究極の野菜はフグ野菜
公開日:
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最終更新日:2014/01/20
高野秀行の【非】日常模様
今年も年初から忙しくなかなか読書の時間がとれないけれど、
読んだ本は当たりが多く、充実している。
その一つが、久松達央『キレイゴト抜きの農業論』(新潮新書)。
有機農家が「日本の農薬は安全」と断言しているのにまず驚いた。
著者は続けて「安全と安心はちがう」と述べる。
本人が茨城県土浦で農業を行っており、原発事故以降に深刻な影響をこうむっており、
放射能汚染についても「土浦の野菜は安全だが消費者は安心ではない」ととてもフェアな見方。
で、本人がたどりついた結論は「フグのような野菜をつくりたい」。
フグは毒があり、毎年何人かは命を落とす危険な食べ物なのに、そのおいしさにつられて
みんなは食べてしまう。
つまり、どんなに危なくても食べたくなるような野菜が究極の野菜なのだ――。
安全と安心を論理的に説明しておいて、この飛躍。すばらしい。
本書は「~であるべき」という正論が一切出てこないので、私のように正論や建前が苦手な人間には
ほんとうに嬉しい。
私も「読むと危険だがそれでもつい読みたくなってしまう」ようなフグ本が書きたいです。
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Comment
高野さんの集英社文庫版は何故か旅先の沖縄のブックオフで、それも100円の棚でよく見かけました。ホテルに戻って読み始めると止まらなくなって・・・。そんなこんなで、文庫版はほぼ全部買い揃えました。もちろん100円で買ったものばかりではありません。
私は福岡県のとある高校の数学教師で、図書館で主に選書を担当しているので、高野さんの本は新刊が出ると大抵入れてます。こっちは無料で読んでしまうので大変申し訳ない。
今も角幡さんとの対談を読んでました。ブログを書かれてるとのことだったので、ちょっとお邪魔を。
ここ数年では、イスラム飲酒紀行と移民の宴が気に入ってます。ソマリランドも興味深かった。
また楽しい著作を期待してます。
拙著ご愛読ありがとうございます!
ただ今、小倉におります。
楽しみにしていた角打ちは台風のため、早めに店じまいして、あちつけませんでしたが、立ち飲み屋と寿司屋は期待以上の雰囲気と味で、大満足中です。こんなに酒飲みに優しい町はそうそうないんじゃないでしょうか。惜しむらくは仕事でなかったらもっと楽しく過ごせたのに…。