*

呆然

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

ソマリアのモガディショでいつも世話になっている友人のジャーナリスト2名が「日本に是非来たい」というので、
ずっと準備をしていた。
アフリカ人が日本のビザを取るのは簡単ではない。
ましてや、ついこの間まで政府がなく、今も尚政府が機能しているとはいえないソマリアではなおさらだ。

こんな書類がいるから用意してほしいとこちらで言っても、
向こうは書類を扱う習慣がないので、いちいちひっかかる。
しかもモガディショには日本大使館はない。
ケニヤのナイロビまで出てビザの申請をしなければならない。
そして、ソマリア人はケニヤのビザを取るのも容易ではないというからややこしい。

あまりに時間がかかり、行き違いも多いので、一時は「俺がモガディショに行って自分で書類を揃え、
それをナイロビの日本大使館に持っていって申請し、ビザをとって
彼らを自ら日本に連れてこようか」とすら思った。

まあ、時間的・経済的にそれはできない相談なので、最近ようやく態勢を整え直し、
FACEBOOKのチャットも併用して、コミュニケーションの円滑化を図ったり、具体的なスケジュールを作成して
その通りにみんなが動くという仕組みを作った。

すると、驚いたことに急に物事が円滑に動き出した。
…なんてことはなく、いきなり2名のうちの1名(しかも主体的に日本に来たがっている方)からメールが来た。

「いま、ノルウェーにいる。難民申請している。だから日本へは行けない」

どっひゃー!
どういうこっちゃねん、と嘘くさい大阪弁で叫んでしまった。

どうやら最初から難民になりたかったらしい。
で、二股をかけていたようだ。
ノルウェーと日本、どちらか先に行ける方に行き、そこで難民申請する、と。

まあ、日本に来てから「難民になる」と言われても往生したことだろうから
最悪の事態は免れたかもしれないが、
私のこれまでの努力はいったい何だったのか。

そして彼らのために5月、6月をフルに利用し、一緒に日本の映像を撮影し番組をたくさん作るつもりでいたのに、
すべてがパーになってしまった。

いやもう唖然呆然である。

ソマリ人とつき合うのは大変とは思っていたが、そもそも普通につき合おうとしてはいけないのかもしれない。
なのに、「暇になったからソマリランドかソマリアに行くか」と考えている自分がいて、おそろしい。

関連記事

今年はこんな本がほしい

新年明けましておめでとうございます。 昨年は私にとってラッキーな年だった。 『謎の独立国

記事を読む

no image

ブランク

2ヵ月半ぶりにスポーツジムの水泳教室に行ったら、 運悪くいきなりバタフライ特集。 あっという間に腕が

記事を読む

no image

本の雑誌年間ベスト10入り

担当編集者から連絡があり、「アジア新聞屋台村」が「本の雑誌2006年度ベスト10」の8位になったそう

記事を読む

no image

写真家・後藤修身の撮ったパキスタン北部辺境

先日、パキスタン北部のフンザ周辺の話を書いたら、反響が大きくてちょっと驚いた。 コメントの他にもメ

記事を読む

no image

そんなときはワッツラヴ

昨日は愚痴めいたことを書いてしまった。 すこし反省している。 ま、気分が落ち込んだときはワッツラヴ

記事を読む

no image

ソフィア・ローレンと苔

  人生で初めてのことだが、妻と母親と三人で瀬戸内を旅行してきた。 金比羅神社、直島、そして倉敷とい

記事を読む

R-40本屋さん大賞ノンフィクション・エッセイ部門で1位(改訂版)

ワンテンポもツーテンポも遅れてしまったが、一昨日発売の「週刊文春」誌上で発表された 「R-40本屋

記事を読む

「ダ・ビンチ」2月号にてオードリー春日氏と対談

現在発売中の「ダ・ヴィンチ」2月号にて、オードリーの春日俊彰氏と対談している。 私はテレビ

記事を読む

no image

スイスのFWはコンゴ人

昨日、本の雑誌の杉江さんとスーダンのアブディンと打ち合わせをし、 寿司好きのアブが、寿司アレルギーの

記事を読む

no image

名著復刊!

知らなかったが、本屋大賞では現在絶版になっている本の復刊も訴えているらしい。 それに応え、集英社文庫

記事を読む

Comment

  1. 光菅 修 より:

    『謎の独立国家 ソマリランド』、『移民の宴』、すごく面白かったです。一時帰国中に購入して、滞在中に一気読みしました。自分もソマリランド東部の謎のピラミッド郡、探検してみたいです。『移民の宴』で紹介されていた場所に帰国後足を運ぼうと思います。成田のタイのお寺や神楽坂のフランス料理のお店なんかに。ではでは。

  2. 高野 秀行 より:

    >光菅さん、ありがとうございます!!
    2月は日にちが合わず残念でした。
    7月か8月、もし都合がつけばぜひ一緒に飯を食いましょう。

  3. 光菅 修 より:

    高野さん、楽しみにしています。

光菅 修 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年8月
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    25262728293031
PAGE TOP ↑