*

新企画持ち込みについて<関係者各位>

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

以前より私のところにはあちこちの出版社やテレビ制作会社・テレビ局より企画が持ち込まれているが、今年に入ってその数はどんどん増えている。講談社ノンフィクション賞受賞でまた新たに企画が来はじめている。

問題なのは、今年何回そういう新企画について打ち合わせをしたかわからないが、
最初から成立しない企画があまりに多すぎる。
相手の問題もあるし、私の方が自分の立場や仕事を説明しておくべきという部分もある。

遅まきながら、基本的な事柄をいくつかご説明したい。

1.現在決定している企画

◎アジア納豆紀行
 これは某社の雑誌で連載が決定している。ただし、今回は単なる私的旅行であり、
タイに来たついでに下見しておこうという程度のもの。だから版元が決まっていると書かなかったが、
複数の編集者から「うちでやりませんか」と打診されてしまった。
そういう編集の方には無駄な企画構成や社内根回しを強いてしまった可能性が高く、申し訳ないとしか言いようがない。
 もっとも、私の場合、連載が決定しているからといって、必ずやるとは限らないのではあるが…。

◎『謎の独立国家ソマリランド』続篇
 これも某社の雑誌で連載予定。まだ一行も書いてないが…(涙)

この2つ以外は未定です。

2.ソマリランドの文庫化
 まだ新刊本が店頭に並んでいる時点で、それについて考えたくないというのが本音。
また、もし文庫化するならあそこかなと漠然とした考えがあるのも事実。
とにかく、それについてしばらくは放っておいてください。

3.新書の書き下ろし・語り下ろし

「新書を書いてほしい」という依頼はこれまでたくさん来ているが、
正直言って無理です。
理由は、私のやっていることにあまりに普遍性がないから。
例えば、言語や語学について書かないかというお誘いをよく受けるが、
私の言語学習法は特殊すぎて参考にならない。

謎の怪魚を探しに行くため、それに特化した会話文「この魚を知ってますか?」「どこで見ましたか?」
「それはよく採れますか?」を作って覚えるとか、三ヵ月やって現地に行き、終われば忘れてしまうなど、
そんな学習方法は誰にも向いてないし、そもそもお薦めできない。

私の旅や探検的行動も同じ。
もともと新書というのは「何かの役に立つ本」でなければいけないが、私の本は何の役にも立たない。
私はあくまで物語作家であり、新書には不向きだとご理解いただきたいと思う。

ただし、「対談で新書」はアリだと思う。

4.テレビのドキュメンタリー企画

これもひじょうに頻繁に話がくるが、スタジオ出演ならともかく、私が実際に現地へ行くという
ドキュメンタリー番組の企画は一度も成立したことがない。

理由は簡単である。
現在、テレビのドキュメンタリー番組は9割方NHKが放映している。
そして私が興味を持っている地域はソマリランドとソマリア。
どちらもNHK的には「ソマリア」でありイコール「危険地帯」。よって、その時点でNGなのだ。

民放の枠で話が来たことはないが、もし来ても結果は同じだろう。

それから「情熱大陸」やそれに類似した番組の企画も来たことが何度かあるが、やはり成立しなかった。
大きな理由は、私がプライベートの撮影が嫌いだから。
私の日常生活は超つまらない。住んでいるところも生活自体も超平凡。
仕事はただパソコンに向かって書くだけ。しかも場所はドトールだし。私の部屋にはアジアやアフリカの土産物は一切なくて、
(私はモノに関心がなくお土産類を買わない)、ただ本がたくさんあるだけの無味乾燥な部屋だ。
私は読者に面白いものを提供したいのであり、つまらないものを見せて時間の無駄をさせたくないのである。

それから、もっと根本的なことは、私は自分の顔や声が大嫌いで、
スチルの写真やラジオですらうんざりだ。
ましてやそれが動いてマヌケ面をさらし、辻褄の合わないアホな言動を繰り返すのは耐え難いものがある。
それでもソマリランドやソマリアなら映像自体が貴重になるので、
テレビと一緒にやってもいいと思うが、それはダメだというのはすでに書いたとおり。

以上です。
こんなことを書くと、「おまえ、何様だよ!」「賞を一つ取ったからって偉そうに」などと思われそうだが、
実際今年に入って一体何度、こういう「打ち合わせ」や「企画の打診」を受け、
メールのやりとりをしたり、実際にあって話したりしていったいどれほどの時間を潰したか考えると暗澹たる気持ちになる。
私だけでなく、私よりはるかに忙しい先方の方々にも労力と時間のロスになったわけで、
お互いのためにやっぱり言っておいたほうがいいと思った次第です。

 

