*

なぜ妻子持ちは超過酷に挑むのか

公開日: : 高野秀行の【非】日常模様

2013.05.13gekisou
1カ月ほど前、鏑木毅『激走100マイル 世界一過酷なトレイルラン』(新潮社)という本を読んで感銘を受けたばかりなのに、
そっくりな題名の本に出会ってしまった。
その名も『激走!日本アルプス大縦断』NHKスペシャル取材班(集英社)

鏑木さんの本はヨーロッパのウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)という世界的なトレイルランの話だが、
こちらは日本。トランスジャパンアルプスレース。
「走行距離160キm、登りの総計が9600mでエベレスト以上」というUTMBに驚いていたが、
今度のは日本海から大西洋まで南北アルプスを縦断するというものすごいもので、総距離415km、登りの総計は27000mで、UTMBの倍以上。
はっきり言って、コースの過酷さでいえば、日本アルプス縦断はUTMBの比ではない。こっちのほうが「世界一過酷」だ。

といっても比べるのはナンセンス。
UTMBでも鏑木さんのような人はプロのアスリート。
生活の糧や自分の存在意義をかけて猛烈なプレッシャーの中を走る。

いっぽう、トランスジャパンはあくまでアマチュアリズムに則った「究極の趣味」。
優勝の賞金も賞品も一切なし。
それで早い人でも5日、遅い人は8日もかけて、日本列島を縦断して走る。
登山をやったことのある人ならわかると思うが、山を夜に移動するというのは原則としてないはず。
なのに、この人たちは夜を徹して走る。
強風や雷雨の闇の中でも走る。
寝不足でときどき居眠り運転ならぬ「居眠りランニング」に陥る。
ありえないほどリスキーで過酷なのだ。

このレースは超過酷だけど、読んでいるとすごくすがすがしい。
荷物を極限まで減らすため、着ているシャツのタグまで切り落とすというのに、
優勝候補の選手は1キロ以上もする救急キットを携帯している。
というのは、この選手は職業が山岳救助隊員なので、途中で他の選手なり登山客なりがケガなどして立ち往生していたら
レースを即中止して救助にあたるつもりなのだ。

他の選手も、決して他の登山者の邪魔をしてはいけないというのを「掟」としているし、
優勝を目指す人もいれば完走だけを目的とする人もいる。
たいていがサラリーマンなので、レース前の一週間は無理な休暇をとるために猛烈に働いている。
要するに、いっけん「ふつうの人」がまったくふつうでない行為をするというのがこのレースの醍醐味なのだ。

詳しくは本書を読んでいただきたいが、私が意外に思ったのは
参加者28名のうち、おそらくほぼ全員が配偶者もしくは恋人がいて、さらに多くが子供もいること。

こんなレースに出るということは日頃からトレーニングもハンパではない。
つまり、ものすごく時間をとられるわけだから、一人もので、しかも彼氏彼女もいない人たちがやりそうなんだが、
実は妻子持ちばかり。

応援してくれる妻子がいるからできるのか、妻子がいるとこういうわけのわからないことがしたくなるのか。
その辺が知りたくなった。

関連記事

no image

未知動物より既知動物か

妻・片野ゆかの新刊『犬部!』がスゴイことになっている。 発売からまだ2ヵ月経ってないのに、もう4刷

記事を読む

no image

小説家になるのは大変だ!

土曜日、モスク取材とその後の予定について打ち合わせをしていたら、 ホテルの部屋に戻ったのはもう12

記事を読む

no image

花のズボラ飯

久住昌之原作、水沢悦子画『花のズボラ飯』(秋田書店)を読む。 グルメ漫画を読んで、共感したのも初め

記事を読む

no image

離島に電子書籍を!

最近は中東・アフリカのイスラム圏に行き、取材して原稿を書くことが多い。 そういうとき、ネットは便利だ

記事を読む

no image

世の中がキビシイのではなく

二週間ほど前のこと、探検部OBで映像ディレクターの竹村先輩と本の雑誌の杉江さんと 三人で会った。 2

記事を読む

no image

今、日本で最も儲かっているかもしれない輸出業者はこう言った

昨日のブログで書いた調布の中古車輸出会社だが、ほんとうに儲かっている。 半年ほど前、初めて社長に会っ

記事を読む

no image

残念な人

話題の『KAGEROU』の発売日にポプラ社の編集者にたまたま会い、一冊もらったので 昨日読んだ。 内

記事を読む

no image

インドの怪魚ウモッカを探せ!

