独裁者列伝
公開日:
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最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
いわき市にいるとき、コンビニで『東日本大震災 レンズが震えた 世界のフォトグラファーの決定版写真集」(アエラ臨時増刊・朝日新聞出版)を買って、眺めているが、
何度見ても、さっぱり心に訴えかけるものがない。
恐ろしさや戦慄はテレビやユーチューブのほうが断然上だし、
構成や画像の「美しさ」など、写真家の自己満足にすぎないことがいつも以上に透けて見えてしまう。
沢田教一のピューリッツア賞をとったベトナムの写真も、もしベトナム人が見たら
同じ思いにかられたのではないかと思う。
で、同じコンビニで、もう一冊買ったのは、美的センスのかけらもない劇画。
『独裁者列伝 クーデターの標的たち アフリカ中東革命勃発緊急特集号』(コアコミックス)
こちらも長いタイトルで、今の時局にのっかったものだが、
これは予想以上におもしろかった。
データはウィキペディア程度だし、恣意的な解釈と勝手な脚色に充ち満ちているが、
カダフィ、エジプトのムバラク、チュニジアのベン=アリー、サダム・フセイン、スーダンのオマル・アル=バシール、ジンバブエのムガベをずらっと一覧できる機会はなかなかない。
読んでいくと、ここに登場する独裁者たちには似たようなパターンが繰り返し洗われることに気づく。
・貧しい少年時代をすごす
・貧乏でも入れる士官学校に入学。頭角を現す。
・植民地支配のイギリスもしくはフランス人の差別や偏見を肌で感じつつ、
その技術や知識を取り入れる。
・若くして若手将校のリーダーとなり、クーデターや謀略などで一気に権力を掌握。
・民族主義で人気を得る
・年をとるにつれ、独裁の度合いがひどくなり、汚職と一族専横が加速。イスラムを弾圧。
これは実はカダフィのパターンだが、他の独裁者もこのうち3つか4つは共有している。
時代性なのだろう。
「独裁者」は劇画によく合う。というか、存在自体が劇画みたいなものだ。
ぜひ続編を出してほしい。
希望は、ザイールのモブツ、ベネズエラのチャベス、ペルーのフジモリ、イエメンのアリ・アブドラ・サーレハ、サウジの歴代国王、イランのパーレビ、中央アフリカのボカサなど。
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http://amzn.to/j3LL5s これなんか道は違えど「西南シルクロード」に匹敵する傑作ですよ!
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完全に同意です。
将来、見直す記録として東日本大震災の写真集を買おうかと思って書店で何冊か見ても
どれも作品にしようとしている感じがして良いものがありませんでした・・・
被災者を枠に入れて写すのもいいけど"被災者"を写しているものばかりで
"被災地"を写している写真がどれも少なくて・・・