関連記事

no image

イベントのお知らせ

2月21日(木)20:00~、下北沢のB&Bにて『謎の独立国家ソマリランド』の刊行記念ト

記事を読む

no image

サッカーファンになる予定なのに…

着実にサッカーファンに向かって前進しているはずなのだが、 吉祥寺の書店でターザン山本『「金権編集長

記事を読む

英国人の見たSMAP

内澤旬子さんと「日本の食」について話してほしいという依頼があり、 「そんなもん、俺に語れるのか

記事を読む

no image

羨ましい病

ニューギニア、アマゾン、ナイル、モンゴル、タイ、カンボジア…と世界中の辺境に単身で飛び回って、巨大

記事を読む

no image

ボロボロのデビルマンみたいなやつ

月曜日、ヒストリーチャンネルの取材が終わったあと、 探検部の現役学生3名と飯を食う。 うち二人はニュ

記事を読む

no image

「ムベンベ」映画化企画

拙著『幻獣ムベンベを追え』を映画化したいというオファーが来た。 しかもアニメかと思ったら実写である。

記事を読む

吾妻ひでおがもたらした超有用情報

吾妻ひでおの『疾走日記2 アル中病棟』(イースト・プレス)を読んだ。こんな細かい漫画を8年も書き続け

記事を読む

no image

ソマリ語国際放送・東京支局を開局

ソマリランドの首都ハルゲイサに本社をおく「ホーン・ケーブル・テレビジョン(HCTV)」という ソマリ

記事を読む

no image

日本最速の作家

台風のなか、八王子にある宮田珠己ことタマキングの仕事場にお邪魔する。 先日は話し足りなかったし、編集

記事を読む

no image

タンデム三輪車「トライデム」

拙著『異国トーキョー物語』の最終章に「盲目のスーダン人留学生・マフディ」という男が出てくる。 本名は

記事を読む

Comment

  1. 伊藤 渉 より:

    高野先生こんにちは

    関係者でなく 一読者ですがなぜ「俺をインドに連れていけ、ウモッカ探したい」
    とおっしゃってくださらないのですか?

    私達読者が読みたい先生の語学の本はそういう役に立たないものが読みたいわけですし 「アジア新聞屋台村」「アスクル」は其の辺の新書よりよっぽどためになりますよ。

  2. 惑星 より:

    NHKとしては(民放も)危険地帯のドキュメンタリーはだめだったのですね。まじめなNHKとしては札束をリヤカーで運んでカラシニコフ持ってる人が普通にいるような映像は流せない、ということなんでしょうか。

  3. より:

    >>実際今年に入って一体何度、こういう「打ち合わせ」や「企画の打診」を受け、
    メールのやりとりをしたり、実際にあって話したりしていったいどれほどの時間を潰したか考えると暗澹たる気持ちになる。

    これが「売れている」ということです。
    マネジメント会社と(成功報酬のみの)契約してはいかがでしょうか。

  4. タツ より:

    今日のジャパンタイムスにアブディンさんの記事が載ってましたね。でも大半は高野さんからの情報で知ってました(笑)

  5. bossa より:

    アジア納豆紀行。超期待!
    最近、友人の中国人たちにもヒアリングしました。
    中原の漢人は納豆を知らない。
    でも貴州省や雲南省はnadu(納豆の現地語か)を食べるようです。
    そのあたりから伝わって来たのかな~?

  6. うっちー より:

    ミャンマー好きで、高野先生のミャンマー本大好きです。アジア納豆紀行なら、ミャンマー(シャン)も必ず出てきますね! 楽しみにしています!!

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • RT : 北尾トロさんの新刊『人生上等!未来なら変えられる』読了。刑務所出所者を雇用する社長の半生に迫る本。悪の限りを尽くす暴走族総長から売人時代、獄中話に震撼しまくり。誤解を恐れずに言えば、主人公は今現在も過去と地続きの世界に生きる方。それを嘘なく温かく描… ReplyRetweetFavorite
    • 素晴らしい本でした!アウトサイダー青春記としても傑作ですね。こんなふうに一つの言語と真摯に深く向き合えるなんてマジで羨ましい。あと、やっぱり本当に凄い人や作品は制度の外(辺境)から出てくることを再認識しました。 https://t.co/JHWcSBWzfA ReplyRetweetFavorite
    • で、今気づいたんですが、「千葉ルー」の著者名を間違えてました。「斎東鉄腸」と書いてしまったけど、「済東鉄腸」でしたね。失礼しました。訂正します。 ReplyRetweetFavorite
    • 「千葉ルー」で思い出したのだが、私の知人は「千葉に何年も住んでいて日本語も話す言語研究者で今は故郷に帰っているルーマニア人」だった。彼女も「千葉ルー」だな。済東鉄腸さんのことを知っているかも。 ReplyRetweetFavorite
    • ハックは奴隷じゃなかったですね。すみません、間違いました。 https://t.co/S39LyxaidJ ReplyRetweetFavorite
    • 斎東さんはもっぱらネットやSNSを利用してルーマニア語を習い、「ひたすら現地で実践」という私の語学とは真逆に見えるが、そのやり方は手に取るようにわかる。ネットを通していながら、斎東さんも「現場主義」なんだと思う。 https://t.co/406lKPRFVW ReplyRetweetFavorite
    • 発売当初からずっと気になっていた話題作、斎東鉄腸著『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、ルーマニア語の小説家になった話』通称「千葉ルー」(左右社)をようやく読んだのだが、予想を上回る興奮と感動にとらえられた。言語と文学をこんな… https://t.co/CbvWvyPHWa ReplyRetweetFavorite
  • 2023年4月
    « 3月    
     12
    3456789
    10111213141516
    17181920212223
    24252627282930
PAGE TOP ↑