*

エチオピアン・ハードボイルド

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 辺境お宝写真


 エチオピアの荒野を旅していたときのことだ。
 乾いた風と孤独の魂が私に一滴のアルコールを求めさせた。
 その男はただでさえ薄暗いバーのカウンタの向こうでサングラスをかけて座っていた。
 私が近づくと、なぜかニヤリと不適な笑みを浮かべた。
 ある意味では、場末のバーにふさわしい人相風体だ。
 ただ、客としてふさわしいのであって、この男がバーテンであるというのが唯一解せないところだ。
 何者か。
 私は彼に向かって、軽く手を挙げた。彼も手を挙げて応えた。
 
 私たちは一言もしゃべらない。言葉などいらない。
 男と男。それは国境を越え、民族を越えて、ぶつかり合い、もつれ合う絆である。
 私は一眼レフを取り出し、シャッターに指をかけた。
 すると、男はまた手だけで私を制した。
 男は野生動物のような敏捷さで、カウンタをするっと抜け出た。
 右手に何かビンをつかんでいる。
 そして、店の奥にじっとしていた何かをそっと抱き上げた。
 
 それは一匹の小鹿だった。
 まだ、生まれて間もないとみえる。
 男は小鹿にビンの口を向けた。小鹿は嬉しそうにチュウチュウしゃぶりついた。
 ミルクらしい。
 男は私に向き直り、再びニヤリと笑い、親指を立てた。
「この写真を撮れ」ということらしい。
 そういうわけで、こんなバカな写真を撮ってしまった。
 乾いた風がすべての知性を吹き飛ばしていく…(ぴゅるるるーん)。
                 
 <完>

関連記事

no image

全身刺青おやじ

お宝写真・ビルマロード特集<4> カチン州・タナイにて ミャンマーでは刺青を入れている人をよく見か

記事を読む

no image

そっぽを向く家族

辺境お宝写真<6>  ガボンの田舎で出会った家族。 「記念写真を撮ってほしい」というから並んでもら

記事を読む

no image

インディアン、ウソつかない

お宝写真・ビルマロード特集<1> 場所・ナムカム(中国国境近く) ミャンマーで走っている車の大半は

記事を読む

no image

カンフー茶芸

 昨年、周星馳の「少林サッカー」がヒットしたおかげで、香港および中国では、サッカーをはじめ、車の駐車

記事を読む

no image

ねえ、せんせえ、キスしてあげる!

辺境お宝写真<3>  1992年から93年、私はタイ国立チェンマイ大学で日本語講師をしていた。  

記事を読む

no image

幻の幻覚剤ヤヘイ

辺境お宝写真<8> 私は「幻」という言葉に弱い。 だから「幻の幻覚剤ヤヘイ」というものがある

記事を読む

no image

私に向かってひざまづく人々?!

お宝写真・ビルマロード特集<2> 私に向かってひざまづく人々?! テレビのロケに同行すると、ときど

記事を読む

no image

纏足(てんそく)の老婆は実在した!

辺境お宝写真<5>  昔むかし、中国がまだ清と呼ばれていたころ、纏足(てんそく)という習慣があった

記事を読む

no image

大連ファッション・ビッグバン1994

<辺境お宝写真2>  1994年、中国の大連で突然、ファッション・ビッグバンが起こった。  当時、

記事を読む

no image

胎盤ゲットの巻

辺境お宝写真<7>  1993年暮れ、中国・大連で念願の胎盤をゲットした。  長らく探しただけにそ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