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ぶったるんでるのか、それとも…

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

最近どうにも体調がわるい。
3,4年ぶりに腰痛が再発したのを皮切りに、これまた5年ぶりとも6年ぶりともつかない歯痛、
先々週は風邪をひき、先週は喉をやられて声が出なくなった。

「一体俺の体に何が起きたんだろう?」とつぶやいたら、
「ぶったるんでるんじゃない?」と妻に言われた。

ぶったるんでる?
思ってもみなかった解釈だが、たしかに『謎の独立国家ソマリランド』が発売されてから諸症状が一気に吹き出した。
そしてソマリランド以降、イベントだとかインタビューだとかアブディンのプロデュースだとか言いつつ、
ほとんど仕事をしていない。
なぜか仕事が途切れている(仕事の依頼自体が全然ない)し、かといってソマリランドが順調なので「何かせねば」という切迫感もない。
気候もいいし、朝酒、昼酒もしばしばだ。
飲むと眠くなるし、まあ、「ぶったるんでる」と言われて返す言葉はない。

しかし、言い訳がましいが、別の解釈もあるんじゃないかと思う。
『謎の独立国家ソマリランド』が順調すぎるってことだ。
主要な新聞や雑誌の書評で片っ端から取り上げられているし、売上げもまったく落ちる気配がなく、
発売後2ヶ月半たって、むしろ上がってきている感すらある。

当然嬉しいはずなのだが、どうにも腑に落ちない。
芥川龍之介じゃないが「漠然とした不安」を感じる。
なにしろあまりに売れない時期が長かった。
文庫はまだしも単行本に至っては、「売れた」と言えるのは24年間やってきて今回が事実上初めてだ。
その不安が高じて体に異変を生じさせているのではないか。

うちで飼っているビビリ犬は、おいしい食べ物をもらうと、にわかに緊張する癖がある。
ビクビクと後ろを振り向きながら肉とか食っている。
不幸な生い立ちなので、幸運が来ると「これは罠じゃないか」と思うらしい。
私は不幸になったことは一度もないが、まあ、似たようなものじゃないか。
実際、2年前、「王様のブランチ」に登場が決まり、放映日の前日に大震災が来襲したなんてすごい「実績」もある。

思えば、かつて腰痛に苦しんでいたときも、たまたま一年くらい、妙に文庫がよく売れていた。
毎月なにがしか重版がかかり、「夢の印税生活ってこれか!」と思ったものだ。
だからこそ、あちこちの整体やら気功やらに通えたのだ。
で、水泳で腰痛は治ったと思っていたのだが、よくよく考えると、腰痛がよくなったのはちょうどリーマンショックで
私の本もピタッと売れなくなった時期と重なっている。
「売れている」というストレスから解放されたのかもしれない。

昨日は「文藝春秋」で『謎の独立国家ソマリランド』がまた大きく取り上げられていた。
書評を書いて下さったのはイスラーム・中東研究の権威で、歴史学者の山内昌之先生。
そんな先生が「最近こんな面白い本を読んだことがない」と言い、ソマリの氏族を日本史に喩えた問題部分についても
「歴史学者としては笑ってしまうくらい凄い」とたいへん好意的に見てくれていた。
読んだあと、嬉しさよりも戸惑いを感じてしまったものだ。

案の定、今日は朝から原因不明の強烈な腹痛に襲われている。
いつになったらこの状況に慣れるのか。それとも慣れないのか。
まあ、単にぶったるんでるだけかもしれないのだけど。

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    • で、今気づいたんですが、「千葉ルー」の著者名を間違えてました。「斎東鉄腸」と書いてしまったけど、「済東鉄腸」でしたね。失礼しました。訂正します。 ReplyRetweetFavorite
    • 「千葉ルー」で思い出したのだが、私の知人は「千葉に何年も住んでいて日本語も話す言語研究者で今は故郷に帰っているルーマニア人」だった。彼女も「千葉ルー」だな。済東鉄腸さんのことを知っているかも。 ReplyRetweetFavorite
    • ハックは奴隷じゃなかったですね。すみません、間違いました。 https://t.co/S39LyxaidJ ReplyRetweetFavorite
    • 斎東さんはもっぱらネットやSNSを利用してルーマニア語を習い、「ひたすら現地で実践」という私の語学とは真逆に見えるが、そのやり方は手に取るようにわかる。ネットを通していながら、斎東さんも「現場主義」なんだと思う。 https://t.co/406lKPRFVW ReplyRetweetFavorite
    • 発売当初からずっと気になっていた話題作、斎東鉄腸著『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、ルーマニア語の小説家になった話』通称「千葉ルー」(左右社)をようやく読んだのだが、予想を上回る興奮と感動にとらえられた。言語と文学をこんな… https://t.co/CbvWvyPHWa ReplyRetweetFavorite
    • 私の誕生日までは待てないですよ笑 7月下旬に出ます。カレンダーは誰か作ってくれる人がいたらいいですね…。 https://t.co/1j0Y7psJYv ReplyRetweetFavorite
    • 『イラク水滸伝』の写真と図版の最終セレクト打ち合わせ、2時間ほどで終わる予定が、なんと10時間もかかってしまった!でもこれで相当いいものになったはず。 ReplyRetweetFavorite
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