世にも奇妙なマラソン大会
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
帰国した。大人の遠足はなかなかにハードだったが、想像以上に充実していた。
今回私が参加したサハラ・マラソンは、別に過酷さが売り物ではない。
それより「変」なのである。
なぜなら、サハラ・アラブ民主共和国、通称「西サハラ」と呼ばれる未確認国家の独立運動を支援するため、アルジェリア領にある彼らの難民キャンプ周辺の砂漠で行われたからだ。
西サハラはかつてスペインの植民地だったが、
スペインが撤退した直後、隣国のモロッコに占領されてしまった。
住民である「サハラ人」はモロッコ人とは別の民族であり、独自の国家をもとうと
モロッコの弾圧に立ち向かって武力闘争をはじめた。
そのゲリラは「ポリサリオ戦線」と呼ばれる。
日本で最初にこのゲリラを取材したのは私の探検部の先輩であるジャーナリストの恵谷治氏で、彼の案内でこの地を取材し、冒険小説を書いたのが船戸与一氏。
その小説『猛き箱舟』(集英社文庫)は代表作の一つなので読んだ人も多いかもしれない。
1991年にモロッコとポリサリオ戦線は停戦し、国連による住民投票が行われることになったが、モロッコの数々の妨害により実施されないまま20年近くが過ぎている。
(3年前、やはり探検部の私の仲間である古賀美岐がテレビ番組制作のために訪れたが、
なぜか番組にならず、古賀さんはその1年後くらいに、ネパールで急死してしまった。)
モロッコの弾圧から逃げたサハラ難民がいまだ20万人も、草木のほとんどない砂漠のど真ん中に暮らしている。
それがサハラ人難民キャンプ兼西サハラ亡命政府の拠点であり、
つまりポリサリオ戦線後援のマラソン大会なのである。
あるいはマラソン大会がポリサリオ戦線を後援しているともいえる。
ほら、相当変でしょ?
ソマリランドにつづく「謎の未確認国家」第2弾というわけなのである。
どこでどういうふうに書くのか、なーんにも決めてはいないのだが。
(写真上:マラソンも大変だが、途中の移動もけっこうハード。荷物は自分でかついで
砂漠を歩かねばならない)
(写真下)若い女の子たちにモテモテのポリサリオ戦線兵士。
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Comment
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これも高野さんの出番ですね。
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おかえりなさい!お疲れ様でした!
日本では、先週号のananは、本とマンガ特集でした。
載ってましたよ高野さん!アジア未知動物紀行〜♪
「はずしナシ!の41冊徹底ナビ」瀧井朝世さん厳選ページです。
他企画では、角田光代さんの仕事に対するストイックな姿勢が印象的でした。
anan読者はどんな反応をするのでしょうか?うーーん。謎っ
そういう私は高野さんのおかげで集英社の本が本棚に並びました。感謝!
新潮社、講談社、筑摩書房で揃えてたので。
本を通じて、個人の視点や興味のジャンル拡大なんて肩書きを何とするのでしょう?
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素朴なギモンなんですが、42.195kmを砂漠で走ったのでしょうか?
ネットで調べると、最も過酷なマラソン、なんて書いてますが
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内澤さんの『旅先でも本』のそばに絵本『les enfants du polisario(ポリサリオの子どもたち)』を並べているわたしとしては、ソマリランド同様、どこかで書かれることを期待しています。
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西サハラについての著書がある方に伝えたところ、下の写真については、ベレーを被っているのでサハラウィではなく、国連MINURSO隊員と思われるとのことです。
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間違いなくサハラウィ(サハラ人)です。
当時、現場には国連兵士の姿は皆無でした。
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別の方からのメールに、国連MINURSO軍事監視要員なら、ベレー帽は黒ではなく青いはず、と書かれていました。
でも、一見したときは、カーキ色の軍服につばのある帽子が一般的だという印象だったので、アフリカ諸国出身のMINURSO要員ではないかと思ったそうです。
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水を差すようですいませんが、最近「民主主義がアフリカ経済を殺す 最底辺の10億人の国で起きている真実」という本を読み、この手の独立運動をどう考えれば良いのかと考えてしまいました。
この本の著者によると安全保障にも規模の経済が働き、国が小さくなるとより不安定になるということです。著者はデータを元に統計的に処理して得られる定量的な内戦リスクの違いも求めてます。説得力はあります。
アフリカだけで民族言語グループが2000ほどあり、民族独立を許すと、独立した小さな国はさらに不安定になり、際限の無い分裂と内戦が進むであろう、という話です。
この本は経済学的手法で政治を検討するという面白い本です。邦題はトンデモ本のようですが。中身はいたってまともです。
私も消えゆく少数民族を応援したい気持ちを持ちながら、「答えが無いよなー」と思ってたもので、この本は結構グサリと来ました。高野さんならどう思われるでしょうか?