*

津波の子ども

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

 津波で両親が行方不明になった子どもについての緊急メールがまわってきた。
 添付された写真を見る限り、欧米系もしくは中南米系の子どもみたいだが、まだ言葉もしゃべれないようで、国籍などまったく不明という。
メールの依頼にしたがい、私も知人にどっとこのメールを転送した。
 すると、それから4時間もしないうちに、バンコクに住む知人から、「あの子どものお父さんが無事見つかった」という連絡が入った。


 このメールをいちばん先に発信したのが誰なのか、また、それがいつのことなのかもわからないが、メールを大量転送することがこういう際、ものすごく有効であることが確認された。
 メールのおかげで、子どもの父親が見つかったのかどうか定かではないが、少なくとも子どもがみつかったという情報が数時間で私のところにバックされてきたのだ。
 考えてみれば、私ひとりで50人くらいにメールを出している。そのうち、10人でもメールを自分の知り合い50人に出すとすれば、500人である。
 そのうち100人が同じ行動をとれば、 5000人。
 つまり、1回の転送で桁が1つ増えるのだ。
 単純計算で8、9回転送されれば、100億人に達し、世界の人口を超える。
 こりゃ、すぐに世界中に伝わるわな。
しかし、困ったのはあとの処置である。
 私は急いで「発見されました」メールを発信した。しかし、私の親切な知人の方々はもう緊急メールを転送しているはずだ。
 つまり、それがまたぐるぐると地球を回るはめになる。
 だが、緊急メールとちがい、「発見されました」メールは、読んだ人みんながホッとしてしまう。そして、転送がめんどうくさくなる。
 実際、私もすごく面倒くさくて、もう少しで放置するところだった。
 つまり、このニュースは緊急メールのように迅速に伝わらないはずである。
 というわけで、子どもが行方不明になったということは知っていても、その父親が発見されたことは知らないという人が世界中に大量に出現することになる。
 そういう人たちはまだせっせと「誰か知ってる人はいませんか」とメールを転送し続けるから、ほんとうに冗談ではなく、2〜3週間で世界中のインターネット環境にある人々全員がこの子どもの存在について知ることになるだろう。
 全世界に顔写真が撒かれた子ども。
 誰もがその存在を知っているのに、名前どころか国籍もわからない子ども。
 こんなの、人類史上で初めてのケースではないか?
 今後海外に出かけたり、日本で外国人に会う際、いや日本人同士でも、「あの子はいったいどこの、なんという子どもだったのか?」という話が挨拶代わりに使われ、もしかすると、人類最大の「共通の話題」として重宝されるかもしれない。

関連記事

no image

ポプラ社で「ムベンベ」キャンペーン?!

ポプラ社の文芸ウェブサイト「ポプラビーチ」の日替わり表紙写真(「本のある風景」)が6月29日、「ムベ

記事を読む

2015年読んだ本ベストテン<ノンフィクション>

今年はブログをほとんど書かなかった。 というか、最近はブログがあったことすら忘れていた。 とても

記事を読む

no image

世にも奇妙なマラソン大会

帰国した。大人の遠足はなかなかにハードだったが、想像以上に充実していた。 今回私が参加したサハラ・

記事を読む

no image

オタクの底力を感じさせる『タイ・演歌の王国』

 タイ女性と結婚し、バンコクに十数年暮らしている友人Aさんが、「高野さん、この本、すごく面白いよ

記事を読む

移住するなら盛岡がいい

先週の土曜日、盛岡市のMORIOKA TSUTAYAでのトークイベントに行ってきたのだが、盛岡の読書

記事を読む

雷王は誰だ!?

昔、コロンビア・アマゾンの町でばったり出会った鬼才ドラマー・のなか悟空さんが主催する D-1ド

記事を読む

no image

「野々村荘」で撮影

「小説すばる」10月号(いつもは毎月17日発売だが今月は連休。15日か18日発売か)が手元に届く。

記事を読む

no image

今年の目標、早くも破綻寸前

今年の目標は「できるだけ仕事をしない」。 もともと私はいろんなことを同時並行でできるタイプではない

記事を読む

no image

犬連れ旅はつづく

 犬との旅を終え、やっと東京に戻ってきた。思えば、ずいぶんいろんな場所へ行った。 いわき市と南

記事を読む

no image

千葉のソマリランド人

千葉県東金に住むソマリランド関係者がいる、と前に書いた。 曖昧な言い方をしてしまったが、その人物、実

記事を読む

Comment

  1. you より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC; ja-JP; rv:1.0.2) Gecko/20030208 Netscape/7.02
    初めまして。
    著作を大変楽しく拝読させてもらってます。
    さて、今回の件結果オーライのような気もしますが、
    下記のページも是非一度ご覧下さいませ。
    目からウロコだと思います。
    http://onohiroki.cycling.jp/comp-mail.htm

  2. タカノ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1)
     YOUさん、ご指摘のサイトを見ました。
     チェーンメールは「してはならない行為」だったのですね。
     いや、勉強になりました。
     どうもありがとうございました。

  3. you より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Macintosh; U; PPC; ja-JP; rv:1.0.2) Gecko/20030208 Netscape/7.02
    こちらこそ気にして頂きありがとうございます。
    わたしとしては、善意の人の心の流れと、極めて合理的でもっともな意見の比較が出来て興味深かったです。

  4. ken より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows 98; Win 9x 4.90; .NET CLR 1.1.4322)
    はじめまして。小生もイタリアの取引先の人から、同じようなメールを1月14日付でもらいました。でも、まだみつかっていないことになってます。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年11月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
PAGE TOP ↑