*

加点法の偉大なる記録

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


最近私が島田荘司を強力に勧めたため、友人の二村さんが読んでみたらしい。
で、答えは「島田荘司は減点法では点が低くなるけど、加点法ではすばらしいですね」。
言い得て妙だ。
減点法では上限が決まっている。
『占星術殺人事件』のトリックは5点満点で10点あげたいが、減点法では5点止まりだ。
いっぽう、物語のバランスや整合性、登場人物の会話、描写などで細かく減点されてしまうから(と勝手に判断しているのだが)、総合得点がずいぶんと低くなってしまう。
でも加点法で、各部門を青天井にしたら、他が多少低くても、トリックや志の高さなどで
稼ぎまくり、ハイスコアをたたき出すこと必至。
「その分析はすばらしい!」と絶賛したところ、二村さんは
「だって、僕がいつも『君は加点法ならいい得点なんだけどね…』って言われてるから」
と苦笑していた。
なるほど。
考えてみれば、アスクルに出てくる人はみんな加点法タイプだ。
で、今日読んだ安田純平『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』(集英社新書)もそう。
バランスは決してよくない。
イラクの戦場に出稼ぎに行こうというだけで異常なのに、「なるべく危険なところへ行きたい」と繰り返すし、何が目的かよくわからなくないと思える箇所が多々ある。
最後に「今の日本人もどうせ仕事がないなら戦場に出稼ぎというのも手ではないか」とマジに提案するのを読むに至り、「ああ、この人も加点法なのだ」と納得した。
バランスがよくないと思ったのは、著者本人も読者もこれがまじめで客観的なルポとして
書いている(読んでいる)からだが、実はハチャメチャなノンフィクションとして書けば(読めば)いいのである。
純平さんには、ぜひ「不肖・宮嶋」みたいに、「作家」になってほしい。
で、世間の常識なんぞに背を向けて、「日本の食えない若者は戦場に行くのもアリ」みたいな、現場の体験に根ざした極論をふるってほしい。
ほんと、そう思って読むと、すごい本です、これは。
だってイラク激戦地ど真ん中にある民間軍事会社の厨房で料理人として潜り込んで、出稼ぎのネパール人なんかと同じ立場で半年以上も働いているのだ。
どうかしている。
料理人などやったこともないのに平気で務めてしまうし、爆弾の破裂による振動や爆音で夜よく眠れないがそれより毎日変化がなくて退屈なのが辛いとか、、
この人の度胸、根性、志の高さは半端ではない。
加点法の偉大なる記録としておすすめしたい。

関連記事

no image

日本の路地を旅する

いやあ、昨日は日本がカメルーンに勝って驚いた。 誰がどう見てもダメだというチームが勝ってしまった

記事を読む

no image

今日のアブちゃん

今週の講義のゲストでもあるアブディンのブログを発見した。 ていうか、どうして今まで気づかなかったんだ

記事を読む

no image

「メモリークエスト」は奇書になる

「メモリークエスト」を担当する幻冬舎の編集者2人と打ち合せ&お疲れ様会。 この一ヵ月、頭がどうかし

記事を読む

no image

25年ぶりに天龍源一郎を見た

なぜか一足早く忘年会シーズンになり、 連日飲んでいる。 日曜日は先日本屋野宿を行った伊野尾書店の伊野

記事を読む

no image

在日外国人支援ボランティア

世界中の人たちに二十五年もお世話になりつづけている。 そろそろ何か恩返しをしなければと思い、 在日ア

記事を読む

no image

読書がすすむ

最近ずっと、あまり実にならない取材が続いている。 西へ東へうろうろしているが成果はこれといって、な

記事を読む

グラスワイン100円!! 超激安隠れ家アフリカレストラン「GOMASABA(ゴマサバ)」

以前、知り合った在日アフリカ人の二人が元浅草にレストランをオープンしたというので、 先週、『移

記事を読む

no image

本業

ここんところ、さっぱり本が読めなくなっていたのだが、 なぜか本棚にあった水道橋博士『本業』(文春文

記事を読む

no image

日本はよい国

天気がいいので、相模湖から城山まで山をぶらぶらする。 途中の休憩小屋で酒が売られているのを見て感激

記事を読む

no image

奄美合宿

ツイッターを始めてから、ブログに書いたのかそれともツイッターに書いたのかわからなくなることが多々ある

記事を読む

Comment

  1. ドリアン より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0)
    北朝鮮の金ちゃん家の」ように子供を世襲させた、自らも議員お世継ぎの小泉に自己責任で断罪されたこの人の方を俺は人間として信用する。誰も行かない所へ行って誰も経験したことが無い事をする。高野さんと一緒や。

  2. LP より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; en-US) AppleWebKit/534.3 (KHTML, like Gecko) Chrome/6.0.472.63 Safari/534.3
     いやいや、出足のクエートでの長い就職活動であれだけページ数食ってる時点で、高野さんと同じニオイを感じ取りましたよ、私は。
     本人は至って真剣なのに、やる気が空回りする姿が、お二人とも良く似ておられます。読者には可笑しいです。高野さんがUMAじゃなく軍事マニアだったら同じような本を書かれたのでは。

  3. コシチェイ より:

    AGENT: DoCoMo/2.0 N05A(c100;TB;W24H16)
    昔安田さんの講演会に行って話を聞いた事があります。訥弁で話下手な様子と「イラク元人質」と言うあんまりな肩書き(主催者命名)が印象に残っています。あの純朴な好青年がそんな大胆な事を…?!って、多分タカノさんも思われているはず〜ε=┏( ・_・)┛

コシチェイ へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年7月
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    28293031  
PAGE TOP ↑