ゴール目前で足がつったマラソンランナー
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高野秀行の【非】日常模様
2月刊行の『謎の独立国家ソマリランド』が佳境だ。
すでに地図、相関図、ソマリ群雄割拠之図、口絵のカラー写真、カバー案、帯コピー案、年表、参考文献などをどしどし作り、
進めている。
本文もエピローグで、マラソンに喩えれば、いよいよスタジアムに入ったところだ。
ところがここで止まってしまった。
書けない。ゴール目前で足がつったマラソンランナーのようだ。
正確に言えば、書きたいことがありすぎる。
今回の本では2009年と2011年の話しか書いていないが、その後今年(2012年)に2回もソマリランドとソマリアに行っているし、
日本にいるときもソマリ兄妹とつきあいを深め、特に兄とはソマリの氏族や政治の話にうつつを抜かし、海賊の裁判に行き、毎日のようにソマリ・ニュースを読み、いっこうに上達しないソマリ語学習に励んでいる。ソマリの友人から「今月は厳しい」とか「ノートパソコンがほしい」と言われると、仕送りもしたりして、ほとんど海外在住のソマリ人「ディアスポラ」のようだ。
その間、ソマリランドでは「政党を選ぶ選挙」があり、東部ではマイノリティ氏族が「カートゥモ国」という”独立国家”を旗揚げした。
私は目の前で人がナイフで刺されるのを目撃し、ソマリランドの家庭に初めて食事に招かれ、またその後は、知り合いになったお宅に通い、
ソマリの家庭料理を習った。とくにヤギの骨付き肉スープが得意だ。
そういえば日本の中古車輸出会社の新聞広告をソマリランドの各紙に打つという仕事をなぜか引き受けてしまい、
悪戦苦闘したこともあった。
いっぽう、モガディショでは戦闘は減ったものの、テロや暗殺が日常化している。
知り合いになったジャーナリストが何者かに暗殺され、また別の友人のジャーナリストもピストルで撃たれ、
意識不明の重体に陥ったが二度にわたる大手術の結果、一名をとりとめた。
私自身、戦闘に巻き込まれ、あわやこの本が遺作になるところだった。
ソマリア全体ではアル・シャバーブの勢力が格段に衰え、暫定政権とその同盟軍が南部ソマリアの大部分を奪回しつつある。
11月には「新政府」が誕生。約20年ぶりに公式の「中央政権」が復活し、いちおう無政府状態ではなくなった。
とはいうものの、その政府は軍事的にはケニア軍とエチオピア軍とアフリカ連合の多国籍軍に支えられ、資金的には国連や欧米諸国、湾岸諸国などに支えられた「文楽」みたいな政府だし、
政府軍といっても各氏族からの「出向」兵士の集合体で、政府軍自体が「多国籍軍」みたいなものである。
さらに南部ソマリアだけでも、政府軍のほかに「ガルムドゥッグ国」「ヒマーン・イヨ・ヘーブ」「アルスンナ・ワルジャマア」といった「自称国家」「自称政府」がいくつもあり、
海賊の少なからず存在する。氏族抗争も再燃している。
そして、海賊国家プントランドではイスラム過激派と政府軍の戦闘が激化し、また海賊の勢いは衰えていない。
それとは別にソマリランドを国際社会が認めることが、ソマリランドの人々を助けるばかりか、
プントランドの海賊を取り締まり、南部ソマリアの紛争や治安の悪さを緩和させる唯一最良の方法だということも訴えたい。
プントランドと南部ソマリアの人々や政府も、認めはしないが、ソマリランドを手本に国を立て直していこうとしている。
結局そうなるしかない。
あ、そうそう、国連が昨年「ソマリ全土で60年に一度の大飢饉」という虚偽の発表をして、カネを集めたこととか、
ソマリア暫定政権の予算のうち70%が使途不明金だったとか、結局国連もソマリアのヤクザ式ビジネスに加担しているだけじゃないのかとか……
……なんて、ずらずら書いていたら、とりとめがなく、この本で著者が何を言いたかったのかがわからなくなる。
ていうか、私は何が言いたいのだろう。
私がプロデューサーならきっとこう言うにちがいない。
「何もかも、書きたいことを全部書くわけにはいかないよ。整理して優先順位をつけなきゃ。
今回書けなかった分は無理して突っ込むことはないよ。次回、別の本に書けばいいんだから」
人には言えても、自分ではできないのだ、これが。
締め切りまであと2日。
にゃあ!!
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Comment
日本で初めての(世界でもまれな)本格的なソマリランド+ソマリア情勢入門の本になりそうですね。みらぶ~、移民に続くヒット作になることを願っています。
最近はアグネス・チャンが「ソマリアに行く」と言って募金を集めて、ハルゲイサへ行って帰ってきて顰蹙を買ったとか、旅ドルとやくみつる夫妻がハルゲイサへ行ってきたとか…ソマリランドを巡るニュースが多いです。ブータンの次はソマリブームに?
http://ameblo.jp/riekojpacker/archive1-200906.html