ソマリ兄妹来宅の巻
公開日:
:
高野秀行の【非】日常模様
アブディラフマンとサミラのソマリ姉妹がうちに来て、遅まきながらラマダン明けのパーティ。
サミラはシナモン・ライスと羊肉のスープ、ソマリ風トマトとジャガイモのパスタを作ってくれた。
シナモン・ライスはインドや中東のものと同じ。なつかしい味。
羊肉は私がジンギスカン用のものを肉屋で買ってきたのだが、臭みが強く、正直美味しくない。
鮮度が落ちているのだ。彼らには申し訳ないことをした。
私はペルー料理であるタコのセビーチェとナスのチーズ焼きを作った。
彼らはいまだに生の魚は一切食べない。ましてやタコなど、「おぞましい!」という感じだ。
私の隣に座っている黒くて小さい犬はうちの犬マド。
「マド」はソマリ語で「黒」の意味。だからソマリ兄妹はすぐ名前を覚えた。
いっぽう、彼らは妻の名前「ゆか」がなかなか憶えられないらしい。
だから、いつも彼らは私と会うと「マドは元気か?」と犬の安否を気遣い、妻のほうはうやむやにしようとする。
もっとも、イスラム圏では犬は不浄の動物であり、彼らも犬とせっするのは慣れていない。
アブディラフマンはしょっちゅう、うちに来るし、性格がソマリ人と思えないほど温和なので、ビビリのマドもわりと安心して接近するが、
サミラのほうは典型的な騒がしいタイプのソマリ娘。
狭いキッチンの中でマドと鉢合わせると、「きゃー、あっち行け!」と大声で叫ぶ。
両者とも怖がって逃げまどい、料理どころじゃなくなる。
サミラは話もおもしろい。
彼らは二人とも「あしなが育英会」の支援で日本に留学している。
今月はその育英会のサマーキャンプみたいな活動で、富士山麓に5日ほど行っていた。
そこは自衛隊の駐屯地の脇で毎日演習をやっており、迫撃砲だかミサイルだかわからないが、大砲系の音がズドン!ズドン!と響くらしい。
「あー、ソマリアみたい。なつかしい!って思ったのよ」とサミラは嬉しそうに言う。
「だって、生まれてから19年間ずっと聞いていた音でしょ? それが日本に来て一年間全然聞いてなかったんだから…」
大砲の音が故郷の音とはさすが戦国ソマリア出身者。
「これからも淋しくなったら富士山に大砲の音を聞きに行く」と屈託なく話すサミラなのだった。
関連記事
-
-
対談は仕事場でなく家庭で
宮田珠己さんとの対談シリーズ「タカタマ対談」の第5弾を 本の雑誌の杉江さん立会いの下、 関東某所に実
-
-
スリランカ人しかいない焼肉屋
探検部の後輩たち数人と渋谷のラブホ街の真ん中にある焼肉屋に行く。 裏情報誌「裏モノジャパン」の編集長
-
-
後輩がアジア大会で銅メダル
早大探検部の後輩・角幡唯介の『空白の五マイル』(集英社)が売れている。 アマゾンでは、発売から半月
-
-
高野秀行プロデュース第2弾! エンタメノンフ最終兵器登場。
もう高野本やこのブログの読者のみなさんにはお馴染みだと思うが、私の古い友人でスーダンから来た盲目の留
-
-
ユーフラテスの旅の落とし穴
昨日やっとこワンに飛んだ。 延々とつづく茶色の香料として山岳地帯を見下ろし、 「こんなところで河下り
-
-
旅に出るにはワケがある
わけあって部屋の片付けをした。 ゴミためのようで、足の踏み場もなかったのだが、 片付けるとウソのよ
-
-
今度はインド人をアゼンとさせてしまう
また午前中、また別のソマリランド人と会った後、 いつもどおり、ドトールF店に「出勤」すると、なぜかそ
- PREV :
- アフガニスタン本ベストワンはこれだ!
- NEXT :
- 人の旅がうらやましいときは