*

『雪』断念

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

オルハン・パムク『雪』(藤原書店)を修行のように少しずつ読んできたが、
今日ついに断念。
小説自体が読みにくいうえ、訳がひどすぎる。
訳者はもともと言語学者で、『私の名は紅』(藤原書店)でも「原文に忠実に訳した」と書いている。
しかし、「直訳=原文に忠実」ではないだろう。
「私の考えることを言った」「そのことは難しい」みたいな表現が多すぎるし、
明らかに意味がとれない箇所もある。
全然読書に集中できない。
しかも前に出た『私の名は紅』よりさらに拙くなっているのはどういうことか。
もしかして学生にやらせているのか?
と疑いたくなるレベルだ。
責任は訳者だけでなく、版元にもある。
ノーベル賞を受賞するまでは利益を出すのがひじょうに難しいこの作家の本を出したのは英断以外のなにものでもないが、
読者が読むのをやめてしまっては意味がないじゃないか。
しかし、なにもかも悪いということもなくて、
『雪』のあとに読むと、どの本も文章がすばらしく、ひじょうに読みやすく思える。
まるで大リーグボール養成ギブスをはずしたみたいで、
今ならヘーゲルの「精神現象学」もすらすら読めそうである。

関連記事

no image

エンタメノンフの傑作

巷では有名なのに、私は全然知らないという物事がたくさんある。 おそらくは徳島県上勝町の「奇跡」もそ

記事を読む

no image

部長命令、下る!!

エンタメノンフ文芸部の活動内容をひた隠しにしてきたが、 一昨日更新のタマキング「スットコランド日記」

記事を読む

no image

酒飲み書店員大賞、韓国進出!

韓国のエージェントの人から聞いて初めて知ったのだが、 『ワセダ1.5坪青春記』の帯に(韓国の本にも帯

記事を読む

ここ数年最大の問題作か?

キャサリン・ブーの『いつまでも美しく インド・ムンバイのスラムに生きる人々』(早川書房)を読

記事を読む

no image

花と兵隊

タイ・ミャンマー国境に今でも住んでいる元日本兵(未帰還兵)を撮った ドキュメンタリー映画「花と兵隊」

記事を読む

no image

月刊日本語

日本語教師やそれを目指す人向けの雑誌「月刊日本語」(アルク)のインタビューを受ける。 担当の編集者

記事を読む

no image

西原理恵子『できるかな クアトロ』

私が「解説」を書いた西原理恵子の『できるかな クアトロ』(角川文庫)が届く。 漫画部分は例によって

記事を読む

no image

ぶったるんでるのか、それとも…

最近どうにも体調がわるい。 3,4年ぶりに腰痛が再発したのを皮切りに、これまた5年ぶりとも6年ぶり

記事を読む

no image

ナイロビのカリフォルニアにて

結局、ナイロビ市内は昼前なら歩いても、気をつけさえすれば、 問題ないとわかった。 酒もちゃんと飲んで

記事を読む

善し悪しはわからないけれど。

先週の日曜日、コソボより帰国した。 今回の旅はひじょうに忙しかった。 移動につぐ移動、その合

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年6月
     1
    2345678
    9101112131415
    16171819202122
    23242526272829
    30  
PAGE TOP ↑