*

白石顕二さんを悼む

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


今年の3月にこのブログ上で「アフリカの奇跡!」と題する話を書いた。
そこで紹介した白石顕二さんが先日急逝されていたことがわかった。
白石さんは私の「異国トーキョー」をガボン大使館のロビーで読んでいた。ちょうど第二章の「コンゴより愛をこめて」でジェレミー・ドンガラというコンゴ人が登場する場面を読んでいたら、面会すべき人物が現れた。
それがなんとジェレミー・ドンガラだった。
「こんなことがあるんですね!!」と興奮した白石さんはさっそく私に電話をかけてきた。
私は白石さんを知ってはいたが、面識はなかった。
それについてこんな文章をブログで書いた;


 16年前、1989年、ちょうど私がコンゴに怪獣探しに行く前後の頃だが、東京で「アフリカ映画祭’89」というマイナーな催しが行われた。
そのときに舞台挨拶をした映画祭実行委員長がこの白石顕二さんだった。
 白石さんはアフリカの映画、音楽、美術などを日本に紹介した草分け的な存在で、『アフリカ直射思考』(洋泉社)、『ザンジバルの娘子軍』(現代教養文庫)など、評論やノンフィクションも多数発表しており、私も何冊か彼の著作を持っている。
 私がミャンマーから帰国後、白石さんとジェレミーと三人で渋谷で飲んだ。
 白石さんは髪はもう真っ白だったが、おそろしく意気軒昂で、よく飲み、よく食べ、よく喋った。
 ちょうど愛知万博のアフリカ館(アフリカ二十二カ国合同のパビリオン)のカタログを制作しているところで、各大使館からあれこれ文句や注文をつけられ、かなり怒っていた。 万博自体はとっくに始まっているし、一刻も早く完成させなければいけないと焦っている様子でもあった。
 そのあとで、「ついにカタログが完成しました。各国の大使や関係者が美しい、立派だと喜んでくれ、ほんとうに感激です」と書かれていた。
 私のところにもカタログが一部送られてきたが、日本人がプロデュースを引き受けたとは思えない色やデザインのセンスに感服した。
 まさにアフリカが息づいていた。
 白石さんはアフリカ中心の辺境専門旅行会社「道祖神」の月刊ニュースレター「DoDoWorld News」の編集長もやっており、私にも「何か連載してよ」とおっしゃっていた。
 少なくとも、これから二人で面白いことができるだろうと話し合っていた。
 それから一カ月も経たず、訃報である。
 心臓系の急な病気だったらしい。
 なんとも惜しまれる−−それ以上言葉がない。
 これから万博へ行かれるみなさん。アフリカ館へ足を運ぶ機会があれば、ぜひカタログをじっくりとご覧いただきたい。そして、一生を金にもならないアフリカ文化の研究と紹介に捧げた人のことに、一瞬でもいいから、思いを馳せてほしい。

関連記事

no image

乱世をテキトーに生き抜く奥義!!

土曜日、ドンガラさん原作の映画「ジョニー・マッド・ドッグ」の試写会に内澤旬子さんと一緒に行こうとした

記事を読む

no image

万歳!文芸の東スポ

おととい届いた「本の雑誌」今月号の特集は 「読んでない本大会」。 メインは書評家三人が自分の詠んで

記事を読む

no image

だからアメリカは嫌なんだ!

今、バンコクであります。 今回、フライトがノースウェスト航空。9.11以来アメリカの飛行機に乗るのは

記事を読む

no image

エル・ニーニョ

レイモンド・チャンドラー『リトル・シスター』は、訳はいいんだけどいかんせん原作がぐちゃぐちゃの失敗作

記事を読む

no image

ハダカデバネズミのことはソマリ人に訊け?!

もうとっくに出発したと思ってらっしゃる方も多いだろうが、 実はまだいます。 やっと仕事が全部片付い

記事を読む

no image

怪獣ノノゴン、上智に現る!

「探検業界の寅さん」「永遠の日雇い青年」こと野々山富雄氏が 上智大学の対談ゲストに登場。 かつて一

記事を読む

no image

パキスタンの辺境

週刊プレイボーイのインタビューで集英社の会議室に行ったら 探検部で3年先輩のTさんがふらっと現れた。

記事を読む

no image

震災のリアルを超える傑作

本屋大賞を受賞した『謎解きはディナーのあとで』という本を私はまったく見たことも聞いたこともなかった

記事を読む

no image

ハルキとタマキ

「本の雑誌」草むしり早弁号(5月号)が届く。 連載の辺境読書では今回は伊沢正名『くう・ねる・のぐそ

記事を読む

no image

謎の音楽家or神秘思想の徒バウル

ソマリランド本の仕事から解放されてからは、本が思うように読めてとても嬉しい。 先週も面白い本を

記事を読む

Comment

  1. 太郎 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.5; Windows 98; Win 9x 4.90)
    悔しいです。
    一度、お会いしてお話を聞いてみたかったです。
    合掌

  2. 玉川千絵子 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows 98; Win 9x 4.90; .NET CLR 1.1.4322)
    初めまして。
    私は白石さんが中心となって行っていた
    アフリカ映画祭に2003年から参加させて頂いています。
    それが縁で、今回の愛知万博のカタログ作成では
    翻訳の仕事を少々手伝わせていただきました。
    2005年5月の連休にミニ映画祭を行い
    10月には本格的な映画祭を行おうと準備を進めていただけに、
    今回の白石さんの訃報については
    急なことでもあり本当に残念に思います。
    先日愛知万博に行き
    アフリカ共同館に行って来たのですが、
    せっかく白石さんが苦労して作ったカタログが
    一般の来場者の目に触れるところに置いてありませんでした。
    理由はわからないのですが、一般には配っていないとのこと。
    無料配布をするにはもったいない立派なものなのですが
    有償で販売したらアフリカに興味がある人は購入すると思います。
    資料としての価値は十分あるものですから。
    また、印刷部数が少ないようでしたら、
    せめて、各国のブースの受付に
    一部ずつ置くことぐらいはできると思います。
    白石さんのアフリカに対する情熱に敬意を払うためにも
    このカタログを有効活用してもらえたらと切に思います。
    万博のオフィシャルサイトには意見のメールをしておいたのですが…。
    もしこのサイトをご覧の方で今後万博に行く機会がありましたら
    カタログがその後活用されているか知らせて頂けたらと思います。

  3. gorgui より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1)
    はじめまして
    白石さんは、数年前からある本を翻訳していました。柘植書房新社よりの刊行が決まっていましたが、「最後のところがまだだ」といっていたのが思い出されます。多分、パソコンの中にはあるはずなので、刊行されるとよいのですが。
    一緒にお酒を飲めないのが、残念です。
    ご冥福をお祈りします。

  4. 岩田 香 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.0; Hotbar 4.6.1)
    はじめまして。
    今日アフリカ映画祭のウエブサイトを見て驚きました。
    あの元気な白石さんが亡くなられたなんて、、、
    6月のはじめに西荻のお店であったばかりだったのに、、、
    南アフリカ大使公邸で一緒にワインを飲んだり、
    愛知万博のパンフレットの翻訳の仕事、
    多摩美大でアフリカの写真展、
    残念です。
    もっとアフリカを日本に紹介して欲しいと思っおりました。
    ご冥福をお祈りいたします。
    岩田 香

玉川千絵子 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年4月
    « 3月    
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930  
PAGE TOP ↑