*

英雄の葬儀

公開日: : 最終更新日:2012/05/28 高野秀行の【非】日常模様


 先日、私がチェンマイに見舞いに行ったシャン人の長老セン・スック(別名クン・チャ・ヌー)が亡くなった。私が最後に彼の顔を見てから二日後のことだったという。
 セン・スックは、1935年、シャン人の著名な政治家クン・チャ・ブー(ビルマのアウン・サン将軍とパンロン条約を交わしたシャンの代表者の一人)の息子で、学生時代に仲間たちとシャン独立を目指し、武装闘争に突入。シャン州軍(Shan States Army)の創設に参加した。
1970年から75年まではシャン州軍のリーダーとして、ビルマ政府軍だけではなく
「麻薬王」クンサーの軍隊とも戦闘を繰り広げた。
「クンサーが最も嫌がった男」という評もある。
75年にゲリラ活動をやめ、チェンマイに下りて、「堅気」になったが、
シャンはもちろん、カチンやカレン、モン、パオ、ワなどビルマの各少数民族の武装勢力にも多大な影響力を持ちつづけた。タイの政治家にも太いパイプを持っていた。
そして、没するまで、「シャン州憲法制定委員会」の委員長を務めていた。
1993年、私はセン・スックに初めて出会い、それ以来、14年にわたって「師事」してきた。95年に私がワ州でケシ栽培ができるように取り計らったのも、2002年にカチン州を旅できるようにセッティングしてくれたのも、彼である。
特にワ州での長期滞在は今でもチェンマイの各ゲリラの間で「伝説」となっている。
あまりにワ州が閉鎖的で情報がないので、私の本のコピーを読んでみんな勉強しているくらいだ。
彼らの認識では、行った私がえらいのではなく、行かせたセン・スックがえらいのである。そして、それは100%正しい。
葬儀は17日、チェンマイのシャン寺院で執り行われた。
写真を見る限り、それは「英雄の国葬」とでも呼べるものだった。

市内を、シャンの「国旗」を先頭に練り歩く。

坊さんが多数参加。タイの警察がちゃんと警護している。

棺は「山車」の上に乗せられている。まるで神輿のよう。

息子3人は、いずれも即座に出家したらしい。タイでも格式の高い家では、親しい家族が亡くなると同じように出家することがある。出家の期間は決まってないが、だいたい3ヶ月くらいが多い。
セン・スックはとにかく、プライドの高い人だった。
ここまで立派な葬儀が執り行われ、満足していることだろう。

関連記事

no image

本格エンタメノンフの傑作

平松剛『磯崎新の「都庁」』を読了。 著者については恥ずかしながら全く知らなかったが、2001年に同

記事を読む

no image

ウモッカのトゲ!?

早稲田での上映会では錦鯉専門誌という珍しいものと トナカイのぬいぐるみ(?)という奇妙なものをいた

記事を読む

no image

スットコランド日記

宮田珠己ことタマキングが「web本の雑誌」で連載している 「スットコランド日記」(毎週月曜更新)を読

記事を読む

no image

え、「謎と真実」?!

学研「ムー」別冊の、こんなムックでインタビューを受けてます。 なんだか、とても懐かしい気持ちになれる

記事を読む

no image

美しき日韓問題

講談社ノンフィクション賞を受賞した安田浩一『ネットと愛国』(講談社)を読んだ。 丁寧に取材した

記事を読む

no image

もう一人の「高野秀行」と飲む

ついに夢の同姓同名対談(といってもただの飲み会だが)が実現した。 相手は将棋の棋士・高野秀行五段。

記事を読む

no image

ダメ男子ロマン大作

「人のやらないことをする」がモットーの私は、 これまで盆と正月とGWだけはせっせと働き、 そのほか

記事を読む

no image

高野秀行の新刊、続々?!

「高野秀行」の本が続々と出ている。 今度は五段ではなくたしかに私の本なのだが、 韓国語版だ。 すで

記事を読む

no image

「クロ高」英語版届く!

私が熱狂的な「クロ高」ファンだということは意外に知られていない。 クロ高とは、少年マガジンで連載し

記事を読む

no image

2011年のベスト本はもう決まった!

数日前、増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)を読了した。 これほど面白くて

記事を読む

Comment

  1. 太郎 より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.0; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; Media Center PC 5.0; .NET CLR 3.0.04506)
    たった今まで、竹田さんがクン・チャヌさんのことを話していたのに
    英雄が消えていくな〜
    合掌

  2. KOW(つ∀`) より:

    AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 2.0.50727)
    まさに英雄だったのですね……合掌。

太郎 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年12月
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    293031  
PAGE TOP ↑