*

「倒壊する巨塔」は訳が素晴らしい!

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


ローレンス・ライト著、平賀秀明訳『倒壊する巨塔』(白水社)を読んだ。
素晴らしい本だった。
「イスラム原理主義」と俗に呼ばれるものが、いかにして生まれて成長していったのか、
今ひとつわからないままでいたのだが、この本で、
サイイド・クトゥブ、アイマン・ザワヒリ、ウサマ・ビン・ラディンらキーパーソンたちの
個人の人生をたどっていくとひじょうによくわかる。
だが、もっと感動したのは訳だ。
今は小説に関して言えば、翻訳も昔よりずっとうまくなり、不満を持つことは少ないが、
人文書は全体的に相変わらずレベルが低い。
とくに国際情勢に関するものは、あまりに不自然な日本語が多い。
頭の中でいちいち「俺だったらこう書くのに…」と変換してしまい、
肝心の内容が全然入ってこなくなるのもしばしばだ。
その点、本書の訳はずば抜けていい。
おそらく原文の英語の文章もいいのだろうが、それを生かしつつ、
ひじょうにリズミカルに、日本語らしい表現を駆使して、
なめらかに謳うように物語が綴らている。
中身の険しさにかかわらず、うっとりしながら読み進むことができた。
名著にして名訳だろう。
イスラムや中東が苦手な人にも自信をもってお勧めしたい。

関連記事

no image

ヤノマミ読書VSサバイバル登山家

忙しくてなかなかブログの更新ができなかった。 そうそう、本の雑誌3月号の「冒険本・探検本特集」でと

記事を読む

no image

読書がすすむ

最近ずっと、あまり実にならない取材が続いている。 西へ東へうろうろしているが成果はこれといって、な

記事を読む

no image

人間失格+坊ちゃん=三畳記

「SPA!」のインタビュー記事「エッジな人々」が掲載される。 「見ましたよ、エッチな人々!」と何人か

記事を読む

no image

彼もエンタメノンフ?

意外に思われるかもしれないが、高橋源一郎の文芸評論が好きである。 今日も『大人にはわからない日本文

記事を読む

no image

斉藤由貴とギアナ高地

今さらだが、クドカンこと宮藤官九郎脚本のドラマ「我輩は主婦である」を見ている。 斉藤由貴扮する早稲田

記事を読む

no image

「自分の枠」と「屠畜感覚」

先日コダックフォトサロンで行った角田光代さんとの対談が 講談社の文庫情報誌「IN☆POCKET」に掲

記事を読む

no image

ぶったるんでるのか、それとも…

最近どうにも体調がわるい。 3,4年ぶりに腰痛が再発したのを皮切りに、これまた5年ぶりとも6年ぶり

記事を読む

本日発売。自分にとっては世にも奇妙な本

『世にも奇妙なマラソン大会』(集英社文庫)、本日発売です。 私はたいていすごく苦しんで原稿

記事を読む

no image

『謎の独立国家ソマリランド』PV&オタク本の魔力

『謎の独立国家ソマリランド』発売1カ月を記念して(?)、 プロモーション映像を作った。 http

記事を読む

no image

だから「吸うな」「飲むな」

 金曜日、アメリカで日本の小説やノンフィクションを翻訳出版しているバーティカルという出版社に売り込

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2026年1月
     1234
    567891011
    12131415161718
    19202122232425
    262728293031  
PAGE TOP ↑