*

『謎の独立国家ソマリランド』PV&オタク本の魔力

公開日: : 最終更新日:2013/03/19 高野秀行の【非】日常模様

『謎の独立国家ソマリランド』発売1カ月を記念して(?)、
プロモーション映像を作った。

私が作ったのではもちろんなく、本の雑誌社のカネコッチが作ってくれたのだ。
冒頭はいきなり戦闘シーン。これは本書のエピローグで軽く触れている去年11月に私が南部ソマリアで遭遇したもの。
同行していた現地テレビ局のスタッフが撮影していたのだ。

今でもこの場面をみるとその時の緊迫感を思い出し、戦慄が甦る。

さて、そのあとは画像を並べ、バックにはどこから引っ張ってきたかわからない
コピーフリーの音楽がかぶせてある。
この脳天気なロードムービー風の曲がなんともいえない味わいで、
本書のムードに合っている。

カネコッチは本書の地図作りでも手腕を発揮してくれたが、本当に職人である。
このPVが販売促進に少しでも役立ってくれればと思うが、そうでなくても見るだけで面白いので、
ぜひいろんな人に見ていただきたい。

☆           ☆               ☆


最近、我を忘れてむさぼり読んでしまったオタク本が2冊ある。
1冊は『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラー ガチンコインタビュー集』(白夜書房)

芸能人やプロレスラーのことなら本人より詳しいと豪語する吉田豪が新日系のプロレスラーを中心に
「あのときは実はどうだったのか?」と徹底的に聞いていくというインタビュー。

正直言って、20年も30年も昔のプロレスの話なんかどうでもいいのである。
天龍が鶴田をくさしながらも「鶴田がベントレー乗ってるのを見たのはショックだった」とか
新日の遠征では猪木も一緒になって女湯を覗いていたとか、
北尾とテンタのヤバイ試合をしくんだのがどうやらドン荒川だったらしいとか、
松永弘光がポーゴの悪口をミクシイに書いたのをポーゴが怒って、「マイミク切ってやる!」と言ったとか
世間の役に立たないのはもちろん、
私の人生にも1ミリもメリットはない。
今さらそんなこと知っても何にもならない。

…はずなのだが、もう悲しいくらいに笑える。
吉田豪の言うとおり、60歳になっても70歳になっても彼らは「終わらない修学旅行」を生きている。


もう一冊は鈴村和成『書簡で読むアフリカのランボー』(未来社)

こちらも吉田豪の本と全く同じレベルのおたく本だ。
ランボーが詩人を捨てたあとに何をしていたのかなんて本当にどうでもいい。
本書を読んだあとも、ランボーが詩作もパリも捨ててアフリカで商人になったのは
詩とか芸術とかロマンとか文壇の華やかさとか、そういう虚飾に満ちたあれこれに嫌気がさして
「実務」や「酷暑」という粉飾のない世界に身を投じたとしか思えないのだが、
そのランボーの書簡から無理やり「詩人」を読み取ろうとする。

その情熱はかつて、猪木が試合を5分であっけなく終わらせたりしたとき、
「これは猪木の謎かけだ」とか言って、猪木信者がその意味を深く考え議論したときを彷彿させる。
単に体調が悪かったとか借金取りに追われて試合どころじゃなかったとかなのだろうが、
そう言うと話が終わってしまうので
ファンは無理やりそこに意味を汲み取ろうとした。
幻想が幻想を呼び、何が真実かわからないというか、真実などどうでもいいというほどの幻想バブルが燃え上がっていた。

ランボー幻想は猪木幻想よりさらに延々としかも世界中で続いている幻想バブルなのだろう。
本書も言ってみれば猪木信者ならぬランボー信者が書いているわけだ。
私はランボーはどうでもいいけど、ソマリおたくなので、
当時のソマリランド、エチオピア東部、ジブチという百年ちょい前のソマリ世界に大興奮してしまった。

現在ソマリランド第二の都市で、酷暑の港町ベルベラで火事があり、家が全部燃えてしまったとか、
ガダブルシ(南部氏)の土地である同じくソマリランドのゼイラをランボーがこよなく愛していたとか
エチオピア東部のオガデン地方(ダロッド平氏のオガデン分家の居住区)にはゾウがいて、
現地の人たちはゾウ狩りをしていたとか、
もう鼻血が出そうなほど、おもしろい話が載っている。

著者の過剰なランボーへの思い入れのおかげで、ふつうの歴史本とは桁違いに同地の在りし日の様子が生き生きと描かれ、
オタク本、何の役にも立たないがおそるべしなのであった。

関連記事

no image

プロレスの罠

80年代から90年代にかけて、年齢としては16歳から30歳くらいまで、 私はプロレスにものすごく夢

記事を読む

no image

鼠にも刺青を彫る?!――『バタス 刑務所の掟』

藤野眞功『バタス 刑務所の掟』(講談社)を今頃読んだ。2010年に出たとき、本屋で立ち読みしたが、な

記事を読む

no image

Low Positionの秀作3本

ドキュメンタリーの秀作を3本観た。 どれもLow Positionという制作グループのメンバーの手に

記事を読む

no image

タマキングにカヌーを習う

先週の金曜日、またしてもタマキング(宮田珠己)と一緒に川へ出かけた。 私は来年初めにメコン川を二ヶ月

記事を読む

no image

乃木坂☆ナイツで金メダリストと

今日も、というか今日こそ、アブディンと「トライデム」の練習。 今週末に、ちょっと遠乗りをする予定に

記事を読む

no image

猛暑の高校講演会

 集英社の外郭団体(?)が主催している「高校生のための文化講演会」というものによばれ、香川県と愛媛県

記事を読む

no image

クールだけど超目立つ

 『謎の独立国家ソマリランド』、ついに昨日からAmazon.comで予約受付が開始された。

記事を読む

no image

発売が悲しい

まる一日かけて、『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫で1月8日発売予定)の 校正と、「文庫あとがき

記事を読む

no image

南米の超古代文明!?

日本唯一、世界でも二人しかいない「カーニバル評論家」で、 『カーニバルの誘惑−−ラテンアメリカ祝祭

記事を読む

帰国しました&怪談本

ミャンマー納豆取材旅行を終え、金曜日に帰国した。いつもは誰も知らないものを探す私だが、今回は「誰もが

記事を読む

Comment

  1. 惑星 より:

    この宣伝動画は熱いですね。前にブログに書いてあった、ジープが爆発炎上して高野さんが死にかけたのとは別なんでしょうか。
    文庫が出てから買おうとか思ったのですが、今Amazonで買いました(笑)

  2. 高野 秀行 より:

    >惑星さん
    お買い上げありがとうございます!
    この動画はブログに書いた事件と同じものです。
    ただ、『謎の独立国家ソマリランド』ではこの事件についてはエピローグでちょっと触れているだけですが。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇のお知らせ

高野さんより、「デビュー35周年記念・自主サバティカル休暇」のお知らせ

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

→もっと見る

  • 2025年4月
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    282930  
PAGE TOP ↑