アフリカの奇跡!?(1)
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最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
先日刊行した『異国トーキョー漂流記』に関して、奇遇としか言いようのない出来事があった。
本書ではジェレミー・ドンガラというコンゴ人が登場する。
彼はコンゴ人として初めて日本に留学した人であり、世界的作家エマニュエル・ドンガラの弟でもある。
私はジェレミーと知り合ったおかげで、エマニュエルにも出会い、彼の小説を翻訳したおかげで卒業することができた。それについては本に詳しく書いた。
ジェレミーは今から9年前に日本人女性と結婚、アメリカへ移住した。そして、そこでずっと暮らしている。
…と思っていたら、なんと日本にいた。
「発見者」が通報してきたのだ。
発見者は白石顕二さんという人。
最初、何者かわからなかったが、電話の声を聞いてハッとした。聞き覚えがあったからだ。
今からなんと16年前、1989年、ちょうど私がコンゴに怪獣探しに行く前後の頃だが、東京で「アフリカ映画祭’89」というマイナーな催しが行われた。
そのときに舞台挨拶をした映画祭実行委員長がこの白石顕二さんだった。
白石さんはアフリカの映画、音楽、美術などを日本に紹介した草分け的な存在で、『アフリカ直射思考』(洋泉社)、『ザンジバルの娘子軍』(現代教養文庫)など、評論やノンフィクションも多数発表しており、私も何冊か彼の著作を持っている。
私は名前をよく知っているだけに、そんな人から突然連絡が来たこと自体が驚きだった。
その白石さん、今、ちょうど「愛知万博」のアフリカ諸国広報の手伝いをしているという。
日本政府は万博用資金として、アフリカ各国に100万円ずつ配ったと言う。
一人100万円ならわからないでもないが、一国100万円とはバカにした話だ。
これじゃパンフレット1つ作ることもできない−−。
そう思ったアフリカ諸国が30集まり、共同でパンフレットを作ることになった。
100万円も30カ国集まると3000万円になるからだ。
アフリカ通で出版の仕事にも携わっている白石さんが、コーディネーターとして手伝うことになった。
その仕事でガボン大使館を訪れた。
担当職員が現れるまで、白石さんはロビーで私の『異国トーキョー漂流記』を読んでいた。
(ちなみに、白石さんは「私は高野さんの本はみんな読んでますよ。アフリカ関係者の間では高野さん、有名ですよ」とありがたいことをおっしゃっていた。)
彼がちょうど第3章のジェレミー・ドンガラのところを読んでいたとき、担当職員がやってきた。
そのときは名刺交換をして、仕事の話をしただけで、気づかなかったが、あとで家に帰って名刺をよく見れば、ジェレミー・ドンガラと書いてある。
「これは、本に出てきたコンゴの人じゃないか?!」
驚いた白石さんは、再びガボン大使館に電話して確かめると、果たしてその職員はジェレミーだった。
いくら隣の国とはいえ、コンゴ人がガボンの大使館にいるとは思わなかったので、すぐには気づかなかったのである。
白石さんは集英社でも仕事をしていたので、編集者を通じてすぐに私に電話してきた。 彼は興奮しながら話した。
「いやあ、本を読んでいるとき、その登場人物が目の前に現れるなんて、信じられませんよ。ふつう、ありえないですよね?」
ほんと。そんなケースは聞いたことがない。
(つづく)
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私、ある事情により元ガボン大使ドンガラジェレミさんを探しています。
もし、こちらに書かれている人物と同一人物で現在連絡がとれるならば
こちらのメールにその情報を教えていただけないでしょうか?
よろしくお願いします。
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