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2012年に読んだ本ベスト10

公開日: : 最終更新日:2013/01/08 高野秀行の【非】日常模様

毎年恒例の「私が今年読んだ本ベスト10」。私が読んだ本だから、今年出版のものとはかぎらない。
とはいうものの。

今年はノンフィクションがひじょうに豊作で、最初に作ったリストでは、ベスト20になってしまった。
さんざん迷った挙げ句、同じくらいの評価なら出版が新しいもの、あるいは世間的にあまり有名でないものを優先することにした。

<ノンフィクション ベスト10>
1.『ピダハン――「言語本能」を超える文化と世界観』ダニエル・L・エヴェレット著、八代通子訳(みすず書房、2012)

これはあまりに強烈な本だった。神も神話もない民族なんて信じがたい。私の(勝手な)結論は「ピダハン世界こそが『エデンの園』だったのではないか」。クリスチャンの著者が打ちのめされる姿がなんとも痛快。

2.『狼の群れと暮らした男』ショーン エリス、ペニー ジューノ著、 小牟田 康彦訳(築地書館、2012)

 まさか『ピダハン』に匹敵する本があるとは!というのが率直な感想。だって「野生の狼の群れに受け入れられて一緒に2年過ごした」って、秘境の先住民みたいに言うけど、野生の狼なんですよ。著者が狼の言語を自在に扱えるのもすごい。あと、個人的には、「狼は平和だと子供を作らない。子作りさせるためには『敵』が必要」という箇所が鮮烈だった。少子化対策は福祉じゃないのか、と。

3.『人間仮免中』卯月妙子(イーストプレス、2012)

 私がブログでお薦めした前後から急に売れ出したから今さら言うこともないだろう。内容がショッキングで見逃されがちだが、
この作品はひじょうに高い技術で作られている。そこがよかった。

4.『空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか』ジョン・クラカワー著、海津 正彦訳(文春文庫、2000)

 クラカワーの文章は冷静で乾いて、それでも人間味にあふれている。自ら一流の冒険家にして優れたノンフィクション作家。
角幡唯介にはこの路線で行ってもらいたい。

5.『飼い喰い』内澤旬子(岩波書店、2012)

 内澤副部長の現時点での最高到達点だと思う。文庫化のおりにはぜひ、その後の気持ちの揺れを書いてほしい。「ブタ、また飼いてー!」ってしょっちゅう言ってたしね。

6.『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』水谷竹秀(集英社、2012)

 フィリピンと日本の両方を丹念に取材していて、ひじょうに質の高い作品。日本人男性とフィリピン女性の老カップルが背を向けて手を握り合っているカバー(著者自身が撮影)は、今年のベストカバー賞をあげたい。

7.『越境フットボーラー』佐藤俊(角川書店、2012)

 アジアや中米など、辺境を転々としながらサッカーを続ける選手たち。上昇志向ではなく水平思考がこれからの時代を生きていくうえでとても参考になる。ていうか、生まれて初めて「サッカーっていいな」と思えた本。しかし、イリアンジャヤでプロのサッカー選手をやってる日本人がいるとは思わなかった。

8.『バタス――刑務所の掟』藤野眞功(講談社、2010)

 これも職人気質を感じさせる私好みの本。主人公の日本人受刑者より、フィリピンのすさまじい刑務所世界の話が強烈だった。フィリピンの縮図ではないか。『日本を捨てた男たち』と合わせて読むとなお面白い。

9.『旅のうねうね』グレゴリ青山(TOKIMEKIパブリッシング、2012)

 「旅」というものをこれほどリアルに感じさせてくれる本に久しぶりに出会った。旅は些細なところに宿り、振り返ったときにはもう消えている。そんな旅人の感傷を笑いの牛皮に包んで読ませる老舗の和菓子みたいな作品群。あー、私もたまには旅に出たい。

10.『はるか南の海のかなたに愉快な本の大陸がある』宮田珠己(本の雑誌社、2012)

