踊るダルビッシュの謎
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
斉藤祐樹が日本ハムに入団したため、以前にも増してダルビッシュ有のニュースが多い。
で、思い出したのが、レイモンド・チャンドラー著、村上春樹訳『リトル・シスター』(早川書房)。
フィリップ・マーローが怪しげな医者のところで薬入りの葉巻を吸わされ、
意識が朦朧とするシーン。
「私はダルウィーシュ教の教徒のようにくらくらして、おんぼろの洗濯機のように弱々しく、
アナグマの腹のように低くさまよい、シジュウカラのように怯え、義足をつけたバレー・ダンサーのように勝算を欠いていた」
意識朦朧にそこまで言うかというのがまさにチャンドラーだが、それはさておき、ダルウィーシュ教は気になる。
訳者による注では「熱狂的に踊ることで法悦を得るイスラムの神秘教団」とある。
ダルウィーシュとはイスラム神秘主義の修行僧のことで、
ダルビッシュ有のダルビッシュと同じ言葉である。
彼のおじいさんか誰かが修行僧だったのかもしれない。
イスラム神秘主義は理論を超え、陶酔の中で神との合一をめざすものとされている。
要するに「ハイ」になるわけである。
ハイになるため、彼らは一晩中徹夜をしてコーランを読誦したり(不眠を保つために飲むようになった飲料がコーヒーという説もある)、ぐるぐると旋回するように踊ったりした。
ムスリムの酒好きが神秘主義者を標榜したり、逆に神秘主義者が堂々と酒を飲んで酔っ払ったりすることもある。それも同じだ。
旋回する踊りは、ペルシア(イラン)の高名な思想家にして神秘主義詩人ルーミーが創始したメヴレヴィー教団が有名だ。
今でもトルコのコンヤという町ではその踊りを見ることができる。
(もっとも踊っている方は目が回って陶酔するから気持ちいいかもしれないが、
見ているほうはかなり退屈だ)
この教団は「踊るダルウィーシュ」とも呼ばれたというから、
チャンドラーが書いているのはまさにこれだろう。
わからないのは、どうして本書にこれが比喩として使われているかということだ。
本書の刊行は1949年。雑誌に出たのはもっと前だろうから、第二次大戦直後か。
この小説は文学でなく大衆小説だ。
つまり、第二次大戦直後、イスラム神秘主義の踊りは、誰でもよく知っている、もしくは流行していたものだったということになる。
有名な映画か何かで使われたのだろうか。
ダルウィーシュ関係で何か世を騒がせる事件でもあったんだろうか。
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Comment
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私もダルウィーシュとダルビッシュの関連性が何かあるのか気になっていました(そもそもどこでダルウィーシュについて読んだのかは覚えていないのですが)。イスラームの名前以外でも、人の名前のつけ方に文化の違いや歴史的神話的由来が見えて面白いですよね。何か事件があったというでもなく、「シヴァの女王」のような聖書の中の逸話、もしくは日本では「不惑」が儒教を由来に持つように、自明のことわざ・定型句と化している文化的な断片があるのかもしれません。
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話はちょっとそれますが、
ダルビッシュ有(ゆう)は、
きっと「ダルビッシュ・アリ」ですよね。
日本の戸籍は漢字が全てで読みの規定は無いから。
彼の場合パスポート名はどーなってるんでしょう?www
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日本国籍を取得する人には、カタカナ表記を容してもいいのに、と思います。カタカナも日本語なんだからね。
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ダルビッシュ有はダルビッシュ・アリ!
なるほど、それは気付きませんでした。
可能性、大いにアリだと思います。
ちなみに、今はカタカナ表記OKだと思いますよ。
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チャンドラーは石油会社に勤めていてアル中で首になったそうですが、中東情勢には明るかったのかも知れませんね。
WWIのときはイギリス空軍にいたこともあったけど、訓練中に終戦を迎えたみたいだから、中東に配置されたってことはないんだろうけど。
wikiの解説ですが、dervishが比較的欧州に近い地域で流行していたためか、ヨーロッパ人にとってムスリムの代名詞として使われていたみたいです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Dervish
Various western historical writers have sometimes used the term dervish rather loosely, linking it to, among other things, the Mahdist uprising in Sudan, Mohammed Abdullah Hassan’s 1920 conflict with British forces in Somalia and other rebellions against colonial powers.
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なるほど。
勉強になりますね。
旋回舞踊もヨーロッパの人たちには身近だったのかもしれませんね。