新キャラ・パープル旬子の『捨てる女』登場!
公開日:
:
高野秀行の【非】日常模様
あと二時間ほどで家を出る。旅の準備はだいたい終わったと思ったら、大事なことがまだだった。
内澤旬子『捨てる女』(本の雑誌社)を紹介してなかったじゃないか!
これは本当に面白い本だった。
数日前、寝る前に読み出したら止まらなくなり、一気に読み干してしまった。
その間、本を手から離したのは一度お茶を入れに立ち上がったときだけで、トイレにも行かなかった。
早く寝なきゃいけなかったのに。
「巻を置くを能わず」とはまさにこのことだ。
内澤さんはすでに『世界屠畜紀行』や『飼い喰い』で体験ルポの名手として
『身体のいいなり』で今までにないエッセイの書き手として知られているが、
まだ全貌を明らかにしていなかった。
ブログを読んだり、実際に会って話したことがあったりすればわかるのだが、
内澤さんは「おめえ、死ねっつーの!」という毒舌と、「ううう」と悶え嘆く自虐の人でもある。
今までのルポやエッセイが「白ジュンコ」で実物が「黒ジュンコ」と書きかけたけどそうでもなくて、
従来のルポは白ジュンコ、『身体のいいなり』や『この人を見よ』などは黒ではなくグレー・ジュンコだろう。
で、実物はというと、色で要ったら「パープル・ジュンコ」という感じがする。
強烈で暗めだけど華やかなのだ。
まだ見ぬパープル・ジュンコがついに全開になったのがこの『捨てる女』だ。
四十年以上溜め込んだものを片っ端から捨てていく。
莫大な収集ブツともゴミとも宝物ともつかないものをこれでもかと捨てていく。
しかし本当は何を捨てているのかというと、彼女は「過去」を捨てているのだ。
どさくさに紛れて夫も捨てているし。
自分の過去だけじゃなく、豚を飼った千葉県の廃屋に残っていた他人のモノ(過去)まで捨てていて、
途中から何がなんだかわけがわからなくなるのだが、それでもゆるやかな物語の流れができており、
ひじょうに心地よく読めてしまう。ある意味、デトックス効果があるというか。
そして、読後感もすごくいい。
「断捨離でスッキリ」みたいに浅くない。初秋の風のように、しみじみして爽やか。
それにしても、性転換した能町みね子さんと秘所を見せ合、互いに「へえ、こうなってんだ!」と感心する場面がこれまたさり気なく書かれたのにはぶっ飛んだ。
☆ ☆ ☆
てなわけで、やっと出発の準備整いました。
みなさん行って参ります!
関連記事
-
Let’s go パラグアイ!
残念ながら日本はパラグアイにPKで敗れてしまった。 さぞ落胆している人が多いだろうが、そんな人たちに
-
別ジャンルで2つ上がる
「本の雑誌」2008年1月号が届いた。 2007年度ベスト10に『怪獣記』が6位にランクイン。 昨
-
79人はちと多いのでは…?
上智大学の講義は、先週、実質的に第一回目で マレーシアでジャングルビジネスを営む二村聡さんにお越しい
-
今更アニー・プルーの衝撃
この前、マイクと話していたとき、「アニー・プルーがいい」と言っていた。 私も十年以上も前、まだ早稲
-
『メモリークエスト』見本とどく
初めてのことだが、2日連続で新刊の見本がとどく。 今度はお待ちかね、『メモリークエスト』。 カバー
-
ビールで放射能が保護できる!!
「しん」さんという人のコメントでサイトを開いたら、 こんな記事があった。 なんとビールが放射線を保
-
小説家になるのは大変だ!
土曜日、モスク取材とその後の予定について打ち合わせをしていたら、 ホテルの部屋に戻ったのはもう12
-
ふがいない僕は空を見た
窪美澄(くぼ・みすみ)『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)を読む。 最初の「ミクマリ」という短篇で
-
『謎の独立国家ソマリランド』PVはこちらで
昨日、朝日新聞の書評欄で『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)が取り上げられた。 しかも、なん
- PREV :
- 本の雑誌はみんなの実家なのか
- NEXT :
- 帰国しました&怪談本