世界はまだまだ広く、日本人にもスゴイ人たちがいる
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最終更新日:2013/03/25
高野秀行の【非】日常模様
まずはお詫びから。
『謎の独立国家ソマリランド』で2ヵ所誤りが見つかった。
正確に言えば、知人よりご指摘を受けた。
まず、P.262、海賊国家プントランドのところで、
「プントランドというのはダロッド平氏の協同組合みたいなものなのである。もっと言えば、日本プロ野球連盟みたいなものだ」
と書いたが、「日本プロ野球連盟」などという組織はない。
私はNPBという略称で憶えていたため勝手にそのような名称をでっちあげてしまった。
正解は「日本野球機構」。
アマチュアは一切参加しない組織なのに、日本語の名称には「プロ」が入らないのである。
もう一つは、P.159。
世界唯一のソマリ系日本人であるスグレさんのことを「東北大で獣医学の博士号を取得」と書いたが、
東北大には獣医学部がないという。
スグレさんは家畜の人工授精の研究が専門と聞いたので、畜産学で学位を取ったのかもしれない。
この辺はスグレさんに今確認をとっているところである。
いずれにしても、初歩的な誤りであり、大変お恥ずかしいし、読者と関係者には申し訳なく思います。
次の増刷で直したいので、早く売れてくれるよう祈っています。
しかし、今回の本は情報量が莫大なので、固有名詞や年月日、論理の整合性などを、すごく丁寧にチェックした。
とくにソマリの氏族や固有名詞については念には念を入れた。
なのに、意外に日本の部分でこういう見逃しがあったから、がっかりだ。
ソマリのほうでも完璧ではないかもしれない。
読者のみなさんも何か間違いを発見したら、すぐにお知らせ下さい。
増刷のたびに直しますので。
☆ ☆ ☆
先月、新潮社のPR誌『波』で、トレイルランの第一人者・鏑木毅氏と対談を行ったが、
その鏑木さんの新刊『アルプスを越えろ!激走100マイル 世界一過酷なトレイルラン』(新潮社)が発売になった。
アルプスのモンブランの周りをぐるっと160キロ回り、その登りの総計は9000m以上という超過酷なウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)で
過去日本人最高の3位入賞を果たした鏑木さんの挫折に満ちた人生やUTMBの魅力などが存分に語られている。
私がいちばん面白いと思ったのは、この世界で最も過酷なレースに、40代半ばの鏑木さんがまだトップランナーとして君臨していること。
そればかりか、2007年と2008年を連覇したのはマルコ・オロモというイタリア人選手なのだが、このとき彼はなんと58歳と59歳だった!!
オロモ選手が超人であるのは間違いないにしても、超過酷なレースなのに、なぜこんなに高齢者が強いのか。
それはウルトラトレイルランには「人生経験」が必要であること、全身を使った運動なので、1ヵ所や2ヵ所の故障はカバーできることが大きな要因としてあるらしい。
詳しくは本書を読んで欲しい。
若い人はもちろん、若くなくてトレイルランに挑戦しようという意志がない中高年(私を含む)にもひじょうに面白く読め、
すごく元気が出るし、なんだかじっとしてられない気持ちになる。
私はその日からジョギングを再開してしまった。
☆ ☆ ☆
世界には本当にいろんな大会がある。
私がかつて参加したサハラ・マラソンもそうだ。
いまだに、芸能人がよく参加するモロッコのサハラ・マラソンと間違われるが、
私が参加したのはモロッコに占領されている西サハラの人々を支援するという名目のもとにアルジェリア領で
行われているマラソンだ。
市民ボランティア活動の一環というのが、本当に驚きだった。
(詳しくは拙著『世にも奇妙なマラソン大会』ご参照ください)
結局のところ、世界というのはネットで狭くなっているようだが、
実はまだまだ広いのだ。
この間は、チリのアタカマ砂漠で開催されたアタカマクロッシングというこれまた超過酷なレースに参加した日本人がいた。
これは7日間かけてチリのアタカマ砂漠(約250km)を縦走するアドベンチャーレースで、食料、寝具など約10キロを全て背負い、高度(最高3300m)、
昼夜の温度差(約40度)という過酷な条件の下で行われるそうだが、出場したその日本人、濱田圭司郎選手はなんと全盲。
理学療法士の仕事をするかたわら、マラソンを走ってきたが、今回は
「在日在勤であり砂漠レースをこよなく愛する韓国人トライアスリー
トの金基鎬(キム・ギホー)が、「日本人視覚障害者との砂漠レース出場を通して日韓
関係の向上に貢献したい。」という主旨の呼びかけを行い、それに賛同したもの」とのことだ。
手を紐で結んで走るのはそれだけでも当然負担だし、アスファルトとちがい、凹凸の激しい砂漠を目の見えない人が走るというのは
想像を絶している。
しかし、濱田さんはそんな悲壮感はさらさらなく、出発前も私宛のメールに
「敬愛するタイガージェットシン・上田馬之助組のような奔放さ
で、自分たちにしかできないレースをしたい」
と脳天気に語っていた。
濱田さんは高野本の愛読者で、下北沢のB&Bで行った私のトークイベントにも来てくれていた。
結果は見事に完走!!
濱田さんからはこんなメールが来た。
「足の損傷がはげしく、チリからスリッパで帰国して参りました。
B&Bでパワーを注入していただいたので、苦しみながらもどうにか完走メダルを奪
取することが出来ました。
「死の砂漠」のふれこみ通り、バラエティーに富んだ砂漠で、道無き・岩・塩・砂・
山・ブッシュ・川・で250キロは気の遠くなる距離でした。
一日に10時間以上を動き続け、夜はテント生活をしてみて感じたことは、マラソン
ランナーの自分にとって異種格闘技戦のようなものだということでした。
ガードを固めて相手の攻撃をひたすらしのぎつつ、勝機を待つしかありませんでした
。
いつ脱落してもおかしくない位置をうろうろしながら、どうにかしのぎきり、スモー
ルパッケージホールドで最終ステージ、すんでのところでスリーカウントを奪ったよ
うな内容です。
歯車がひとつ違っていれば、どうなっていたか分かりません。今はほっとしています」
狂虎コンビ、すごい!!
濱田さんには是非その詳しい経緯をどこかで喋るなり、書くなりしてほしいと思う。
そして、世界はまだまだ広いと同時に、日本人にもすごい人たちがいるのだと
頼もしく思うのだった。
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