驚嘆のユーゴ・サッカー三部作
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最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様



山田先輩は四万十に帰ってしまいサッカーファン強化合宿は終了してしまったが、
その後も自主練はつづいている。
サッカー本も読み漁っている。
金子達仁『秋天の陽炎』『28年目のハーフタイム』(文春文庫)も面白かったし、
木崎伸也『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済)もサッカーファンを目指すものにとってかゆいところに手が届くような内容だった。
だが、私にとって最大の衝撃は木村元彦(ゆきひこ)のユーゴ・サッカー三部作だ。
現名古屋グランパス監督の「ピクシー(妖精)」ことドラガン・ストイコビッチの
天才ぶりと苦難を描いた『誇り』(集英社文庫)。
ストイコビッチ全盛期にユーゴ代表監督をつとめたイビツァ・オシムの
素晴らしい人間性を描き、「あー、この人が代表監督をやっていたら…」と
読む者を絶叫させずには済まない『オシムの言葉』(集英社インターナショナル)。
そして、ユーゴのサッカーに魅せられたあまり、セルビア(旧ユーゴの中心民族)が
なぜ、いかにして「悪者」にしたてあげられていったのか、現実はどうなのかを
現場で徹底的に取材した『悪者見参』(集英社文庫)。
三作すべてが傑作だが、私は中でも『悪者見参』に驚嘆した。
ノンフィクションとして超一流、それこそワールドクラスである。
木村さんがもしサッカー選手だったら、すぐにバルセロナやマンチェスター・ユナイテッドからオファーがくるだろう。
この本が売れているというのも驚きだ。
だってガチガチのハードノンフィクションである。
そこら中に「難民」「虐殺」「空爆」「憎しみ」という言葉があふれ、
人名はみんな「なんとかビッチ」だし、地名も民族名も耳慣れず、しかも情勢はひじょうに
複雑。それをはしょることなく、すべて事細かに書き記している。
なのに、一般の人もすらす読めてしまうのは、やっぱり中心にあるのがサッカーだからだろう。
サッカーはエンターテイメントだから、サッカーについて書かれたノンフィクションは
どんなに難しくてもエンタメノンフなのだ。
そして、木村さんは熱血漢ながら、要所要所にユーモアがある。
セルビア語・クロアチア語では「そんなの屁のかっぱだよ」というところを
「マンコの煙」というとか、かつてレアル・マドリードをチャンピオンズリーグ優勝へ導いたストライカー、プレドラグ・ミヤトビッチを愛する地元サポーターが
「へい、ミヤト、俺はおまえのペニスだってくわえることができるぜ」という
歌詞の応援歌をつくって熱唱していたなんて話も出ていて、たいへん勉強になるし、
なにより現場の雰囲気が伝わってくる。
いや、ほんとうに脱帽、メッシもびっくりの超絶ノンフィクションだった。
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