自分のなかではずっと前から決定していすぎてブログに書くのを忘れていた。 今年の12月中旬から来年の

記事を読む

no image

サッカーの敵

「本の雑誌」バックナンバーのサッカー本特集のコピーを杉江さんに送ってもらい、 それにしたがってサッ

記事を読む

no image

ソマリランドで今、話題になってること

今、やっと日本でもソマリアの飢饉がニュースになってきたようだ。 では、こっちではどうかというと、ほ

記事を読む

Comment

  1. 小川祥子 より:

    こんにちは、昨日のラジオ聴きました!
    いつも思うのですが高野さんの声はとても良い声ですよね。
    今回も物騒なお話を楽しく聴かせていただきました。
    安住さんのナビゲートがまた秀逸。
    東京ガベージコレクションが終わってしまい、とても残念です。
    高野さんがもっとラジオに出てほしいなあと思っておりますが
    『謎の独立国家ソマリランド』が売れているので、その可能性もあるかもしれませんね。期待しております。

  2. 杉江@本の雑誌 より:

    ちょうど私も『激走!日本アルプス大縦断』を読み終えました。すごい大会に普通の人が頭を狂わせて出場していて最高でした。私もこの大会に出たい!!です。

    私の場合、「応援してくれる妻子がいるから」でもなく、「妻子がいるとこういうわけのわからないことがしたくなる」わけでもなく、単にトレーニングしている間は、妻子から逃れられるからです。

  3. HU より:

    高野先生も周りからは過酷に挑む既婚者と思われているに違いありません。
    独り者はきっと、過酷で脱落者も多数出る婚カツレースに忙しいのではないでしょうか。

  4. CHIBASHIYAHAGICHO より:

    NHKのテレビで、このレースの特集番組を見ました。参加者の人間離れした身体能力と精神力に鳥肌が立ちます。極限を体感した者の凄さがほとばしるまくりでした。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

no image
イベント&講演会、テレビ・ラジオ出演などのご依頼について

最近、イベントや講演会、文化講座あるいはテレビ・ラジオ出演などの依頼が

ソマリランドの歌姫、来日!

昨年11月に、なんとソマリランド人の女性歌手のCDが日本でリリ

『未来国家ブータン』文庫はちとちがいます

6月23日頃、『未来国家ブータン』が集英社文庫から発売される。

室町クレージージャーニー

昨夜、私が出演したTBS「クレイジージャーニー」では、ソマリ人の極

次のクレイジージャーニーはこの人だ!

世の中には、「すごくユニークで面白いんだけど、いったい何をしている

→もっと見る

    • アクセス数1位! https://t.co/Wwq5pwPi90 ReplyRetweetFavorite
    • RT : 先日、対談させていただいた今井むつみ先生の『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(秋田嘉美氏と共著、中公新書)が爆発的に売れているらしい。どんな内容なのかは、こちらの対談「ことばは間違いの中から生まれる」をご覧あれ。https://t.c… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 今井むつみ/秋田喜美著『言語の本質』。売り切れ店続出で長らくお待たせしておりましたが、ようやく重版出来分が店頭に並び始めました。あっという間に10万部超え、かつてないほどの反響です! ぜひお近くの書店で手に取ってみてください。 https:/… ReplyRetweetFavorite
    • RT : 7月号では、『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)が話題の高野秀行さんと『ムラブリ』(同上)が初の著書となる伊藤雄馬さんの対談「辺境で見つけた本物の言語力」を掲載。即座に機械が翻訳できる時代に、異国の言葉を身につける意義について語っ… ReplyRetweetFavorite
    • オールカラー、430ページ超えで本体価格3900円によくおさまったものだと思う。それにもびっくり。https://t.co/mz1oPVAFDB https://t.co/9Cm8CjNob8 ReplyRetweetFavorite
    • 文化背景の説明がこれまた充実している。イラク湿地帯で食される「ハルエット(現地ではフレートという発音が一般的)」という蒲の穂でつくったお菓子にしても、ソマリランドのラクダのジャーキー「ムクマド」にしても、私ですら知らなかった歴史や… https://t.co/QAHThgpWJX ReplyRetweetFavorite
    • 最近、献本でいただいた『地球グルメ図鑑 世界のあらゆる場所で食べる美味・珍味』(セシリー・ウォン、ディラン・スラス他著、日本ナショナルジオグラフィック)がすごい。オールカラーで写真やイラストも美しい。イラクやソマリランドで私が食べ… https://t.co/2PmtT29bLM ReplyRetweetFavorite
  • 2024年2月
    « 3月    
     1234
    567891011
    12131415161718
    19202122232425
    26272829  
PAGE TOP ↑