、

記事を読む

no image

マイナー・ミート対談

9月15日(土)にジュンク堂池袋店にて、『世界屠畜紀行』の内澤さんとトークセッション (まあ、公開対

記事を読む

no image

謎の猿人ナトゥー

作家の古処誠二さんが、「藤岡弘の最高傑作」と絶賛するミャンマーで猿人ナトゥーを追う DVDを本当に送

記事を読む

no image

アフガンのケシ栽培の謎

 先週のことだが、ミャンマー・フォーラムへ行ってきた。  ミャンマーで行われている「麻薬(ケシ)栽培

記事を読む

no image

突然、魂の叫び

どこか遠くへ行きたい−−。 これは平凡な日常に飽きた人間がよく思い浮かべることだろう。 私もよくそう

記事を読む

no image

私も外出作家へ

珍しく朝から快晴。 空気が澄み渡り、なにやらトルコのワン湖周辺にでもいるようだ。 部屋にこもっている

記事を読む

Comment

  1. コシチェイ より:

    …オチが全てを物語ってます!仮説は立証され難い、と云う仮説を思い付きました。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年4月
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    282930  
PAGE TOP ↑