*

溝口敦『暴力団』は入門書にして名著

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


タイトルからして素晴らしい。溝口敦の『暴力団』(新潮新書)
「暴力団のいま」でもなければ「ヤクザ最前線」でもない。
よほど、自信がないとこんなタイトルで本を出せない。
内容も、その期待を裏切らない安定感に満ちている。
ヤクザの歴史、現在の状況、しのぎの仕組み、人間関係などが
ひじょうにわかりやすく、しかもヤクザ側にも反ヤクザ側にも傾くことなく、
客観的に網羅されている。
まるで、中国史、中国文学、漢字、日本語における高島俊男先生のようだ。
無論、「基礎知識」であるからそれほどディープではないが、
ここからスタートして、鈴木智彦の「ヤクザ1000人に会いました!」(宝島社)や他のヤクザ・暴力団ものに移っていくと面白さは倍増する。
(『暴力団』の数少ない欠点はヤクザの性格や志向についての情報が古いことだが、鈴木氏の本を読むとそれが補える。結果から言うと、ヤクザのメンタリティは30年あまり大した変化はないようだ)
そして、また溝口さんの本に戻り、今度は『歌舞伎町・ヤバさの真相』(文春新書)といった暴力団系のサイドストーリーに行ってみると、重なる部分はあるものの、また面白い。
どのジャンルでも、高島先生や溝口さんみたいな「わかりやすい権威」がいると、
すごくありがたいのだけど。

関連記事

no image

イスラム飲酒紀行

7月29日(火)、週刊「SPA!」にて不定期連載「イスラム飲酒紀行」が始まる。 イスラムと酒の両方を

記事を読む

no image

今度はサハラかよ

久々に帰国して、待っていたのは書かねばならない原稿の山。 まずまっさきにとりかかったのはサハラ・マ

記事を読む

no image

日本冒険界の奇書中の奇書

(昨日からのつづき) 「冒険家の藤原さん」で「イリアン」といえば、思い出すのは峠恵子の「ニュー

記事を読む

no image

可哀想なレビュアーの話

角田光代の『紙の月』(角川春樹事務所)を読んでから、アマゾンのレビューを見た。 「駄作です」という

記事を読む

no image

ベトナムより帰国

ベトナムより帰国した。 謎の猿人フイハイ(フイホアイ)を探しに行ったのだが、例によって現地は思いがけ

記事を読む

no image

タマキングの気づかい

三省堂神保町本店で宮田珠己ことタマキングとトークショーを行う。 驚いたのはタマキングが「Tシャツを2

記事を読む

no image

人・脈・記

一昨日、テレビ東京のワールドビジネスサテライトで二村さんの特集を見た。 いや、生物多様性(生物資源

記事を読む

no image

カゴの中の鳥のつぶやき

謎の海賊国家プントランドに入ってからもうすぐ一週間。 今は首都のガロウェという町にいる。 滞在し

記事を読む

no image

きっと名人

金曜日の晩に飲みすぎ、土曜日は夕方まで倒れていた。 気持ちわるいまま、なかのゼロホールに行き、柳家三

記事を読む

no image

今更アニー・プルーの衝撃

この前、マイクと話していたとき、「アニー・プルーがいい」と言っていた。 私も十年以上も前、まだ早稲

記事を読む

Comment

  1. 惑星 より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; rv:7.0.1) Gecko/20100101 Firefox/7.0.1
    面白そうな本ですね。早速注文しました。

  2. hu より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; Trident/5.0; BOIE9;JAJPMSE)
    http://www10.plala.or.jp/shosuzki/edit/la/cartel/mexdrugwar.htm
    こんなページを見つけました。メキシカンマフィアの有名人たちを列伝形式で取り上げています。コロンビアで売人と接触していた高野先生には、また違った読み方ができるのではないでしょうか。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年12月
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    293031  
PAGE TOP ↑