*

となりのツキノワグマ

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


ツバルが沈まなくて驚いたばかりだが、
またしても環境問題の常識が覆される本を見つけた。
宮崎学『となりのツキノワグマ』(新樹社)
この前会った関野吉晴さんや望月昭さんは当然のように名前を知っていたが、
動物の死体やカラスの巣など、ふつうの写真家とはちがう目線で動物の生(なま)の姿を追っているフォトグラファーらしい。
土門拳賞も受賞しているから、知られざる凄い人じゃなく、
私が知らなかっただけで、もう有名な人のようだ。
宮崎さんによれば本州ではクマが増えまくっているという。
理由は環境が大幅に改善されたこと。
今、日本の山はよく「人の手が入ってなくて荒れている」とか「緑の砂漠」などと言われるが、それは林業という経済面からだけであり、
多種多様な植物が生い茂り、動物にとって最高に住みやすい環境になっている。
そう、生物多様性が豊富になっているというのだ。
「日本では森がなくなり、クマの居場所がなくなって彼らは里に下りてくるようになった」と、しばしば耳にするが、本書を読む限り、どうやらそれも怪しいというか、間違いのようだ。
まあ、それはともかく、凄い本ですよ、これ。
クマが百年後の子孫のために、樹を傷つけるという話には仰天した。
本当だとすると、生物学や進化論にも影響しそうな説だ。

関連記事

no image

2006年に読んだ本ベストテン(小説部門)

今年、私が読んだ本の中からベストテンを選んでみた。断っておくが、あくまで客観的にして公正無私な選出で

記事を読む

no image

『均ちゃんの失踪』文庫解説

最近、ここで読書紹介が激減しているのは、あれやこれやと雑多に手を広げすぎているせいもあるが、一つに

記事を読む

no image

惜しい!

 前から見たいと思っていた三池崇史監督「ジャンゴ」を見た。  スキヤキ・ウェスタンという異名のとお

記事を読む

『謎の独立国家ソマリランド』電子書籍版、ついに発売!

『謎の独立国家ソマリランド』が発売されてから早1年9ヶ月あまり。 ついに満を持して電子書籍

記事を読む

no image

メモリークエスト締切り間近!

最近すっかりブログでの案内を忘れていたが、 web幻冬舎で連載中の企画「メモリークエスト」は まだ依

記事を読む

no image

だめだめスウェーデン刑事小説

ヘニング・マンケル『殺人者の顔』(創元推理文庫)を読む。 「スウェーデンが世界に誇る警察小説シリー

記事を読む

no image

困ってるいぬ

今週は月曜から金曜日までかけて原稿が一枚もかけないという絶賛大スランプ中だったのだが、 そういうとき

記事を読む

no image

サドゥはバカか

インドにはサドゥと呼ばれる「聖者」がいる。 ヨガをしたり、瞑想したり、 大麻を吸ったり、すっぽんぽ

記事を読む

no image

勇午

先週から慌しい日が続いている。 人に会ってばかりで、いつ誰と会ったのか忘れてしまうほどだ。 義兄の

記事を読む

no image

熊いじめと阿片チンキ

前々から英語圏に興味がなかったのだが、最近ははっきりと拒否反応を示すようになってきた。 おかげで客

記事を読む

Comment

  1. HOGEHOGE より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; ja; rv:1.9.1.10) Gecko/20100504 Firefox/3.5.10
    「森が荒れる」って言葉自体に違和感があります。
    「森」が原生林(天然林)なのか人工林なのかで全然話が違ってくるのに
    素人にはどっちの森の話なのかわかりにくいんですよね。
    「荒れる」って言われると、素人としては生物が住みにくいことを
    想像しちゃうことも、違和感の原因です。荒れる内容にも
    よるでしょうけど。

  2. アジケト より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR 2.0.50727; OfficeLiveConnector.1.3; OfficeLivePatch.0.0; .NET CLR 3.0.4506.2152; .NET CLR 3.5.30729)
    Hogehogeさんに一票。
    ほんとにそうですよね。
    手が入らずに荒れるのは人工林ですから。
    保全する優先順位は原生林が一番だと思います。
    里山なんかは後回しで(笑)。

アジケト へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年11月
     12
    3456789
    10111213141516
    17181920212223
    24252627282930
PAGE TOP ↑