フロスト警部中毒者に告ぐ
公開日:
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最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
「売れている本はわざわざ紹介しない」というのが私のポリシーなのだが、
全く不本意なことに、ススキノ探偵シリーズは再度紹介せずにはいられない。
その後、第2作「バーにかかってきた電話」と第3作「消えた少年」をむさぼるように読んでしまった。
最初は「チャンドラーの正統な後継者」と思っていたが、読み進めるうちに「フロスト警部のほうにむしろ近いかも」と思い始めた。
フロスト警部も私が大ハマリしたシリーズだ。
あまりに翻訳が出るのが遅いので、残りは英語の原書で読んでしまったほど。
(私が資料以外の英語を読むなんてめったにない)
しかし作者のウィングフィールドが亡くなってしまい、「もうフロストは読めないのか…」と悲しく思っていたわけだが、その穴を埋めるようにススキノの「俺」が現れた。
感激というほかない。
フロスト・シリーズは毎回邦訳が出るたびにミステリの年間ベストテンの1位か2位にランクされるが、実際にはミステリとしてはかなり疑問である。
フロスト警部の推理が全然当たらないのだ。
というか、初っぱならから適当な推理を連発して、失敗を重ねるうち、最後やっと犯人に行き当たるだけだ。
それより、フロストの下品な暴言、規則無視の暴挙、公文書偽造などの悪行三昧と
被害者の遺族に毎回、「遺体が見つかりました」と報告に行く律儀さが矛盾しながら同居する人間くさいキャラクターが魅力なのである。
フロストを読んでいると筋などどうでもよくなる。
というより、続けて読んでいたときは第一作と第二作が別の本だということすら
気にならなかった。
ススキノ探偵もまさにそう。
フロストばりの推理力に乏しく、たいていは出たとこ勝負、空手の達人や新聞記者の友人に頼りまくり、でも毎回事件に対して必要以上の純情さで突っ込んでいく。
(映画の原作「バーにかかってきた電話」では謎の女に翻弄されるだけで、推理なんか何もしていない)
で、同じように、第2作から第3作の切れ目も気にせず読み進めていたのだが、
第3作はさらにすごかった。
事件に巻き込まれた女性に主人公の探偵(便利屋だけど)が恋をしてしまい、
依頼も受けていないのに、勝手に捜査を始めるばかりか、知り合いのヤクザに現金250万円を払って、調査協力を頼むのだ。
おいおい。
ヤクザにカネを積んで事件捜査を依頼する探偵など前代未聞だ。
この作品はすごくイレギュラーな構成で、途中でいったんトーンダウンしかけるが、
そこから終盤に向かって異常なほどにテンションが上がり、
何か別種の小説へと進化する感じすらある。
いやあ、すごいわ、この小説。
私は寝しなに続きを読み始めたら結局、朝の4時半までかけて読了してしまった。
そして興奮さめやらぬ状態でこれを書いているのだけど
ススキノ探偵は、もはやチャンドラーやフロストに似ているとか考えるべきものじゃないんだろうなあ。
ススキノ探偵は、フロスト中毒者ならきっとハマると思うが、
でもススキノ探偵はススキノ探偵であり、他に替わりになるものはない。
クソ忙しいのにこんな流行もののシリーズにハマりこんでしまい、
いろんな意味で遺憾極まりないが、アマゾンで注文した第4作が届くのを待ち焦がれている夜明けであった。
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Comment
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私も昔からこのシリーズは大好きです。
榊原や畝原シリーズもおもしろいですよ。とく『残光』がオススメです。
フロストも読んでみますね。
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フロスト警部もススキノ探偵も読んだことないですが、こりゃすごそう(笑)
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高野さん、よく小説のコメントを書かれますね?
実際の読書のうち、ノンフィクションはあまり読まれ
ないのでしょうか?
あまりブログの紹介で見かけない気します。
こんなのは如何でしょう?
増田俊也 新潮社
「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」
ゴング格闘技誌に連載されていた1600枚の
長編ですが、読み応えありますよ。
プロレスファンとしての高野さんの一言、
読みたいものです。
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このシリーズ、追いかけて六冊目まで読んで止まってました。
今11冊も出てるんですね。
高野さんの文読んでまた読みたくなりました!
とりあえず『描けてきた少女』注文しました。
映画、シリーズ化だそうですけど
『探偵はバーにいる』のタイトルで『バーにかかってきた電話』を映画化しちゃって、ややこしいですよね(笑
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O/T さん
この放送を聞いてから
「木村政彦」幻想をマックスにしています。
筆者もかなり、いい意味で「おかしい人」らしいし。
読まねば!
http://www.tbsradio.jp/kirakira/3pm/thu/index_3.html
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最近、仕事のノンフィクション濃度が高いので、読書はどうしてもそっちから離れる傾向がありますね。
でも、木村政彦のノンフィクションは面白そう。
すぐに注文しましたよ。
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よっしい様、貴兄もそう思われましたか…
高野さん、かなりプロレスを非難してるので怒らないで
下さいね。
作者の方、「シャトゥーン ひぐまの森」を書いた小説家
らしいのですが、格闘技関係者のカテゴリーで紹介され
る文筆家ですね。
私は鍼灸の学校に通っているのですが、
「木村政彦はなぜ…」が柔道整復理論の棚に並んだのに、
「腰痛探検家」は僅かにあるフィクションの棚の、ブラック
ジャックと火の鳥の間に置かれているのです。?
ちなみに「腰痛探検家」は東洋医学臨床論の先生が授業
で絶賛していているのですが、
何故か鍼灸科より柔整科の学生の方に人気があります。
体育会系に好かれるんですかね高野先生の作風は。
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東洋医学臨床論の先生が授業で絶賛???
何をどう絶賛してるんでしょうね…。
治療家から見ると、どこが「ツボ」なんでしょう?
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前略、私らのの教官は、座学担当でも皆、臨床現場に立つ人ばかりです。
病理学や解剖学や生理学で100点とっても、
「こんなわけのわからん患者さまが来るんだよ(ごめんなさい)、
それを施術していくのが、この道なんだよ!
お前ら、臨床現場を舐めているんじゃねーよ!!」
それが教官が高野さんの本を絶賛した理由だと私は思います。
私の今年から臨床現場での実習に立ちますが、
正直、高野先生のような患者さまに当たりたくありません。
(重ね重ねごめんなさい)
ムカつくよな…
東洋医学系は「全敗」な感じがしますから。
でもね、阿佐ヶ谷の南塚先生は大した施術家ですよ。
下手な外科医より凄いすよ。そういう鍼灸師だっているのです。
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それが「絶賛」の理由?
私はいい患者だと思いますよ−。
いくら治らなくてもその先生のことを弁護してやまないのですから。
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お詫びいたします。
教官に尋ねましたところ、
患者さまの目線で徹頭徹尾、書かれているから。だそうです。
かつ、この業界と真価について、冷静な分析をなさっているから
だそうです。
高野さんはとても良い患者さまに違いないが、
そういう患者さまに甘えてはいけない…と言われました。
それと、「一緒に治していこう」という意志がおありなのが、
とても大事なのだとも言われました。
済みませんでした。