霊感はない、ただ見えるだけ
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
工藤美代子『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』(幽ブックス)という本をもらっていたことを思い出し、読んでみたら、むちゃくちゃすごかった。
フィクションでもなければ取材して書いたノンフィクションでもなく、
100%純粋に著者の体験。
病院で死人が出る日にはたくさんの人が集っているのが見えるとか、
誰かが死ぬ運命にあるとその2,3日前にわかることがよくあるとか、
子供の頃から家のものがガタガタ揺れるのは普通だったとか
異常な体験がこれでもかと綴られる。
年々唯物論に傾き、いまや神も魂もまったく信じられなくなっている私だが、
ここまで率直に書かれると困ってしまう。
というか、怖い。
いちばん怖かったのは「元夫の真っ白な家」だろうか。
あるいは「『赤い』人たち」か。
「坂の途中の家」もすごい。
面白いのは工藤さんが「自分には霊感がない」と繰り返していること。
「あるじゃん!」と突っ込みたくなるが、私もそういう人に会ったことがある。
奄美大島の橋口さんという人。
この人は人間じゃない者の声を聴いたり、巨大な火の玉がうちに突っ込んできたり、
しまいには「未知との遭遇」も果たした人だが、
やはり「俺は霊感なんてない」とそっけなかった。
(詳しくは『アジア未知動物紀行』参照ください)
考えてみれば、私が今まで探しに行った未知動物の多くが霊的な存在だった。
あるいは、「見てしまう人」が目撃していた。
似ているなあと思う。
さて、『もしもノンフィクション作家が〜』では
私が『世にも奇妙なマラソン大会』の中の「アジア・アフリカ奇譚」で書いたのに似た話もいくつかあった。
「兄とコビー」は私の書いた「犬好きの家系」に、「知らない住人」は同じく「IT(イット)」を思い出させる。
工藤さんの文章は申し訳ないながら初めて読んだけど、
人間味はあるが情によりかからない簡潔な文体で、
他のノンフィクション作品も読んでみたくなった。
関連記事
-
モガディショで宮田珠己
ソマリランド&ソマリアでは、いろいろな理由で暇な時間がひじょうに長かった。 とくにソマリアの首都モガ
-
ヒマラヤのイエティは神戸で飼育されていた!?
最近、さまざまな未知動物について調べているが、 私が知らなかったことがすごくたくさんあり、 驚きの毎
-
怪物は江川と鶴田だけ
松井優史『真実の一球 怪物・江川卓はなぜ史上最高と呼ばれるのか』(竹書房)という本を書店の店頭でぱ
-
『バウルを探して』が新田次郎文学賞を受賞!!
川内有緒『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)が 第33回新田次郎文学賞を受
-
なぜ北欧人は放射能を恐れてヒロシマに逃げるのか
もはや日記代わりなので、ここにどんどん書く。 29日(火)、「おとなの週末」で連載している「移民の宴
-
スーダン南部、独立へ
スーダン南部の独立をめぐる住民投票がはじまった。 報道では独立派の圧勝と予測されている。 一体どうな
-
ゲバラと私はどこで道を違えたのか?
映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」を見た。 若き日のチェ・ゲバラが友人と一緒に南米を旅する話
-
「イスラム飲酒紀行」気持ちは早くも第2弾
今月25日に発売予定の新刊『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)の予約受付がアマゾンで始まった。 なぜかわ
- PREV :
- 「倒壊する巨塔」は訳が素晴らしい!
- NEXT :
- 舟を編む