長井健司、ミャンマーに死す
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最終更新日:2012/05/28
高野秀行の【非】日常模様
毎日このブログではお気楽な話題を提供していたが、
ミャンマー情勢は緊迫の一途をたどっていた。
私のところにはヤンゴンや日本の関係者から頻繁に電話が入り、
ほぼリアルタイムで情勢が伝えられていた。
それをあえて書かなかったのは、書き方がわからなかったということもあるし、
私が自分の目で確認しないことについて、ことさらに騒ぎ立てたくないという気持ちからでもあった。
しかし、さすがに27日(木)は話がちがってきた。
まず、ヤンゴン在住の友人Kさんから連絡が途絶えた。
彼は昨日まで、「今、軍が銃を発砲してます。うちのスタッフが確認したし、銃声は今も聞こえています」と電話してきたのだが、それもない。
続いてその晩、ミャンマーの写真を撮り続けている後藤修身氏より、
「今日はたいへんなことになっている」という電話が入った。
「市内は真っ暗だし外出できないからはっきりしないが、そこかしこで銃声が鳴り響いている」という。
さらに、二時間後、再び後藤さんより「日本人カメラマンが撃たれて死んだという知らせが朝日新聞の記者から入った」と電話があった。
なんでも、まず外電から情報があり、朝日の記者が身元確認のため、ミャンマー写真家として知られる後藤さんに問い合わせたらしい。
もちろん、後藤さんは日本にいるからちがう。
また少しして、後藤さんより「そのカメラマンの名前は長井さんというらしい」という報が入った。
私は心当たりがなかったが、何かすごくいやな予感がした。
ほとんど同時に、今度は18年前、ムベンベを探しに一緒にコンゴへ行った高林さんという人からメールが届いた。
「テレビで見たけど、亡くなったカメラマンはあの長井健司じゃないか?」
あっ!と思った。
長井健司さんとは、私たちの遠征の前、一緒に怪獣探検をして番組を作りたいと申し出たテレビ製作会社のプランナーである。
あわててテレビをつけたら、報道ステーションで長井さんの映像が流れていた。
20年近く会っていなかったが、まぎれもなく、20年前に会った長井さんその人だった。
20年前に会ったときの顔そのままであった。
「幻獣ムベンベを追え」にも書いたが、長井さんは「こんな純粋な人がテレビ業界でやっていけるのか」と探検部の学生である私たちが心配になるほどの人だった。
結局番組は実現しなかったが、彼はフットワークが軽く、海外慣れもしており、
すっとコンゴに飛んで、テレ湖至近距離のボア村まで行ってしまった。
長井さんは大学卒業後、アメリカの大学院に行っていたから、
言葉もできるし、海外にも臆することがなかったらしい。
なによりも「行きたい!」と思えば、行ってしまう人だった。
私は彼がすーっとコンゴの核心部近くまで行ってしまったことに衝撃を受けた。
資金があり海外経験があるプロの社会人とのちがいを思い知ったのだ。
そして私たちはリンガラ語という現地語を習い始めた。
ひとえに、「このままでは彼に勝てない」という焦りからだった。
そしてそれは、私が大学卒業後も現地語にこだわり続けるさきがけともなった。
あれから20年近くがすぎた。
コンゴの遠征後、長井さんとは電話で話したことはあったように思うが、
じかに会ったことはない。
長井さんがビデオ・ジャーナリスムの世界に入ったというのも聞いていたが、
具体的に何をしているのか知らなかったし、ましてや50歳になる今も最前線で活動しているとは知るよしもなかった。
20年ぶりに彼の顔を見たのがテレビのニュースだったというのは皮肉にすぎる。
しかも、私がアフリカを離れてから、ずっと入れ込み続けていたミャンマーでのことだ。
長井さんはどうやら流れ弾にあたってしまったらしい。
彼の死ははからずも、一般の日本人に今回のミャンマーの動乱劇を激しく印象づけることとなった。
日本人は、「邦人」が犠牲にならないと、ミャンマーなどにこんなに関心をもたないからだ。
そういう意味では、彼の死の意味は大きかったと思うが、そう思わないとやってられないというのが正直なところである。
音楽好きで、アメリカの大学院でアメリカのフォークソングを人類学的に調査研究してたんだけど、
「音楽の友」に入社しようとしたら、「そんな変なやつ、いらない」って簡単に落とされちゃったよ、ははは…と笑っていた長井さんの柔らかい笑顔を今もありありと思い出す。
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Comment
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「ミャンマーで日本人が死んだ」と聞いたので、まさか高野さんでは・・・と思って久々にのぞいてみたら・・・・
長井さん、1回か2回しか会ってないと思うけど、好印象だけ残っています。
ご冥福をお祈りします。
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今朝、フジTV系列だけが撃つ兵士と撃たれて倒れる長井さんの瞬間映像をかなりにわたり何度も繰り返し放映していた。
流れ弾ではなく近距離で真正面から撃たれたのは間違いないとボクは思ったが。この行為(フジTVだけが放映したこと)はありですか?
遺族の感情は。やりきれないですよ。ぼくはもうこの映像は見たいとは思いません。
他のTV局は同じ映像(長井さんが撃たれたのは流れの中の一場面です)を流していたのですからたぶん自粛したのかもしれません。
確認してはいませんが、おそらく例のYouTubeには出ているのかな。
いやだな!
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ここ数日出かけててブログ見れなくて・・・
個人的には今「ミャンマーといえばサンスーチーより高野秀行」だから、
高野クンの動向が気になってたよ。
最近ブログも更新されてたし、
ミャンマーへ行くようなことも書いてなかったから、
高野クン自身がどうこうなってる心配はしてなかったけどね。
ただ今後も実際足を運ぶことがあるかもしれないだろうから、
そのときはくれぐれも気をつけて。
覚えてなかったけど長井健司さんとは縁があったんだね。
今ムベンベ開いてみたらホント書いてあるわ。
長井健司さんがこんな目に合わなくても
高野本でミャンマーのことは日本人に関心持たせられるのに・・・
残念だね。
ご冥福をお祈りします。
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ウェブサイト作成業者も現れ、ミャンマーもインターネット社会になりつつあります。 これからは、新興国が伸びるとおもいます。