辺境ミステリの醍醐味
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最終更新日:2012/09/24
高野秀行の【非】日常模様
私はついこの間まで「辺境作家」と名乗っていたくらいの辺境好きだが、年を追うごとにその度合いがどんどん強まっている。
最近ではアメリカやイギリスの文化や歴史に全く興味が持てない。小説でもノンフィクションでもアメリカやイギリスが舞台になっていると
読む気がしない。
そこで困るのがミステリである。私は海外ミステリも好きなのだが、圧倒的に英米が強いのだ。
英米以外のヨーロッパが舞台ならまだ耐えられるので、最近ではアイスランドのインドリダソンが気に入っている。でも欲を言えば、欧米以外が舞台になっている、しかも登場人物もなるべく欧米人ではなく現地の人が出てくるミステリが読みたい。
その点で70年代のラオスを舞台にした「老検死官シリ先生シリーズ」は理想的なミステリだった。
シリ先生を読んでしまうと、次がしばらく続かなかったが、このほどT.S.ストリブリング『カリブ諸島の手がかり』(河出文庫)というこれまたユニークなミステリに出会うことができた。
こちらは1920年代のカリブ諸島を舞台にしているという、実に渋い小説だ。
しかも、単に舞台が辺境というだけではない。物語もひじょうに風変わりだ。シリ先生とちがって、こちらは同時代、つまり1920年代に発表されている。
なんとヴァン・ダインのフィロ・バンスが登場する前だという。
なのに、すごく現代的なのである。著者は西欧文明に批判的で、現地の人たちを見下すところがほとんどないし、探偵役であるポジオリ教授(現地人ではなくイタリア系アメリカ人)は
いっこうに事件を解決できない。できないのに、毎回僻地の島で起きる事件に首をつっこむ。
キャラクター的には金田一耕助なのだが、頭の中身は等々力警部(だっけ?)という感じだろうか。
そして、事件の背後に流れるテーマは毎回、哲学的な要素をもっているうえ、現地の雰囲気が実にリアルに伝わり、(ここが大事なのだが)、シニカルなユーモアにあふれている。
正直言ってミステリとしては、どの短篇も謎が完全に解き明かされなかったり、推理に首をひねる部分があるのだが、それ以上に「アンチ・ミステリ」もしくは「メタ・ミステリ」っぷりが面白く、次へ次へと読み進めてしまった。
シリ先生にしても、ポジオリ教授シリーズにしても、作者は欧米人である。1920年代にカリブ諸島を旅したり、現在でもラオスに長期滞在する欧米の小説家は珍しく、
その時点ですでに他の作家とはちがった方角を向くのかもしれない。舞台が辺境というだけでなく、内容的にも相当に辺境で、驚くほど私好みである。
他にも辺境ミステリはあるのだろうか。ご存じの方は教えてください。
(私の言う「辺境ミステリ」は、作者が現地に行ったことがあり、よく知っているものにかぎります)
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Comment
こんにちは。私も本が大好きです。ミステリーも好きです。高野さんオススメの『シリ先生』も今日オススメの本も興味津々です。是非読んでみたいです。
金田一耕介…旦那さんが映像の方ですけど好きで、昔、夜夜中、暗い中で一人静かに焼酎をお供によく見ていました。うぅぅ、… 不気味…私は苦手です。しかし苦手と言いながら、京極夏彦さんの京極堂シリーズ等は「うっ…、」とか「ぐっ…、」とか言いながらも、時々榎さんの可笑しさに和まされ救われながら何とか最後まで読めました。^^
高野さん、高野さん好みの素敵な辺境ミステリー本が見つかるといいですね。あっ…、高野さんご自身でお書きになられるというのはどうでしょうか?!! うわぁーっ♪ そうなったら素敵です。是非是非読んでみたいです。
うーん、自分で書くのか…。思いつかなかったですねえ。むむむ…
ど、どうしましょう…滅茶苦茶嬉しいです。(≧ω≦)私にとっては雲の上のずーっと上の憧れの存在な方なのに…まさか返信を頂けるなんて…夢のようです。本当にありがとうございます。
はい!!楽しみにしてお待ちしてますので是非素敵な辺境ミステリーをお願いします。(*^_^*)
いつも楽しく拝見させて頂いています^^
特に本選びではいつも参考にさせて頂いています。
辺境モノでお薦めは「ガラパゴスの怪奇な事件 」です。
ノンフィクションなのでミステリーと言っていいかどうかは
定かじゃないですが。。。
絶版となっていますが、アマゾンマーケットプレイスで1円で出ていました。
でも、もう読まれてるかもしれないですね^^;
「ガラパゴスの怪奇な事件」、私の意図とは全然ちがうのですが、たしかに興味はそそられますね。1929年といえば、くしくも「カリブ諸島の手がかり」が発売された年。この頃、中南米の島嶼部へ行くのが流行ったのでしょうか。アマゾン中古で1円なので、注文しました。楽しみです。