『わが盲想』の意外な落とし穴
公開日:
:
最終更新日:2013/05/17
高野秀行の【非】日常模様
いよいよアブディン『わが盲想』(ポプラ社)が本日発売である。
宮田珠己部長には前もって献本しておいたが、昨日早速こんなツイートを発信してくれた。
「読んだ!読みやすくて面白い。
盲目でこれを書いたのも凄いが、いきなり日本に来るのも凄い。
なのに本人は結構怠け者なところがいい。
しかし、実際に会う前に婚約ってどんな感じなんだろ。」
私はこの本が売れることを確信しているが、一つだけ心配なのは、アブの日本語が上手すぎること。
本書の「はじめに」にも書いているし、私も何度も繰り返しているにもかかわらず、いまだに「あれ、ほんとにアブディンさんが自分で書いたんですか?」
とか「高野さんが書くのを手伝ってるんじゃないですか?」と訊かれる。
いや、私は一切書いてないんだって。
プロデュースというから、なにやら作り上げているような感じがするかもしれないが、
実際にやってるのは普通の熱心な編集者と同じ。
「ここはもっとこうしたほうがいいんじゃないか」とか「この辺はいらないんじゃないか」などと指摘し、
実際には著者に直してもらう。
だいたい私が書いたら私の文章になって面白くないでしょうが。
その介入の程度は大野更紗さんが『困ってるひと』を書いたときとまさに同じ。
才能ある書き手がそうであるように、私がダメだしすると、大野さんもアブも、その指摘を凌駕する書き直しを見せてくれた。
そこを是非見ていただきたい。
アブは外国人なだけでなく盲人でもあるわけだが、そこも意外に読んでいると理解されにくい。
というのは、アブの文章はひじょうに「映像的」だからだ。
情景描写がうますぎて、バッとその光景が目に浮かんでしまう。
本人は音、声、その場の雰囲気、匂いなどを描写しているだけなのに、映像になってしまう。
だからまさか本人が見えてないとは思えなくなってしまうのだ。
まあ、そんな「落とし穴」にも注意して読むと、なおさら楽しく読めると思いますので、ぜひお試しを!!
☆ ☆ ☆
おかげさまで『謎の独立国家ソマリランド』、4刷になりました。
みなさん、ありがとうございます!!
関連記事
-
原宏一氏との対談がウェブ登場
昨日まちがえて「タカタカ対談リターンズ」と書いたが、 「タカタマ対談」でした。 まさか「本の雑誌」の
-
辺境女子作家・名須川先輩デビュー!
『メモリークエスト』で、「日本への身元保証人になってほしいと迫ったミャンマー人のアナン君」と「古今東
-
「イスラム飲酒紀行」気持ちは早くも第2弾
今月25日に発売予定の新刊『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)の予約受付がアマゾンで始まった。 なぜかわ
-
速報 最後の決戦の舞台
バンコクに着いた。 空港から乗ったタクシーの運転手に「タクシン派と軍の衝突は今どうだ?」と訊いたら
-
語学オタクが喜ぶ変な辞書
シャン語の辞書がほしくて、ヤンゴンに移住した私のITの師匠Gさんに訊いてみたら、 さっそく足と
- PREV :
- なぜ妻子持ちは超過酷に挑むのか
- NEXT :
- 謎の独立国家ソマリランド大吟醸拾年古酒