*

小さいおうち

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


中島京子の直木賞受賞作『小さいおうち』(文藝春秋)を読む。
まあ、書き出しから文章がすばらしい。
シンプルきわまりない舞台設定、着実な取材をもとにした昭和十年代の背景や会話、風景の描写、そして黒潮のようにゆるやかで強いうねりをもった展開。
もはや「殿堂入り」であり、年間ベスト1とかそういうレベルではない。
中島さんの文章を読むと、ホッとする。とてもなつかしくなる。
昭和50年前後の実家に戻ったような気持ちになる。
それもちゃんと理由があると思う。
前に中島さんとお会いしたときにご本人に直接話したことだが、
私は子供の頃、文学にはいくらも触れなかった。
ところが、海外の児童文学はよく読んでいた。
とくに岩波少年文庫とか。
当時の翻訳者の文章はとても質が高かった。
一流の文学者と呼べる人が翻訳をしていた。
例えば私が最も愛読したシリーズの一つ「ドリトル先生」は井伏鱒二が訳者だ。
私は井伏鱒二の小説をほとんど読んでいないのに、井伏鱒二の文章には
小さいときから慣れ親しんでいたわけだ。
中島さんも岩波少年文庫はよく読んでいたそうだ。
お父さんがフランス文学の先生だったので、家には他に海外文学の翻訳モノがたくさんあったともいう。
もちろん、中島さんは本物の文学にも子供のころから親しんでいたにちがいない。
だからだろう、中島さんの文章は、昔の文学者が子供向けに書いた文章を彷彿させる。
格調高いのに親しみやすいのはそのせいじゃないだろうか。
     ☆        ☆         ☆
本の雑誌の杉江さんと打ち合わせをしたあと、そのまま開高健ノンフィクション賞を受賞した後輩・角幡唯介と祝い酒。
冒険と性欲の関係性について角幡が激白していた。

関連記事

no image

謎、とける

先日の泥酔野宿のとき、石原たきび編『酔って記憶をなくします』(新潮文庫)をくれた人がわかった。

記事を読む

no image

常識がひっくり返るドキュメンタリー「えんとこ」を見るべし

 12月6日(月)、13:00より、ポレポレ東中野で「えんとこ」というドキュメンタリー映画が特別上映

記事を読む

no image

『ルポ アフリカ資源大国』 

ソマリアに行ったことのある日本人ジャーナリストはいないかと調べてみたら、 毎日新聞のアフリカ特派員だ

記事を読む

no image

愛と追憶の帰国

別にタイトルに深い意味はない。いつものように普通に帰国しただけである。 といっても、今回の旅は

記事を読む

no image

またプロレスの話ですが

三沢光晴の一件について長らく考えていたが、結局「三沢は死んでいない」という結論に達した。 「彼は俺

記事を読む

no image

酒とつまみ 最新号

酒飲みの酒飲みによる酒飲みのための雑誌「酒とつまみ」13号が届いた。 ここの名物インタビュー「酔客

記事を読む

no image

異文化の二日酔い

何でも面白かったり気持ちよかったりすると歯止めが効かなくなるのが 私の悪癖だ。 「ほどほど」でいられ

記事を読む

no image

大分→東京→ソウル

以下、ほぼ業務連絡。 昨日の早朝に東京を発ち、急遽大分へ飛び、竹田市まで往復、 昼は暑さに驚き、夜は

記事を読む

no image

今、モガディショです

今、ソマリアの首都モガディショにいる。 昨年8月と比べると、格段に街が明るく、陽気な雰囲気に包まれて

記事を読む

no image

今こそ難民認定と合コンを!

いまこの瞬間も地震で揺れている。 いつまで続くんだろう、というか地震の巣の上に住んでいるようなものだ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