*

心身がついていかない

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

日本に帰り突然環境が激変し、心身がまったく付いていかない。
2ヶ月近くソマリエリア(ソマリランド、ソマリア、ケニア東部)をうろうろしていて、
一度も腹を壊したことがなかった(というか腰痛以外は体調を崩したことがなかった)のに、
帰国してすぐ下痢になった。
冷たいものの飲み過ぎと急なアルコール摂取、そしてエアコンのせいだろう。
時差ボケもひどい。
というのは、ソマリランドにいたときすでに、「ラマダン時差ボケ」に陥っていたためだ。
ラマダン時は日中の飲食ができないため、夜に活発に飲み食いする。
例の葉っぱももちろん夜に食べる。
すると、朝まで全然眠れない。
ラマダンが明けてもそのサイクルからなかなか抜け出せない。
ソマリ人でもラマダン時差ボケは普通のようだ。
だから、私はラマダン時差ボケが6時間、ふつうの時差ボケが6時間で、
都合12時間ずれてしまっているわけだ。
実際には取材や打ち合わせ、人と会う約束が毎日入っているから、
午後はなんとか起きているが、それでも午後1時までは体が動かない。
で、寝るのは朝の7時。
昨日は鶴見で沖縄系ブラジル人の取材だったが、ここではカルチャーショックが強烈だった。
ブラジル雑貨屋に入ると、なんだかアフリカの雑貨屋的な感じがするので、気持ちがふっとそちらに戻るのだが、なぜか当たり前のように酒が売られていて驚いてしまう。
「え、いいの?」という感じだ。
しかもすぐ横には豚バラの塊やソーセージが大展開。
「オッラーヘ!」と思わず呟いてしまう。
ソマリ語で「おお、神よ!」というびっくりしたときの感嘆詞だ。
ペルー料理店に行けば、ソマリにもいそうな縮れた髪の褐色の女性がベールもかぶらず、胸元の大きく開いたシャツを着て、男の客に酒を出しているし、またもや「オッラーヘ!」
いや、もちろん、ここは日本だし、彼らは日系のブラジルかペルー人だからいいに決まっているが、なぜ人間はこんなに生活規範がちがうのか、ソマリ人をここに連れてきたらどう思うのか、「罰当たりめ!」などと言わず、むしろ大興奮するんじゃないかとか、あれこれ想像し、気もそぞろになる。
さらに、現地で再発した腰痛は健在で、右足は腰から足首あたりまでが痺れたような状態のまま。歩くのもスムーズにいかない。
急に催してトイレに駆け込むのも一苦労だ。
というわけなので、すみません、郵便物や宅配の荷物はまだ開けてもないし、
メールや暑中見舞いのはがきは拝見して心の中で感謝しているのみ、
借りたお金についても同様、
締切が迫った原稿については申し上げる必要もないでしょう。
みなさん、しばし、お待ち下さい……。

関連記事

no image

新刊ラマダン

「在庫一掃読書では本は減らない」という指摘を友人から受けた。 なるほど、それもそうだのだけど、 新

記事を読む

no image

対談は仕事場でなく家庭で

宮田珠己さんとの対談シリーズ「タカタマ対談」の第5弾を 本の雑誌の杉江さん立会いの下、 関東某所に実

記事を読む

no image

オススメ土着的流行歌

今日は珍しく音楽の紹介をさせていただきたい。 シングルCD エコツミ「さくらの日」 二年前になる

記事を読む

no image

セーターの男

メモリークエストを更新した。 面談は2回目、「ペルーに忘れてきたセーターを探してほしい」という トン

記事を読む

「Brutus」にて“辺境小説”を紹介

現在発売中の「Brutus」1.1/1.16合併号の特集は「夢中の小説」。 私も「小説の世界で見つ

記事を読む

no image

ディズニーランド・デビュー

宮田珠己との「タカタマ対談」第3弾はなぜか東京ディズニーランドで。 以前「世界で行きたくない場所は

記事を読む

no image

酒よりカツカレー

モガディショからソマリランドのハルゲイサに戻り、さらに今日、飛行機で隣のジブチに出た。 世間のイメー

記事を読む

黒豆納豆のアボガド・サラダ

今日届いた納豆セットのうち、たった一つだけ入っていた黒豆納豆「光黒」を使ってさっそく料理。

記事を読む

no image

伝説の野人

4日に放映されたテレビチャンピオン「無人島王決戦」という番組にに、 早大探検部OBの二名(ふたな)良

記事を読む

no image

「本の雑誌」存亡の危機

ご存じの方も多いと思うが、世界同時不況のあおりを食らい、 本の雑誌社の経営が突然悪化し、 「本の雑誌

記事を読む

Comment

  1. おみや より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; GTB7.1; EasyBits GO v1.0; .NET CLR 1.1.4322)
    腰痛のことも心配しております。気候や環境の急変、いくらお若くても大変です。どうか、ゆっくり、ゆっくり、お身体をかばって上げて下さい。

  2. コシチェイ より:

    AGENT: DoCoMo/2.0 N05A(c100;TB;W24H16)
    残暑お見舞い申し上げます。若い頃は平気でしたけど、歳を取ったら帰国してすぐは仕事になりませんよね。歳のせい(笑)にしてご自愛下さい。

  3. 山中温泉 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.0; Trident/4.0; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; Media Center PC 5.0; .NET CLR 3.5.30729; .NET CLR 3.0.30729; .NET4.0C; YTB730)
    高野さんは新しい環境に対して適応力がある人、というイメージを持ってたのですが、日本に帰ってきてそれほどしんどい思いをしているとは…
    腰痛も心配ですね。お大事に。

コシチェイ へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年3月
    « 3月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    25262728293031
PAGE TOP ↑