女帝の出版記念パーティ
公開日:
:
最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
滅多に人の出版記念パーティには行かない(呼ばれないともいえる)のだが、
土曜日は特別。
「日本ビルマ語界の女帝」とも言われる土橋泰子先生が訳した
『ビルマ商人の日本訪問記』(連合出版)の出版記念だからである。
土橋先生は大阪外大の学生だった1957(昭和32年)にビルマに一年間留学した。
日本で戦後最も早くビルマに留学した学生で、しかも日本政府に金がなく、
ビルマ政府に奨学金をもらったというから凄い。
帰国後は外務省に4年勤め、それを辞めたあとも
1978年から現在に至るまで30年も外務省のビルマ語講師を務めている。
つまり外務省のビルマ(ミャンマー)担当官僚はすべて先生の教え子であり、
外務省では某夫人と並び、「二大女帝」と呼ばれ、名前を聞くだけで誰もが恐れおののいている。
ちなみに私の義姉も東京外大で先生にビルマ語を習い、今でも顔を会わせると緊張で足の震えが止まらないとか。
だから、私も呼ばれたらただちに出頭しなければならないのだ。
…なーんてことは全然なく、土橋先生はほんとに腰の低くて冗談なのか天然なのかわからないギャグを連発する楽しいおばさんである。
人並みはずれた好奇心の持ち主で(まあ、そうでなければ当時ビルマへ留学しようと思わないだろうが)、留学していたとき、当時まだ首狩りをバリバリやっていたナガ族の人たちと出会って意気投合したというし、最近でもミャンマーの辺境をちょくちょく訪ね、
その辺を歩いているアリを見つけてはいきなり指でぶちゅっと押しつぶして食べるという奇癖があるという。
辺境研究者としても私の大先達なのだ。
今回の訳書もおもしろい。特に最後の「オチ」にはあっと声が出てしまう。
今月号(10日ごろ発売)の「本の雑誌」で紹介しているので、詳しくはそちらをご参照ください。
関連記事
-
-
エンタメ言語学者・黒田龍之助がおもしろい!
ときどき一緒に飲む編集者のAさんに「黒田龍之助の本は面白いですよ」と勧められた。 以前、NHKロシア
-
-
「ミャンマー」じゃなくて「バマー(ビルマ)」だった
昨日、高橋ゆりさんからメールが来た。彼女も『ハサミ男』に名探偵サンシャーの話が出てくることにびっくり
-
-
おお、神よ、私は働きたくない
宮田珠己待望の新刊『なみのひとなみのいとなみ』(朝日新聞出版)が発売された。 単行本の新刊は一年半ぶ
-
-
エンタメノンフの古典
「不思議ナックルズ」という変わった雑誌のインタビューを受ける。 「実話ナックルズ」の別冊ムックみたい
- PREV :
- 新しい探検部の部室とゴリラ
- NEXT :
- 祝!第3回 酒飲み書店員大賞受賞