*

編集者は辛いよ

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

私がプロデュースするアブディン『わが盲想』がいよいよ終盤にさしかかっている。

本来なら2月いっぱいで初稿をあげる予定だった。
「それができなかったら僕は切腹するよ」と断言したアブだが、腹は切らないどころか、ますます巨大化するばかりで、原稿は遅々として進まない。

放っておいても明日は来ないと判断した私は、彼をポプラ社で書かせることにした。
「簡易缶詰」である。

担当編集者のSさんが頑張り、この1ヶ月は週に2,3回のペースで彼はポプラで原稿を書き、やっと初稿で最後までこぎつけた。

だが、それはあくまで連載用の初稿。
まだまだ粗いし、メリハリがないので、
昨日はアブ、Sさんを呼び、改善策を提案。

アブは本当にアフリカの才能あるサッカー選手のようだ。
アフリカの選手は驚異的な身体能力を誇り、乗っているときは信じられないようなすごいプレーを見せるが、いったん集中力が切れると全然さえない。

アブもそうで、頭の良さ、言語センスの鋭さ、乗ってるときの集中力はすごいのだが、まあ、とにかく気が散りやすいし、自分がちょっとおもしろくないと思いはじめると、あからさまにテンションが落ち、やる気を失う。

彼をなだめすかしながら、4時間くらい頑張って相談し、ラストまで道筋をつけたのが昨日の晩。

そして、今は都内某所のスタバで彼が書き直すのを横で待っている。
改稿を私が見て、イマイチなところがあれば、その場で書き直してもらい、
よければそのまますぐSさんに送るという段取りなのだ。

しかし、案の定、アブはなかなか集中しない。
まず9時に仕事を始めるはずが実際に店に来たのは11時半だし、
そのあとはプロ野球の話をはじめ、私もついつられて今年のカープの状況などを
分析していたらいつの間にか2時。

アブはまだ話したそうだが心を鬼にして、執筆に向かわせる。
それでもアブは、「腹が減った。何か食べたいけど、やめといたほうがいいかな…」とか「パソコンのバッテリーが気になるんだよね…」とか、ごちゃごちゃ言ってなかなか集中しない。
イライラするなんてもんじゃない。

あー、俺が自分で書けたらすぐ終わるのに…!!とつい思ってしまう。
実際、自分が頑張るより、人を頑張らせるほうが数倍難しい。

編集者はいつもこんな気持ちなんだろうなと、初めて心底彼らに同情した。

…って書いたところで、思い出した。
月曜締切の原稿、まだ何も手を付けてないじゃないか!!
ていうか、完璧に忘れてた!!
テーマを何にするかも決めてない。

今日はアブ原稿で夜までかかるし、明日は『わが盲想』の全体を最初から通して読んで、改善ポイントを探すという大仕事が待っている。

それに、原稿を書くのはなかなか大変で、ちょっと時間ができたからといって、
スパッとその世界に入れるわけではない。
それなりに仕事に集中できるまで時間がかかるのだ。

担当のMさん、こんなわけで私の原稿は少々遅れるかもしれません。
おきもちはよくわかりますが、どうぞ辛抱強くお待ち下さい。

関連記事

no image

まるでカフカの「審判」

  「オシムの言葉」(集英社文庫)などユーゴ・サッカー三部作で知られる木村元彦氏から 「争うは本意

記事を読む

no image

東京うんこナイト

探検部の後輩が2月5日、東京うんこナイト 〜ウンコロジー入門。「のぐそ」は地球を救えるか?〜」とい

記事を読む

no image

ハルキとタマキ

「本の雑誌」草むしり早弁号(5月号)が届く。 連載の辺境読書では今回は伊沢正名『くう・ねる・のぐそ

記事を読む

マスクマンになりたい

旧ユーゴ(主にコソボ)の取材が終わってだいぶ経つ。 ブログで写真をお見せしようと思っていたのだ

記事を読む

no image

「中国人の本音」

人気ブログ「大陸浪人のススメ」の管理人で、それを書籍化した「中国人の本音 中華ネット掲示板を読んで

記事を読む

no image

銀河ヒッチハイク・ガイド

 「しばらく新刊を断ち、家にある未読の本を読もう」という“新刊ラマダン”をやっていたが、実はユーフ

記事を読む

no image

小さいおうち

中島京子の直木賞受賞作『小さいおうち』(文藝春秋)を読む。 まあ、書き出しから文章がすばらしい。

記事を読む

no image

ここでは不審者

セイシェルはなにしろ高級リゾート地だから、カップルと家族連れしかいない。 一人旅の日本人なんて存在が

記事を読む

no image

「未確認思考物隊」出演者

関西テレビ「未確認思考物隊」のプロデューサーと会い、 やっと共演する人たちの名前がわかった。 MC(

記事を読む

no image

日本の路地を旅する

いやあ、昨日は日本がカメルーンに勝って驚いた。 誰がどう見てもダメだというチームが勝ってしまった

記事を読む

Comment

  1. 小川祥子 より:

    こんばんは、メモリークエスト1&2両方に応募した小川祥子です。(インドとメキシコです)
    高野さんの作品は全て読んでいます。大ファンです。
    今回の「謎の独立国家ソマリランド」を読んで興奮のあまりキーボードを打っています。

    これは間違いなく高野さんの最高傑作です。
    開いた口をふさぐ間も、目から落ちた鱗を拾う暇もなく読了しました。
    読み終わっても、まだ読んでいたい、ソマリのことを知りたいと思うほど。

    日本はもちろん世界中で読まれる価値があると思うのですが、日本の戦国武将の例が翻訳版でどうなるか、が今から心配です。
    しかしあれだけの取材とカート代(笑)をかけた作品がたったの2310円。
    高野さんの本をずっと読んでいたいので、好調のようですが大ベストセラーになることを祈っています。

    今後も我々読者の知らないところへ行き、読んだことのない世界へ連れて行ってください。
    応援しています。
    もちろんtwitterもフォローしてます。
    arroyo@arroyo0022

  2. 高野 秀行 より:

    >小川祥子さん、ありがとうございます!

    日本の戦国武将の喩えは賛否両論です。
    私の感触では4人に3人は「わかりやすい」と言い、1人は「かえってわかりにくい」と怒っているようです。
    否定派は外国の小説やルポに慣れていて、見知らぬ固有名詞を苦にしない人、日本史が得意でない人、真面目な研究者などのようです。

    もし、可能なら、武将に喩えないバージョンも作ってみたいです。
    そうすれば、海外翻訳のときにラクですしね。

    • 小川祥子 より:

      お返事ありがとうございます。
      感激です。

      武将に喩えないバージョンも是非是非
      読みたいです。
      ファミリーツリーと地図があれば
      判りそうな気もします。
      そのときは写真ももっとたくさん
      掲載していただきたい!

      絶対に世界中で読まれるべきなので
      今から準備しておいた方が良いと
      思いますよ。

      高野さんがはまったほどのソマリランド
      いつか行ってみたいです。

      腰はいかがですか、
      くれぐれもご自愛くださいませ。
      応援しています。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年10月
    « 3月    
     123456
    78910111213
    14151617181920
    21222324252627
    28293031  
PAGE TOP ↑