 単なる変な本の書評集――なんだけど、宮田部長が書くとどうしてこんなに魅力的になるのか。部長のここ数年のベスト本だと思う。

 その他、当然ベスト10入りしてもいいが、「売れてる」とか「著者や作品がすでに有名」という理由でベスト10からはずしたものに、
『「黄金のバンタム」を破った男』百田尚樹『ハーメルンの笛吹き男』阿部謹也『評伝 ナンシー関 「心に一人のナンシーを」』横田増生『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』高橋秀実などがある。
 

<小説ベスト10>
 ノンフィクションにひきかえ、小説は不作の年だった。なんとベスト8までしか選べないとは。しかも、そのうち5作は
ベストセラー。他にも読んだのだが、結局「当たらなかった」としか言いようがない。

1.『ストリート・キッズ』ドン・ウィンズロウ、東江一紀訳(創元推理文庫、1993)

 つい最近ブログで紹介したばかりなので、詳細は省くが、これはよかった。おかげで英米小説を再び手に取る気力がわいてきた。

2.『カリブ諸島の手がかり』 T S ストリブリング、 倉阪 鬼一郎訳 (河出文庫、2008)

 1930年代に書かれた、カリブ諸島の辺境を舞台とした推理小説にしてアンチ推理小説。「ほんとうに凄い作品はそのジャンルの初期に出尽くしてしまう」という私の仮説を証明してくれるような刺激的な短編集だった。

3.『闇の伴走者: 醍醐真司の猟奇事件ファイル』長崎尚志(新潮社、2012)

 マンガの作風を鍵に事件を追っていくという最高に私好みのミステリ。長崎さんのストーリーテリングはまさに天才。続編も期待したい。

4.『64』横山秀夫(文藝春秋、2012)

 殿の訪問をきっかけに吹き出す藩のお家騒動。武士の意地と派閥の利権がぶつかりあう壮絶な戦いは意外な展開を見せる…横山秀夫が挑む時代ミステリ超大作!!…だったような気がするが、ちがったっけ。

5.『三十三本の歯(老検死官シリ先生)』コリン・コッタリル著、雨沢泰訳(ヴィレッジブックス、2012)

これは一位にしてもよかったのだが、第一作(前作)の『老検死官シリ先生がいく』を読まないと理解困難という欠点を抱えているので、この順位。でも、前作から読めば最高。みんなでたくさん買って、続編が翻訳されるようにサポートしましょう!!

6.『楽園のカンヴァス』原田マハ(新潮社、2012)

これも今さら紹介するまでもない。マハさんの美術モノはまさに他の追随を許さない。

7.『歪笑小説』東野圭吾(集英社文庫、2012)

 文芸界の馬鹿馬鹿しく古くさい習慣や利権の構造を暴くという恐ろしい短編集なのに、予想もできない空中一回転逆ひねりで、最後はみな「いい話」になる。これは東野圭吾作品でいちばんよくできたミステリのように私は思うのだが。最後の「広告」まで小説なのが最高。

8.『紙の月』角田光代(角川春樹事務所、2012)

 前半は正直退屈だが、真ん中くらいから猛烈に加速していく。現実にも起こりうる事件だが、犯人の心情はこういう小説でないと
描くことはできない。それにしても角田光代は怪物だ。

以上です。

付け加えれば、スティーブン・ミルハウザーの『ナイフ投げ師』(白水社)を毎晩、寝る前に布団の中で楽しんでおり、読了すれば、当然ベスト10入りするのだが、なにしろ超寝付きのいい私は毎晩2,3ページしか進まない。このままでは来年のベスト10入りも微妙な情勢だ。

来年こそは仕事を最大限に控え、断るべきものは断固として断り、好きな本を読んだり、酒を飲んだり、旅をしたりして過ごしたい。

それではみなさん、今年もありがとうございました。
よいお年を~

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