間違う力の巨人、インドにデビュー!!
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
人は私に「間違う力」があるという。
いや、そんなことはない。
というか、私のやってることなど間違いのうちに入らない。
山松ゆうきちの「インドへ馬鹿がやって来た」(日本文芸社)を読んでいると、そういう気分になる。
なにしろ、「インドにはマンガがない。だから絶対売れる!」という確信だけでインドに行ってしまうのだ。
英語もヒンディー語も何一つ知らずに、それどころか六十歳で初の外国がインドである。
単身わたり、ひとりで翻訳して路上で販売する。
しかも選んだマンガは、主人公が敵に八つ裂きにされて無念の死を遂げるという
救いの全くない凄惨な時代劇「血だるま剣法」。
もはや「間違っている」とかどうのというレベルではない。
だが、山松先生はめげない。
再度インドに挑戦、しかも今度はマンガでなくて「漫才」!
それが「またまたインドへ馬鹿がやって来た」
なぜ漫才なのか。
「インドには漫才がないから絶対に売れると思った」と全く同じ発想である。
この辺は、私の「ネットアクセスができないから絶対「月刊刑務所情報」は売れる!」とちょっと似た感じがして不気味だ。
もちろん、これも不発で、さすがの私も「もうこの人にはついていけない」と、
付いてこいと頼まれたわけでもないのに思っていたが、
先日、たまたまITインド人の取材で、思いがけないことを知った。
山松さん、インドのマンガ商業誌で見事にデビューを果たしていたのだ。
私が取材したクリイェティック・ジャパンのラナジットさんという人は、もともとロボット工学を専攻し、人工知能の研究開発を東工大で行っていた科学者なのだが、
「他にも自分の好きなことをやりたい」という理由で、大学をやめて独立。
IT関連の開発会社を立ち上げたが、その傍ら、日本のマンガをインドで売るというビジネスも始めたのだ。
インドでは、出身地であるカルカッタで弟がベンガル語のマンガ雑誌を始め、
そこに日本の漫画家の作品も載せることになった。
そして、最初に選ばれたのが山松ゆうきち・原作、沢本英二郎・画「バラナシの牙」である。
なぜか山松さん自身のHPでは「バラナシの戦争」となっているが、日本語は彼のHPで読むことができる。
これは2年前、NHKがインドで行ったマンガのワークショップで、「インドにいちばん通じた作家」ということで、山松さんが起用されたことがきっかけだという。
そりゃそうだ。山松さんほど、インド人とマンガの関係について詳しい人はいない。
今回のマンガでは、主に麻雀マンガを描いてきたらしい沢本さんとタッグを組んでいる。
古代のインドを舞台に、どんどん森を破壊しゾウの生活を奪う人間と、追い詰められたゾウたちとの壮絶な戦争を描く。
物語も絵のタッチもかなり手塚治虫に似ている。
「ジャングル大帝」や「ブッダ」を彷彿させる。
ラナジットさんに聞くと、「読者の評判はいいですよ。人とゾウの問題は、今現在、
インドで実際に起きていることですからね」
すごい。ちゃんとインドのマンガ商業誌でデビューを果たしてしまった。
インドでは最近やっとマンガに興味をもつ人が増えてきたところだというから、
まさに先見の明があったわけだ。
ちなみに、例の「インドに馬鹿がやって来た」も別の出版社から英訳され、インドで発売されたというから
二重に驚き。
今、世界屈指の経済大国に成長したインドで、山松さんは最先端を走っている。
山松さんを笑っていた私たちのほうが「馬鹿」だったのだ。
ラナジットさんたちは、これからも日本のマンガをゾクゾクと紹介するつもりで、
次の候補は手塚治虫の「ブッダ」と「ブラックジャック」だという。
絵柄や物語の雰囲気が似ているから、もしブッダが連載されたら、インドの読者は
「このテヅカって漫画家の作品は、ヤママツのに似てるな」と思うだろう。
「テヅカはヤママツの影響を受けたのかもしれない」などとマニアの間で議論されるかもしれない。
まったく間違う力は侮れない。
私も心をあらため、月刊刑務所情報はさておき、今後もどんどんと間違って行きたいと思う。
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Comment
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世の中いろんな人がいるのですね〜
孫正義氏も驚愕のエピソードが多いですが
アップル社のスティーブ・ジョブズ氏にも昨年の訃報でその生涯を知り
強引で執拗なこだわりの危なさはあるものの大感動。
高野さんは何と偲ばれるかなとすぐ検索しましたが出てこずガッカリ〜
今も話題にならないので
やはりアップルとかはご使用じゃないのでしょうか?
