*

異文化の二日酔い

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

何でも面白かったり気持ちよかったりすると歯止めが効かなくなるのが
私の悪癖だ。
「ほどほど」でいられないのだ。
最近ハマっているのは異文化取材。
日本に住む外国人に話を聞いたり、料理を教えてもらう。
「おとなの週末」連載の「移民の宴」のための取材で、できるだけ早く
取材を済ませたいという諸事情があってやむを得ない部分もあるのだが、
これが面白い。
全然知らなかったことがわかるのも面白いが、ぼんやり知っていること、なんとなくわかったつもりになっていることが実はその民族や国民の実情と全然ちがうなんてことが
判明したときもすごく興奮する。
気持ちよくて、まるで酒に酔ったような状態になる。
だが、酒と同様、飲み過ぎると分解や消化ができなくなる。
先週はひどかった。
木曜日など、まず午前中はソマリランドとメールのやりとりをし、ソマリアのニュースをチェック。
午後は3月に出るブータン本でどの写真をどのように使うか編集者の人と相談し、
そのあと錦糸町で在日タイ人の世話役みたいな人にインタビュー。
帰りがけ、同じ錦糸町で店をやっているロシア女性を訪ね、
前回のパーティの追加取材。
帰りの電車で木村元彦『誇り』を読みながら旧ユーゴの内戦を理解しようとし、
帰宅後、夜10時から朝鮮族の中国人の人に来てもらい、キムチのための白菜を漬けた。
やっているときはすごく興奮しているし気持ちがいい。
でも終わったらさすがにぐったり。
まるで一日中、ビール、日本酒、焼酎、ワイン、ウィスキー、マッコリ…とチャンポンに飲んでいたみたいだ。
休みたかったが、翌日はまたもや自宅でキムチ漬けと朝鮮料理。
これが午前中からスタートし、買い物を含めて、夜の十時過ぎまで。
もう脳内に異文化分解酵素がなくなったようで、後半は情報がガーガー入ってくるのを
他人事のように眺めている状態だった。
さらに翌日、土曜の午前中にソマリ人にあって最近ソマリアで問題になっている会議について意見を交換したが、ここでついに限界。
帰りの電車で「誇り」の続きを読もうとしたけど、まったく頭に入らない。
頭が痛いし、気分も悪くて、まるっきり二日酔いのようだ。
現実的にも二日にわたる朝鮮料理取材で、うちの中がすべてキムチ化したような臭い。
それでも食材が余りまくっているから、チゲを作って食べた。
まあ、おいしいのだけど。
酒も異文化も量を守ってほどほどにしておく方がいい。
と言いつつ、今日もブータン写真のキャプション付けと被災地のフィリピン人の原稿を書かねばならないのだが。

関連記事

no image

ムスリム力士のことを考えて仕事が手に着かない

ツイッターでもちょっと書いたけど、大嶽部屋に入門したエジプト人力士アブディラーマン(アブディラフマン

記事を読む

no image

アフガンの謎を千葉で解く

火曜日、『アジア未知動物紀行』の最後の著者校正をやっていたら、 校正係から困った指摘を受けた。 アフ

記事を読む

no image

アブディン『わが盲想』ゲラ&取材募集中!!

いよいよお待ちかね、私がプロデュースし5月15日発売(配本)予定のアブディン『わが盲想』(ポプラ社)

記事を読む

no image

角幡唯介はノンフィクション界の村上龍

昨日は東北から帰った直後だったせいか、いつになく「正論」を述べてしまった。 現地に一週間ほど行って「

記事を読む

no image

キワモノ作家の王道娯楽ミステリ!?

久しぶりに新規の(自分にとって)小説を楽しんで読んだ。 田中啓文『チュウは忠臣蔵のチュウ』(文春文

記事を読む

ギラギラと輝く船戸ワールドの原点

知り合いである大学の先生が仕事の忙しさを「まるで障害物競走のよう」とたとえていたが、 私もまさ

記事を読む

no image

世の中は私の知らない番組であふれている

三日間、伊豆に行ってきた。 昼間は外であれこれやっていたのだが、 夜は何もやることがなくすごくヒマ。

記事を読む

no image

え、「謎と真実」?!

学研「ムー」別冊の、こんなムックでインタビューを受けてます。 なんだか、とても懐かしい気持ちになれる

記事を読む

no image

書店泥酔野宿

土曜の午後4時過ぎ、ちょっと用事があって、近所の友人宅に行ったところ、 ビールを出してもらい、すぐ帰

記事を読む

no image

罠、二つ

「Amazon.co.jpで、以前に××の本をチェックされた方に、このご案内をお送りしています」と

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年12月
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    293031  
PAGE TOP ↑