*

見えないサッカー世界大会

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

昨夜、ギリシアより帰国。
行きも帰りも飛行機に乗っている時間(トランジット含む)が24時間を超えるという、移動時間が妙に長く、滞在はたった6日だったが、密度は濃かった。
ギリシアでは「見えないサッカー」(ブラインド・サッカー=視覚障害者サッカー)の第一回世界クラブ選手権を観戦した。
日本は、参加国6カ国中、第5位。
優勝はスペインで、2位ギリシア、3位イタリア(ローマ)、4位イタリア(レッツェ)最下位は、チームを結成してからまだ三ヶ月という初心者集団のドイツ。
日本が勝てたのはここだけだった。
日本(といっても「代表」じゃなく志願者)は、エースのアブディン(拙著「異国トーキョー漂流記」でマフディの名前で出てくるスーダン人)が空回りで無得点、決定力不足が響いた。
初心者のドイツに苦戦するいっぽう、圧倒的強さで優勝したスペインを最も苦しめたのも日本で、「東洋の神秘」を世界に見せつけた。
動きがいいのにどうしてもゴールが割れないとか、格上には惜敗し、格下には苦戦するというのは「見えるサッカー」の日本代表とそっくりだ。
偶然ではない、何か深いところで通じるものを感じる。
ともあれ、見えないサッカーの迫力には驚くばかり。
日本のDFでキャプテンを務めた選手は、パラリンピックの自転車競技で、シドニーで金メダル、アテネで銀メダルを獲得したという凄い人だったが、初日はイタリア、二日目はギリシアの巨漢選手のタックルに吹っ飛ばされて両方とも脳震盪を起こし記憶を失っていた。
日本側も負けていない。
アブディンがイタリア選手に激突して相手の鼻と後頭部を強打、ベンチへ下げたし、もう一人の日本のFWもギリシアのエースFWの手首を思い切り蹴って、これまた負傷退場させた。
11月にはアルゼンチンでW杯が行われる。
ちなみに、見えないサッカーでも世界でダントツに強いのはブラジルで、それに続くのがアルゼンチンだといい、これまた見えるサッカーと同じである。

関連記事

no image

空飛ぶ人

「Free&Easy」というアメリカン・カジュアル専門誌のインタビューを受ける。 インタビュアーの編

記事を読む

no image

やっぱりミャンマーの辺境はいい

 ミャンマーより帰国した。  たった一週間の慌しい旅だったが、同国最北部の辺境地まで行き、イラワジ

記事を読む

no image

元「たま」の石川浩司氏とトークイベントのお知らせ

元「たま」のランニングこと石川浩司氏とイベントを行うことになりました。 前に何度もイベントを企

記事を読む

no image

イベントのお知らせ

2月21日(木)20:00~、下北沢のB&Bにて『謎の独立国家ソマリランド』の刊行記念ト

記事を読む

写真の才能5%、四倍増計画

かつて「高野さんには写真の才能が5%くらいしかない」と友人の写真家G師匠に言われた。5%とは何の

記事を読む

no image

素晴らしき酒飲み書店員飲み会

酒飲み書店員飲み会(ややこしいね)に招待してもらい、一緒に飲む。 千葉周辺の書店員さんたちと出版社の

記事を読む

no image

25年ぶりに天龍源一郎を見た

なぜか一足早く忘年会シーズンになり、 連日飲んでいる。 日曜日は先日本屋野宿を行った伊野尾書店の伊野

記事を読む

2014年に読んだ本ベストテン

新年あけましておめでとうございます。 昨年はほんとうに忙しかった。というか、その慢性多忙状態は

記事を読む

no image

公私混同の推進を!

来年3月ごろ発売が予定されている『世界の市場』という本に掲載用のインタビューを受ける。 インタビュ

記事を読む

no image

入管が素晴らしかった件

木曜日、アブにつき合ってアメリカ大使館へビザを申請に行った。 車両内でアブとはぐれてしまった満員電車

記事を読む

Comment

  1. より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322)
    高野さん、おかえりなさい!映像祭でお会いできず、たいへん残念でした。
    お客の100%が失望されたと思います。心ならずもトリをとらされた人も哀れでした。でも遥々ナガ丘陵奥地から(ま、ヤンゴンに勤務中ですが)やって来てくれたタンコン・ナガの少女が哀調あるナガの歌を唄ってくれたので、お客様も満足されたでしょう。又遠からずギリシャのみやげ話お聞きしたいです。

  2. KOW(つ∀`) より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; (R1 1.5); .NET CLR 1.1.4322)
    あのマフディ……いやアブディンさんがサッカーを!
    見えないサッカー、面白そうですね。
    多分、視覚以外のあらゆる感覚を使うから
    選手の精神力もかなり強いのではないかと思います。
    今年、ダイアローグ・イン・ザ・ダークという
    真っ黒闇の中を、目の見えない人がコンパニオンになって進むという
    ワークショップ形式のイベントに行ってきたので
    余計にそう思います。

  3. 二村 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.0; Mac_PowerPC)
    高野さん おかえりなさい。
    そうですか、ブラインドサッカーも決定力不足ですか。
    この現代においても、奥ゆかしさがまだまだ日本の特質で
    あるということの証左かもしれませんね。
    こりゃ、日本サッカーのポイントは決定力をつける、ではなく
    決定力のないチームをどうやって勝たせるか、に絞るべきですね。
    オシム氏に伝えましょう。
    「古い井戸どころか、新しい井戸にも水はないようだが、
    空気中の水分を結露させれば水は確保できる」とかなんとか
    言うんでしょうか。。。

  4. 小林 純 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.17; Mac_PowerPC)
    いや〜、マフディー君がサッカーで活躍してるなんて!
    うれしくなっちゃいました。
    しかし、アタリの激しい競技ですねえ。
    ラグビーみたいな格闘性を感じます。
    勇気のいるスポーツなんですね。

  5. 二村 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; .NET CLR 1.1.4322)
    先日当地(マレーシア)のニュースで
    目の見えないサッカー大会のアルゼンチン大会の様子を
    見ました。マレーシアが参加していないにもかかわらず
    結構な時間放送していましたが、かなりのスピードと迫力に
    正直驚きました。ほんとは見えているんでは?
    と思わせるすばらしさでした。
    ただ得点した選手が喜んで走り回って味方の選手とぶつかり
    脳震盪で退場するシーンがあり、妙に納得しました。

へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年4月
    « 3月    
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
PAGE TOP ↑