高野ファンの皆様にもお聞ききしたい彼の生き方はどう映りましたか?
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偲ぶも偲ばないも、スティーブ・ジョブズなんて
死去のニュースが流れたときやっと「ああ、そういう人がいたのか」と知りました。
まあ、またスティーブ・ジョブズの伝記なんかを読むと、
「パッと数十億」の夢が炸裂して仕事にさしつかえるのでやめておきますよ。
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まさかそんなことになってるとは…!!!非常に驚きました!実は私も彼の本をよんでついていけないと思った人間です。ちょっと痛々しすぎるのでなるべく彼の事は忘れようと本棚の隅においていたのですが、たまーにおちてくるんですよねーで、あの暑苦しい表紙を見るたびにその後が気になっていました。ところで最後のインドでは安くXXをするあたりは英語でもきちんとそのままでてくるんでしょうかね?インド人はあのあたりどうおもってるんでしょう?きになります。いやー彼のその後の報告ありがとうございました。さすが高野さんの情報網、すごすぎ。
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ガーーーン!!そ、そ、そんなこともありますよね・・
ご存知なかったら偲べませんね。
しかし、同じ種類の人間だとは思えない稼ぎっぷりです〜
私は、ノートパソコンの形質と梱包材の美しさにアップル教入信。
ジョブズ氏はかなり過激で危険な変エピソード満載。性格も・・
それを一新するような次世代製品への情熱で私達の日常の
パソコン、携帯、音楽業界を大変革した方ですが、変5つ星☆☆☆☆☆で
爆笑したり、しかめっ面になったりしてしまうのでお好きかと思ってました。
けれど、冒険家であっても仕事がおもいっきりストライクですね・・
高野さん、返信ありがとうございました。
スタンフォード大学の演説はあっぱれ過ぎて遺言のよう。是非是非!
Stay hungry,Stay foolish.
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インドは行った事が有りませんが、一度行きたいところでした。
山松先生は凄い。椎名誠さんの著作で、何かお名前だけは拝見していたのですが・・・。
あ、高野先生にはインドは鬼門でしたか・・・失礼しました。
間違う力、は良い言葉だと思います。そんな力が無いと、
進歩もしませんよね。
ソマリランド紀行も楽しみにしています。
ぜひ肩の力を抜いて、お続けください!
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自分もアップル大好き人間です。私も高野さんにプラムさんと同じ質問をしたいとかねがね思っていました。そして高野さんのご返信にあるような答えもなかば想像していました(笑)
ジョブズ氏の伝記はなるべく原書で忠実に読もうと思い、英語版を購入しましたが、あまりのボリュームに道半ばで挫折しかかっております。その代わりに大活躍なのが、伝記をまるまる読み上げたオーディオCDです。もう車の中で聞き、iPodに入れて聞きの必携アイテムです。
しかし改めてすごい人物だったと思います。今はポッドキャストでキーノートを片っ端から聞いてます。
高野さんのブログでアップル関連の話題が挙がると思いませんでした。
今さらですが、R.I.P.。
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hubb7ftさん、ジョブズコメントありがとうございます!!
やはり原書ですよね!私は日本語版を先に読み原書と比較しました。
流してしか読めてないのでCDはいいなと思いました。
あのボリュームがジョブズらしいのですが。
コメントの結びもアップルファンを感じます。
追悼の仕方も皆様々で特に茂木氏の元マイクロソフト社の方との対談が
暴言問題に発展する白熱ぶりに感心。この場の反響も大では!・・と。
私の頭の中では高野さんとジョブズ、
アビエイターの主人公ハワード・ヒューズ(デカプリオ主演映画)なども
辺境チームで繋がっていたのですが経度も緯度も違うのかなぁぁぁ
そんな地図を作っていました。
この場をお借りしましてありがとうございました。勉強し直します。