*

新趣味はロマ(ジプシー)音楽

公開日: : 最終更新日:2013/04/16 高野秀行の【非】日常模様

2013.04.15gipsy
最近、急に趣味がいくつもできてきた。
その一つがロマ(ジプシー)音楽を聞くこと。
ジプシー音楽とはセルビアで出会って強く心を動かされ、その後もエミール・クストリッツァの映画を
繰り返し観ながら魅了されていったのだが、
ソマリランド本が出て、ぱったりと仕事が途絶えたところに、決壊したダムのごとく、私の生活になだれ込んできた。

ジプシー音楽の凄さは、誰が聞いても楽しい娯楽音楽でありながら、
プロとして他ジャンルの音楽家も文句のつけようのない高度な技術をもち、
そして核心部には魂があるということだ。
ある意味、私の理想でもある。

もちろん、そんな能書きはあとからついてきたことで、
純粋に音楽に聴き惚れてしまっている。
土地柄もいい。
セルビア、ルーマニア、マケドニア、アルバニア、ブルガリア、ハンガリー、トルコ、ギリシア、など
バルカン半島から中東にかけてが「メッカ」なのだ。

そして「趣味」としてなによりいいのは、もうすでに日本人で先達が存在することだ。
関口義人がその人で、『ジプシー・ミュージックの真実』(青土社)はすごい本である。
最初手に取ったとき、巻末に「厳選ディスクガイド100」と書いてあったとき、「どうかしてるよ」と思った。

ジプシー・ミュージックだけで”厳選して”100もあるなんて多すぎると思ったのだ。
しかし、本書を読みつつ、自分で買ったCDを聴いていくと、100という数字がいかに少ないものかわかってきた。
ジプシーが住む国はヨーロッパ圏内だけでも軽く10を超える。
それぞれが独自の音色や楽器編成をもつうえ、ブラスや弦楽器主体、アコーディオンやツィンバリン(鉄琴みたいなもの)など
実にいろんな形態がある。インストロメンタルもあれば、歌もある。
そんなの厳選しても500枚くらいは必要なのではないかと思うようになり、すっかりオタクの道に入っている。

もっとも私はまだ入門篇でうろうろしているに過ぎず、CDを買うたびに、関口先生の本をガイドブック兼辞典として
開いている。
この本は音楽だけでなく、現在ジプシーの人々がどんな暮らしを送っているのかについても深く探った貴重なルポだ。
帯には「世界でも類のないドキュメント」とあり、前に紹介した大内治『タイ・演歌の王国』(現代書館)もそうだったが、
日本人のオタク的パワーは大したものなのである。

関連記事

no image

カレセン

 “カレセン”という言葉を聞いてことがあるだろうか。 「枯れたおじさん好き」という意味で、“デブ専

記事を読む

no image

生物「超」多様性問題

探検部の後輩で今、テレビのディレクターをやっている男が生物多様性問題について取材をしているというので

記事を読む

「猿になりたい」

本日発売された『マンガがあるじゃないか わたしをつくったこの一冊』(河出書房新社)。 ヤマザキマリ

記事を読む

no image

ソウル・ショック!

ソウルより帰国した。 予想以上に驚くことがたくさんあった。 まず、ひじょうに残念な話。 最初の目的で

記事を読む

本の雑誌はみんなの実家なのか

ツイッターでつぶやいたので重複するようだが、昨日久しぶりに本の雑誌を読んだ。  いつも買おうと思い

記事を読む

no image

私にとって最大最後の秘境はアメリカ

webマガジン幻冬舎で依頼募集中の「メモリークエスト2」更新。 新たな依頼になぜか自分のアメリカ音痴

記事を読む

no image

お湯割をください。涙の数だけ

さまざまな困難を乗り越え、 イランでの「アルコールクエスト」を続けている。 イランに来て、やっと一週

記事を読む

no image

『メモリークエスト』本日発売

まずはお知らせ。 『メモリークエスト』(幻冬舎文庫)、いよいよ本日発売です。 アマゾンや地方では明

記事を読む

no image

モノカキ=ハジカキ

  先日、読者の方からメールで『辺境の旅はゾウにかぎる』の誤りを指摘された。 船戸与一『金門島流離譚

記事を読む

no image

深谷陽というアジア風天才漫画家

日本にいる時間が残り少なくなってきたので、 駆け足で紹介。 先日行われたmixiのイベントに、純粋

記事を読む

Comment

  1. HU より:

    ロマ語などという、これまた高野先生の好きそうなマニアックな言語もありますよね。
    グジャラート語あたりがルーツだということはわかっていながら、各地に分散しているために方言の比較研究もまだまだ進んでいません。
    中東~中央アジア各地にも「ロマニ」を自称とする民族集団が点々と存在していていずれも「音楽」を生業としており、ルーツについては研究者ですら「馬車に乗って続々とインドからやってきた」などとありえないことを書いていますが、個人的にはトルコの軍楽隊の末裔だと考えています。
    トルコ人たちが中央アジアから移動してくる際に、当時すでに精緻を極めていたインド音楽に触れ、その楽士たちを大量に引き連れながら西へ西へと進んでいき、バルカンから撤退する際に取り残された人々ではないでしょうか。それまでトルコ人貴族らに養われていた楽士たちが土着化し、結婚式などの演奏で食い扶持を稼ぎ始めたのだと考えられます。
    ルーツのところではサンタルの音楽などともつながっているのでしょう。
    トルコの軍楽隊がヨーロッパの古典音楽に多大な影響を与えたことは言うまでもありませんが、フラメンコのルーツでもあり、最近お気に入りのIndialuciaは、「フラメンコとインド音楽の1000年ぶりの邂逅」です。
    http://www.youtube.com/watch?v=zReP15usQ3I

  2. 匿名 より:

    私も詳しいわけじゃないですが、ロマの言葉はどうやらグジャラート語よりヒンディー語に近いみたいですね。
    でも、”水”が「パーニー」とか、サンスクリット系の単語はかなり保持してるので
    ちょっと驚きました。

    ロマがトルコの軍楽隊の末裔だとすると、起源はそんなに古くないってことですよね。11世紀か12世紀。言語がかなりしっかりインドの特徴を残しているところや、各地のロマの言葉がまだかなり似通っているのを見ると、妥当なところかもしれません。
    とはいっても、日本でいえば平安時代末期から鎌倉初期。大昔ではありますが。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