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ラジカル加藤、現る!

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様

「ワセダ三畳青春記」にちょっと書いたが、探検部の二つ上の先輩で
「ラジカル加藤」という人がいた。
仮名だがわかる人にはわかるだろう。
私たちにとっては「偉大な先輩」としか言いようのない人だ。
現役のときは部会で「本当の探検はいまや宇宙にしかない。山や洞窟なんかやめてロケットの開発をすべきだ」と主張したり、河童団という水泳チームを結成したはいいが、一年間飛び込みの練習に専念して泳ぎにいたらなかったとか、とにかく「ラジカル」な人だった。
就職してからも、ときどき朝、私の三畳間に突然現れた。
あるときは「電気の歴史」という本をもってきて、「タカノ、知ってるか。電気はエジプト時代に静電気が発券されたのがはじまりなんだ」と言う。
彼の会社は船会社である。
「どうして電気の歴史なんて調べてるんですか?」と訊いたら、
「いや、パソコンの使い方を覚えろって上司に言われてな。基礎からやろうと思ったんだ」と平然と答えたのでたまげた。
そこまで「基礎」をさかのぼらなくても…。
そのラジカル加藤さん、今はどこで何をしているのか誰も知らないまま十年近くがすぎたが、先週、屋久島の野々山さんから「加藤が来たぞ!」という驚きの連絡をもらった。
(大学はちがうが、加藤さんは野々山さんの二つ後輩にあたる)
なんでも野々山さんが山の中に立てた自宅で朝から酒を飲んでいたら、
突然ドアがノックされた。
人なんか来るような場所じゃないので「いったい誰だろう?」と思って開けたら、
加藤さんが汗びっしょりになって立っていた。
「おまえ、加藤じゃないか。何してるんだ!」と仰天して訊いたら、
「いやあ、引越したいと思って、住むところを探してるんです」と答えた。
いったい何がなんだかわからない。
「とにかく中に入れ」と言ったら、「いや、すぐ帰ります。水をください」といい、
水をがぶがぶ飲んで帰っていったという。
「いやあ、場所も知らないでいきなり来たやつは初めてだ」とさすがの野々山さんも驚きをかくせない。
「せんずりかいてるときじゃなくて本当によかったよ」
一日何回もするので、突然こられると困るんだそうだ。
それはともかく、加藤さんは何しに来たんだろう。
ラジカルに家探しをしていただけかもしれないが。

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Comment

  1. 尊師 より:

    AGENT: DoCoMo/2.0 D904i(c100;TB;W24H12)
    すごい。おもしろすぎます
    わらいました

  2. 高野氏のファン より:

    AGENT: Mozilla/5.0 (Windows; U; Windows NT 5.1; en-US) AppleWebKit/530.5 (KHTML, like Gecko) Chrome/2.0.172.39 Safari/530.5
    笑いました。
    ぜひ 次回のメモリークエストで ラジカル加藤さんを探してください。

  3. タカ より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322)
    >「いや、パソコンの使い方を覚えろって上司に言われてな。基礎からやろうと思ったんだ」と平然と答えた
     うわあ、ありえないような面白さですね。

  4. NYPD より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.0; GTB6; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.04506)
    ノノさんって、つい最近彼女ができて別人のようになった!って言ってませんでしたっけ?
    なのに、今も屋久島に棲んでおられるということは、あっけなく破局をむかえられたのかなぁ?

  5. NONO より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; GTB5)
    ご期待を裏切って、まことに申し訳ないが、
    来春、結婚の予定です。
    ま、最期までわかりませんが。
    独身最後の好き勝手をしてる毎日です。
    ふたりになっても屋久島に住みます。
    それにしても、アイツの突然の来訪は、
    アセった。

  6. NYPD より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.0; GTB6; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.0.04506)
    それはそれは失礼致しました&おめとうございます!
    お相手の方が、屋久島での生活を承諾しているということは、相当逞しいお人なのですね。
    ならば、『ワセダ三畳...』の向こうを張って、彼女とのゴールインでハッピーエンドとなる『屋久島 生活記』の執筆を!!

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    • 今まで野村監督に特に興味がなかったんですが、加藤さんの本を読んで、すごく好きになりました。人間味にあふれた策士というところ、でも言うことは決して奇をてらわないとか。あと、やっぱりサッチー、スゴい(笑) https://t.co/FrRQVs2IX8 ReplyRetweetFavorite
    • あ、そうだったんですね。名監督の知られざる一面を描いているし、著者ご本人の青春記風でもあり、『嫌われた監督』を彷彿させました。落合夫人とサッチー夫人もよく似てるし(笑)いや、面白かったです。 https://t.co/66kmDl74FN ReplyRetweetFavorite
    • 先月から自分の単行本原稿が佳境に入り、読書が全くできなくなっていた。他人の文章が頭に入らない。なんだけど、今日一息ついたあとで、なぜか加藤弘士著『砂まみれの名将 野村克也の1140日』(新潮社)を一気読みしてしまった。あまりにも自分の仕事と関係がなかったのがよかったのかも。 ReplyRetweetFavorite
    • 単行本を一冊書くのはエベレスト登山にも似ている。頂上に近づけば近づくほど一歩進むのが辛くなる。でもようやく『イラク水滸伝』本文の最終稿を書き終えた。あとはエピローグと参考文献、写真のセレクト、地図の作成、ゲラ校正、専門家への確認……頂上までまだけっこうあるな…。 ReplyRetweetFavorite
    • 文庫1位が久生十蘭!そそられる!! https://t.co/OWK4Bvakwo ReplyRetweetFavorite
    • RT : 本当に良かった。 傍聴していた知人によれば、「著しく正義に反する」という強い表現で無罪が言い渡たされたとのこと。つまり、リンさんの孤立出産での死産を罪に問うこと自体が正義に反するとの判断。 これを機に、日本に暮らす全ての女性の妊娠・出産・選択の… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 崩れたとき生きるすべがなくなる。はずれたものを生息する余地をとっておくこと。中心と周縁。クリエイティビティはいかにして生まれるのかについては、秩序にあわない変なものを見つけ、探しにいく勇気、変なものをみつける臭覚のことなど。理系文系の枠を超… ReplyRetweetFavorite
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